金子伸二

 今回は手っ取り早く言えばフレームのプロポーションの話。それに関連して今欲しい物が「ディレクターズ・ビュー・ファインダー」。映画撮影用のいわば「覗き眼鏡」で、この筒を覗けばスタンダード・サイズからスコープ・サイズまでの画面のイメージが一目瞭然というシロモノだ。撮影機材の大手、米・パナビジョン社製のが260ドルなのだが、送料も含めるとそこそこの金額になって、べつに映画を撮るわけでもなく、単にオモチャとして欲しいだけの自分にとっては二の足を踏んでしまう。どこかに中古の映画機材のお店ってありませんかねぇ?

◆◆今月の金子さん〜屏風はワイド・スクリーンなのだ!◆◆

回はあまり知られてはいないが個性的なマスコットキャラクターやイメージキャラクターをネット上で探してみたが、今回はお正月号でもあるので、グッと趣を変えて「日本美」(おお!)の世界に迫ってみたい。とはいっても、日本の造形表現を探るという点では、前回とそれほど無縁なテーマではないのだ。

本美術の特徴の一つは、もちろん絵画や彫刻として独立した作品がある一方で、それと同等かそれ以上に、生活空間の中の道具において優れた造形を生み出してきた点にあるといえるだろう。「屏風」(びょうぶ)もそうした生活の道具でありながら、そこに施された絵画は「屏風絵」という大画面による独自の表現形式を形成してきた。
 ところがこの屏風絵は、大画面であるために、例えば教科書や概説書の小さな図版では何が描かれているのかも十分にわからず、作品の中身がうまく伝わらないという困った点がある。今では代表的な作品には大判の画集が刊行されているが、値段は高いし場所を取るしで、なかなか一般の個人が気軽に持てるものではなく、図書館などで利用するしかない。もちろん実物を見られればそれが一番なのだが、展示される機会自体が少ないし、幸いに見る機会があっても、距離を置いたケースの中に収められ、しかも大抵の場合が特別公開のため大変な混雑で、とても細部までじっくり見ることなどはかなわないというのが実状だ。

ころが近頃では、屏風絵の名品を自宅に居ながら眺められるという状況になってきた。いくつかの美術館・博物館が、所蔵作品をWeb上で公開しはじめたからだ。しかも屏風絵の場合、作品の全体像だけでなく、細部を拡大してじっくり見ることができるものも多い。その代表的な例をいくつか紹介してみよう。ただし、いずれも画像のデータ量が多いことから、読み込みに時間のかかる場合があるので念のため。
 東京・青山にある<根津美術館>は、東武鉄道などを経営し「鉄道王」と呼ばれた実業家である根津嘉一郎が蒐集した日本・東洋美術のコレクションで知られるが、その主な収蔵品をWeb上でも公開している。なかでも尾形光琳の<燕子花図>(かきつばたず)は、日本の屏風絵を代表する名作中の名作で、国宝に指定され、切手や教科書などでもおなじみの作品だ。金箔地や描画の質感はディスプレイでは伝わらないものの、大胆な画面構成には目を奪われる。1年のうちごく限られた期間しか展示されないだけに、こうして手軽に作品の概観や基礎的なデータを得られるのはありがたい。
 Webの特性をより生かしたかたちで屏風絵の公開を行っているのが、千葉県佐倉市にある<国立歴史民俗博物館>だ。ここでは、所蔵する<洛中洛外図屏風(歴博甲本)><江戸図屏風>の2点の屏風絵を、全体から細部に至るまで5段階に拡大しながら見ることができるようになっている。とりわけこの2点の屏風絵のように、市街の景観を鳥瞰的に描いた作品の場合、作品全体から受ける印象とは別に、細部に描かれた人や町の様子を見ることが魅力の一要素となっているので、それが手軽に体験できることの意味は大きい。
 なお、上記の歴博甲本とは異なる作品だが「洛中洛外図屏風(上杉本)」を中心に屏風絵を読み解く面白さを語った本に、黒田日出男 著<謎解き 洛中洛外図><岩波書店>発行)がある。

