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 今月の金子さん

Web考現学のススメ


        の連載がきっかけで、先日、雑誌に原稿を書く機会をいただきました。インターネット上での検索がテーマだったのですが、あらためて考えてみると、ふだんいろいろな検索エンジンを利用しながらも、その効果的な活用法や目的の情報に到達するためのテクニックなどといったものについて、自分ではほとんど意識して使ってこなかったということに気が付きました。
         要するに、ただ思いついた言葉を片っ端からキーワードにして検索してみるというだけのことで、検索エンジンの高度な機能とか、目的に応じた使い分けといった、いわゆる「検索の○人」の方々がなさっているようなことについて、自分で独自に持っているノウハウは皆無に等しいことを今さらながら自覚したわけです。

        んなこともあって、前回では検索エンジンについてちゃんとお勉強してみようという意欲を表明したわけですが、その後、こうした自分のはなはだイイカゲンな検索スタイルにも、それなりの意味があるのではないかなと思い始めています。
         というのも、インターネット雑誌などで検索エンジンの高度な使い方についての記事を読んでも、「ふ〜ん」と感心はするのですが、「そうかっ、すぐに使ってみよ〜」という積極姿勢にはなかなかならないんですね。「やればいろいろできるみたいだけど、そこまでするほどの必要もないし、とりあえず普通にキーワードで探せればいいや」というのが現状で、検索テクニックみたいなことについてはあまり興味が向かないわけです。

        れは、自分の関心が、自分が探している情報に合致したページを効率的に探しだす手法や、それぞれのページの中身よりは(もちろんこれらも重要なことなんですが)、あるキーワードを検索エンジンで調べたときに出てくる検索結果そのものに、どちらかといえば向いているからではないかと思います。つまり、検索結果として返されてくるページの羅列の中に、一つ一つのページからはうかがえない、インターネットという世界の一断面を見て取ることができるし、それは一つ一つのページを見ていくのと同等か、あるいはそれ以上に面白いことのように思えるわけです。
         個別の内容よりも、それが一定数集まった際に見られる総体としての形に興味を持つという、こうした自分なりの関心のあり方は、インターネットの検索エンジンに限らず、それ以前から興味の対象であり続けている辞書や目録、事典や索引といった、いわゆる「リファレンス・ブック(参考図書)」についても当てはまるので、どうやらかなり根深いもののようです。(リファレンス・ブックについては<筑波大学附属図書館>の<レファレンスデスク>に解説があります)

        ころが、こういうかたちの関心を抱いている人間は、なにも自分だけではなく、ちゃんといるんですよね。それも意外と古くから。
         皆さんは「考現学」というのをご存知でしょうか。本のタイトルや新聞・雑誌の企画でときどき見かける言葉ですし、「それって路上観察のことでしょ?」という方もいらっしゃるでしょう。考現学というのは、考古学の「古」を現代の「現」に置き換えた言葉で、いわば考古学のように直接モノとしてあらわれ、見て取れる事柄を手掛りにして、同時代(現代)の社会を捉えようという学問です。これを創始したのは、今和次郎(こん・わじろう,1888−1973)という人物。建築学者であると同時に、柳田國男の下で民俗研究の経験を積んだ今和次郎は、大正12年の関東大震災を契機に、その後急速に変貌していく都市と、そこに暮らす人々の生活を観察・記録し、それを考現学という新たな学問領域として提示しました。(今和次郎と考現学については、今和次郎著『考現学入門』ちくま文庫,1987年、川添登著『今和次郎−その考現学』リブロポート,1987年、を参照してください)

        現学の具体的な調査・研究の内容は本で見ていただくことにして、一見取るに足らないような日常の事柄を集め、ある視点の下に一望することによって、そこに一つ一つの事柄が持っているのとは異なった意味を発見していくという考現学の手法は、検索エンジンでインターネットの世界の一断面を眺めるという、日頃自分が遊びで何気なくしている行為とどこかで繋がっているような気がします(もちろん自分の検索には「学」としての真摯な姿勢は皆無ですが)。
         インターネットの世界も人間が作り出している以上、そこには何らかのかたちで同時代の社会や人間の意識・無意識が反映されているはずです。それを発見するには検索エンジンはかなり有効な道具だと思うのですが、いざその方法となると、なかなか一筋縄ではいかない。これからも検索ならぬ模索を続けていく必要がありそうです。

        て、WWW上にはアンケートや調査についてのページが様々あり、インターネットの世界自体を調査対象としたもの数多くあります。例えば<日立西部ソフトウエア>の<WWW-in-JP Server Survey>はJPドメインで使われているWebサーバ用のソフトを調べたもの。データを時系列で見るとApacheの使用が急増していることがわかります。
         ところが、インターネットの利用状況についてのアンケート調査的なものはたくさんあるのですが、一方で、インターネットという場をフィールドとした考現学的な観点からの調査というのはほとんどないというのが現状。唯一、<武蔵野美術大学生活デザイン科>の<日本のWEBページ全調査>は、今はまだ予告段階ながら、そうした可能性を内包した斬新な試みで、来年1月に発表される結果が楽しみなプロジェクトです。

         インターネットという場でどんな考現学が可能なのか、これからも考えていきたいと思います。「こんなことができる」「こんな調査がすでにある」といった情報があれば、ぜひ教えてください。