金子伸二

 近ごろ欲しいと思っているのが、百科事典のCD-ROM。ちょっと前までン十万円もして、買う対象ですらなかったものが、ここへきて一気に価格が下がり、小遣いをヤリクリすればなんとかなる範囲に入ってきた。パラパラと眺めたり、じっくり読むには本型の方がいいけれど、全文を対象にした強力な検索機能は本にはとても求められないものだ。30数冊分の中身を簡単に持ち運べてしまうというのもいい。でも、たとえこれを買っても、これまで愛用してきた本型の百科を処分する気にはならないから、わが家のスペース問題は、一向に改善されないなぁ。

◆◆今月の金子さん〜大学の名前◆◆

回はさまざまな職業名、すなわち「仕事の名前」についての話題だったので、今回も「名前」にまつわる話題を。

年この季節になると、各地の大学で大学祭が開かれる。ふだん学生や教職員の姿しか見られない大学も、この時期だけは屋台が目当ての子どもたちや、見学ついでの高校生、近所のおじちゃん・おばちゃんも加わって、いつもと違った雰囲気に包まれることになる。出身サークルに顔を出しては、後輩たちに説教するのを年に1度の楽しみにしておられる方も多いのではないだろうか。
 で、ライブが始まるまでの時間つぶしに、ダマの残ったクレープをかじりながら建物の中をウロウロしていると、「○○学教室」や「××学研究室」といった札の下がった部屋が薄暗い廊下に並んでいて、その聞きなれない名前に「いったいどんなアヤシゲな研究をしているのやら」と好奇心をそそられたりするものだ。あるいは、ひさびさに母校を訪ねてみると、自分の頃にはなかった学科ができていたり、逆になくなっている学科があったりして、学生時代からの歳月の経過をしみじみ実感させられる。十年一日のように見える大学という世界も、実は意外な速さで変化しているようだ。

学の変化でもっとも目に付きやすいもののひとつは、新しい大学ができたり、新しい学部・学科ができたりといった、新設・増設に関する事柄だ。新聞でもしばしば告知が出されるし、大学側も広告などで積極的にアピールしている。確かに、新しくつくられる学科の名前には、以前の大学の学科名には見られなかった言葉がふんだんに使われていて、新しい学科であることが一目瞭然だ。
 ところが、いくつもの大学の新学科の名前を並べてみると、どれもよく似ていて、あまり区別がつかない。似ているというのは、いくつもの学科で、同じような言葉が使われているからだ。どうやら、大学の学科名にも流行というものがあるらしい。そこで、いま流行の学科名は何なのか、探ってみることにした。流行に敏感な受験生さんや、新学科の名称でお悩みの大学関係者の方も、ぜひ参考にしてほしい。雑誌の見出し風に言えば、「コレで決める!! イマドキおしゃれな学科名ランキング」だ。

うせなら最新のものの方がいいので、平成11年度、つまり来年の4月から開設される予定の学科名を調べてみることにした。中央省庁のホームページの中ではもっともそっけない<文部省>の中の<大学設置・学校法人審議会>というのが、大学や学部・学科の新設を審議するところだ。認可申請の内容によって「2年審査」と「1年審査」とに扱いが分かれているので、平成11年度に設置予定の学科名を知るには、<平成11年度開設予定大学等認可申請一覧(2年審査にかかるもの)><平成11年度開設予定大学等認可申請一覧(1年審査に係るもの)>を見ればいい。両方を合わせると、大学を設置するのが18校、短期大学を設置するのが4校、大学の学部を設置するのが21校、短期大学の学科を設置するのが9校、大学の学部の学科を設置するのが31校、大学の通信教育を開設するのが1校と、大学進学を控えた高校生の人数が減少しているにもかかわらず、大学設置の申請は活発だ。ちなみに、<平成10年度学校基本調査速報(高等教育機関)調査結果の概要>によると、現在の学校数は大学が604校、短大が588校あるそうだ。これは、大変な数だ。

に、この2点の「認可申請一覧」に出てくる学科名をバラして、それぞれの言葉が使われた件数を数えてみた結果、よく使われる言葉ベスト10は次のようになった。

  • 1位 福祉
  • 2位 情報
  • 3位 文化
  • 4位 国際
  • 5位 人間
  • 6位 環境,社会
  • 8位 看護,工学
  • 10位 コミュニケーション,経営

 学科名のバラし方や言葉の数え方によって結果は多少変わるかもしれないが、だいたい同じような結果に落ちつくだろう。確かに、新聞や広告で伝えられる大学の学科名によく見られる言葉が並んでいる。逆にいえば、これらの言葉を適当に組み合わせれば、例えば「福祉情報学科」というように、イマ風の学科の名前ができあがるという寸法だ。

ころで、これらの言葉を眺めていると、「看護」や「工学」「経営」といった言葉は、まだ学科の中身のイメージがつかみやすいのだが、それ以外の言葉は今ひとつ意味がよくわからない。たとえば「福祉」といわれても、「何が福祉か」と考え始めると、福祉関係の仕事に就くための知識や技術を習得するというのとはまた別の、本来は非常に漠然とした概念で、学科名にしてはずいぶんと抽象的なように思えるからだ。実際、「人間福祉学科」なんていう学科名がたびたび出てくると、「じゃあ『動物福祉学科』もあるのかいな」なんて意地悪なことを言いたくなるくらい、新学科の名前には一見よく意味のわからないものが多い。「国際文化情報学科」や「福祉環境情報学科」なんて、いったい何をするところなのだろうか、謎だ。

かに、「よくわからないからこそ大学で研究するのだ」という考え方もある。とはいえ、これだけ特定の言葉が集中的に用いられているのを見ると、それぞれの大学の理念や問題意識とは別に、明らかに流行を意識しているフシが感じられる。「ただの『経営学科』じゃイマ時ナンだから、『経営情報学科』にしてみました」みたいなノリは、やはりあるんじゃないだろうか。
 もちろん、そうだからといって別に悪いことではない。そりゃ受験生や保護者にアピールするには、イマ風の言葉を織り込んだ方がウケるわけだから、いきおい、似たような名前の学科ができることになる。「北方圏文化学科」などのようなオリジナリティのある学科名は、むしろ少数派だ。いっそ、もっともらしい理屈は抜きにして、ひたすらウケ狙いで「国際福祉文化情報学科」とか、「人間環境社会コミュニケーション学科」を作ってみたらどうだろうか、いや、冗談でなく。
 もうひとつ興味があるのは、これが10年前、20年前、30年前ならどういう結果になるのだろうかということだ。よく使われる言葉のベスト10の中身は、きっと今とはかなり違った言葉で占められるのではないだろうか。学科名に使われる言葉を比較すれば、そこから時代や社会の変化を見て取ることもできそうだ。これは、いつか資料が集まったら調べてみたい。
 「大学」というところは、それ自体を研究対象にした「大学学科」が必要になるくらい、奇妙で謎に満ちた現象だ。

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文部省
(http://www.monbu.go.jp/)


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