風絵の特徴の一つは、その横に長い画面と、そこからくる大胆な画面構成にあるといえるだろう。ちなみに、先に紹介した3点のサイズから、その縦と横の比を計算すると、次のようになる。

作品片側のサイズ縦横比
燕子花図150.9 x 338.8 cm1:2.25
洛中洛外図屏風(歴博甲本)124.0 x 272.8 cm1:2.20
江戸図屏風162.5 x 366.0 cm1:2.25

 2枚で一対の屏風の片側(「隻」[セキ]という)で、縦を1とした場合に横の比は2.20〜2.25という割合になる。

 例えば我々に最も馴染み深いテレビの場合、標準で3:4(つまり1:1.33)、ハイビジョンで9:16(つまり1:1.78)だから、ハイビジョンよりさらに横長ということになる。  写真の「パノラマサイズ」と比べるとどうだろうか。パノラマ写真についての知識と経験が詰まった<Kuri's Panorama Page>の中の一コーナー「パノラマ写真を撮る」によると、35mmフィルムとAPSのそれぞれの画面サイズと縦横比は次のようになる。(プリント時の縦横比は異なる。また、APSではフィルム上の実際の画面サイズはいずれのタイプも同一。)

種類画面サイズ縦横比
35mm 標準24.0 x 36.0 mm1:1.50
35mm パノラマ13.0 x 36.0 mm1:3.00
APS Cタイプ16.7 x 23.4 mm1:1.40
APS Hタイプ16.7 x 30.2 mm1:1.81
APS Pタイプ9.6 x 30.2 mm1:3.15

 屏風絵の画面は、APSのHタイプと35mmやAPSのパノラマ(Pタイプ)との間くらいであることがわかる。

 それではさらに、映画のスクリーンとも比較してみよう。映画のスクリーンサイズについての詳細な説明があるのが<パイオニアLDC><LDに関するFAQ>だ。ここでの説明をもとに、代表的なスクリーンサイズの縦横比をまとめると、次のようになる。

種類縦横比
スタンダード・サイズ1:1.33
ビスタ・サイズ(主にヨーロッパ)1:1.66
ビスタ・サイズ(主にアメリカ)1:1.85
スコープ・サイズ(シネスコ)1:2.35

 画面の縦横比に関する限りでいえば、屏風絵に最も近いのは映画のスコープ・サイズのようだ。このスコープ・サイズは、1950年代から70年代にかけてのスペクタクルやSF作品によく使われたのだそうだ。横長の画面から来る臨場感が、当時の大作映画の雰囲気にピッタリだったのだろう。テレビやビデオなどでの二次利用に適さないので、最近はあまり使われないらしいが、「ターミネーター2(T2)」の劇場版などがスコープ・サイズだということだ(「T2屏風」なんてのも、いいかもね)。

いうことで、屏風絵は現代のハリウッド・エンターテイメントにも通ずるセンスを持っていることになるわけだ。しかし、屏風絵のすごい点は、両隻を並べれば1:4.50というパノラマ写真やシネラマ映画さえ及ばない破格の画面が成立し、さらに両隻を向かい合わせに置けば、そこには360度の全周画面が出現するという点だ。実際、洛中洛外図は高い塔の上などから周囲を鳥瞰した視点で描かれているという。こうした非日常的な視覚の世界に果敢に挑戦して、素晴らしい作品を遺した狩野派や琳派の絵師たちの力量には、ただ驚くばかりだ。
 それにしても不思議なのは、この屏風絵のサイズがどのようにして成立してきたのかという点だ。片隻の1:2.25、整数比に直せば4:9という、あまりキリのいい数とは思えない縦横比に何らかの由来があるのだろうか。さて、皆さんはどう考えますか?

今回アクセスしたページ


根津美術館
(http://www.nezu-muse.or.jp/index.html)
国立歴史民俗博物館
(http://www.rekihaku.ac.jp/index_nj.html)
岩波書店
(http://www.iwanami.co.jp/)
Kuri's Panorama Page
(http://www.t3.rim.or.jp/~kuri/index.html)
パイオニアLDC
(http://www.pioneer-ldc.co.jp/index2.html)


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