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 今月の金子さん

「産業遺産」でいってみる


        ルマの運転免許を取得してはや14年、その間、無事故無違反を通し、おかげさまでゴールド・カードを頂いているわけですが、実は単にクルマを運転しないからに過ぎないので、なんの自慢にもなりゃしません。
         ペーパー・ドライバーに甘んじているのは、一つには「車を買って維持するお金がない」、二つ目には「運転そのものがあまり好きではない」ということがありますが、やっぱり基本的に「歩くのが好きだ」というのが大きい理由でしょう。歩いていると、もちろん疲れるけど、まわりの風景や道端のモノが目に入ってきて、それ以上に楽しいいろいろな発見があるからです。 こういう人間だから、運転していても、ついよそ見をしてしまいかねないので、事故って他人に迷惑を掛けるよりは、おとなしくナビでも務めている方がいいんでしょうね。

        学に入って「近代建築論」という講義を受けたのがきっかけで建築の歴史に興味を持つようになり、そのころはカメラ片手に街を歩きながら、明治から昭和初期くらいまでの古い建物を見つけては写真に撮ったりしていました。
         それまでの、特にあてもなく漫然と歩いているのと違い、いちおうの目的があるのと、といって特定の有名な建物を目指すのではなく、「今日はここらへんを歩いてみよう」という「犬も歩けば…」式の予定しか事前にはないので、自分で発見する喜びのようなものもあります。
         もちろん、建築の構造や計画のことなどはよく知りませんし、建築史の専門家のように研究の対象として詳しく調べるということもしない、気楽な散歩の延長のようなものですが、お金はないけど時間だけはある学生にとっては、格好の趣味でした。今でもあちこち行ってみたいところはあるのですが、近ごろは忙しくて、ろくに街歩きにも出られないのが残念です。

        い建物と出会ったときの感覚というのは、ふだんは意識することのない「歴史」というものが、現代の街の中に「モノ」として存在していることの驚きと言えるでしょう。いつもは何気なく見過ごしている建物の中に、建てられた時代の状況や、その後の時間の経過が刻印されているのに気づくと、自分にとっては本やテレビの中の世界でしかない明治や大正という時代が、急に身近に感じられるから不思議です。
         これは建築に限られたことではなく、日本が近代化の道を歩む中で、そのための社会基盤として作られてきた様々な施設に共通することでしょう。とかく文化というと文学や芸術といった領域にばかり話がいきますが、人間のアイデアが作り出したという点では建築や土木建造物も同じ文化の産物と言えるでしょう。

        代化遺産−モダンの新しさ>は、群馬県にある明治・大正・昭和の歴史的な建築物や土木構造物などの近代化遺産を紹介したものです。群馬県の「近代化遺産総合調査」をもとに、近代化遺産研究会が制作したもので、特徴的な50の近代化遺産について、所在地等の基本データや、近代化遺産として持っている意味についての解説を読むことができます。近代史における群馬県というとすぐに養蚕業が思い浮かびますが、その他にも産業や生活、文化の各面にわたり、橋や庁舎、学校といった近代化の足跡が現在も数多く残っていることに驚かされます。

        海道産業考古学会ホームページ>では、1978年に結成された同学会の設立経緯とこれまでの活動内容を見ることができます。他の地域にも増して大規模な開発が行われ、また厳しい環境を受けて独自の技術が蓄積されてきた北海道の産業遺産を調査研究しようと学会を結成した設立者たちの意図が伝わってきます。また、関係各所に保存・活用要望書とともに提出された「旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群評価書」を見ると、個々の産業遺跡が単に技術的な面からだけでなく、歴史的な意義までも含めて評価されていることがわかります。

        橋工業高校の石田正治先生のホームページの<産業遺産>の欄では、中部産業遺産研究会に関連した情報の他、愛知・岐阜にある発電所や水門といった産業遺産についての紹介を読むことができます。解説文が読めるのは、まだリストのうちの一部ですが、これからも順次追加されていくということなので、とても楽しみです。ほかにも海外の科学・技術博物館の紹介など、技術史に関する興味深い話題が提供されています。

        馬、北海道、愛知、岐阜と続きましたが、これ以外の地域においても、その地域の自然や社会の特性に応じた産業遺産(近代化遺産)があり、またそれを調査・研究しておられる方々がいらっしゃることでしょう。そうした調査・研究の成果が少しでも多くインターネット上で公開され、研究者相互で共有され、また私のような興味本位の門外漢でも覗いて楽しめるようになるといいですね。産業考古学は専門の学者だけではなく、興味を持つ誰もが自分の地元において実践できるような、良い意味でのアマチュア的好奇心を失わないでいてほしいと思います。

        塔調査隊>にはまさにそんな、学問という枠にはまる以前の、「モノ」に対する率直な好奇心が溢れています。銀林みのる氏の小説『鉄塔武蔵野線』の、同名の映画のサイトですが、単なる映画宣伝を超えて、作品のモチーフである鉄塔について追求する真摯な姿勢には感銘すら覚えます。圧巻は「鉄塔造りに携わる和田さんの鉄塔講座」(謎のカテナリー曲線とは?)と、銀林氏自身の撮影による「武蔵野線全鉄塔名鑑 」(すべての鉄塔にコメントが!)。「全部の鉄塔を一度に見る」で、黒いバックに89基の鉄塔のモノクロ写真が整然と並ぶ姿は、生半可なアート作品より迫力があります(データの読み込みに時間がかかるけどね)。

         秋晴れの空の下、カメラと地図を持って、ひさびさに街を探検に出たくなってきました。