栗田涼子

いよいよヴァカンスシーズンの到来。フランス各地で、地方の夏祭りが毎週のように催されています。ここ南仏アヴィニヨンでも、今週からアヴィニヨン演劇祭がはじまりました。お祭りに着ていく、仮装用コスチュームを何にしようかと、あれこれ頭を悩ませている今日この頃です。

◆◆今月の栗田さん〜博物館と遊ぶ子どもたち◆◆

世紀のアメリカを代表するアーティスト、アンディ・ウォーホルの「キャンベル・スープ」という有名な作品をご存じでしょうか。何の変哲もないスープの缶がただ整然と並んでいるだけのポップな図柄に、見覚えのある方も多いことでしょう。まるで宣伝ポスターかと見紛うようなこの作品。「これの一体どこが芸術なの?」と首を傾げる前に、まずは次の文章を読んでみてください。

 『“芸術”と聞くと、みんなはどんなイメージを持ちますか。「ちょっと難しい」とか「解らない」と思う人が多いんじゃないかな。それは、きっと描いていることが昔のお話だったり、作家の思いが抽象的に表現されていたりして、「何描いているのか解らない」になってしまうのでしょう。じゃあ、この作品はどうかな?“缶詰”ってすぐわかるよね。(中略)この作品は“シルクスクリーン”という版画の技法で制作されています。版画は、何枚も刷ることができるので、たった1枚の絵と違って、たくさんの人に見てもらうことができます。工場で大量に作ることのできる缶詰をたくさん並べて、それを何枚も同じ作品を作ることのできる版画で表現したことには、ウォーホルの何か深い考えがありそうですね。』

れは、<横浜美術館>が発行している子供向けの季刊紙<デジタル・ピコラ>(No.25)からの引用です。横浜美術館には、一般向けの展示スペースの他に、子供たちが美術とふれあうためのワークショップ「子供のアトリエ」が併設されています。「ピコラ」は、このワークショップで行われたさまざまな活動を報告する、子供のためのニュースマガジンで、上記の解説は「ピコラギャラリー」というコーナーで紹介されているものです。この解説は、平易な言葉を用いて、子供たちが芸術作品と《語り合う》ためのいくつかのヒントを与えています。教科書に書かれてあるとおりの解釈を押しつけるのでなく、あくまで、作品を前にした子供たちの新鮮な驚きと、自由なイマジネーションを尊重し、彼らからさまざまなクエスチョンを引き出す手助けをしているのです。この例にみるように、「これ何だろう?どうして?」という興味を子供たちに抱かせるためのさまざまな試みに、現在、世界中の美術館や博物館が精力的に取り組んでいます。そこで今回は、こうした博物館教育の現場を、インターネットでリサーチしてみることにしました。

ークショップとは、さまざまな実体験を通して、鑑賞力や造形力、思考力を育成するための参加型プログラムのことをいいます。ワークショップ先進国である欧米諸国の影響を受け、近年日本でも、こうしたプログラムを教育普及活動の一環として積極的に取り入れる美術館・博物館が増えてきています。さきに紹介した横浜美術館は、たとえば粘土でつくった花器に自分たちで花を生ける、「花器(かき)をつくろう」という小学生対象のプログラムを企画しました(ピコラNo.25)。この体験を通して、モノの形や色、粘土という素材、やきものとは何か等について、専門家の指導を受けながら、子どもたちは楽しみながら知ることができるというわけです。また、「ワークショップ・イン・スクール」というプロジェクトでは、美術館学芸員と学校教員、アーチストと子どもたちが協力し合い、学校を展覧会場に変身させるという前代未聞の試みがなされました(ピコラNo.24)。作品が生まれる現場に立ち合い、自らもそれに参加することで、それまで難しくて近寄りがたかった“芸術”が、子どもたちにとってもっと楽しく、より身近な存在となったに違いありません。

本では、横浜美術館以外にも、<世田谷美術館>の「タノシサハッケンクラス」で本格的なワークショップが実践されているほか、その他の博物館・美術館でも、子供向けのギャラリートーク(展覧会場で学芸員が解説をすること)など、さまざまな教育普及活動が行われています。また、ユニークな試みとして挙げられるのが、地元の中・高等学校の生徒たちの協力によって制作された、広島県の<ふくやま美術館>のホームページ。とかく乖離しがちな学校教育の現場と美術館が、インターネットを介して交流し合うという、全国でもあまり類をみないケースとして注目されます。
 また最近、ようやくわが国でも、子ども専用の博物館が各地につくられるようになってきました。<キッズプラザ大阪>もそのひとつです。「驚き、感動し、不思議に思う心」をキーワードに構想されたこの博物館は、子どもたちがさまざまな遊びや体験を通じて、科学や芸術、社会のしくみについて学ぶことのできる、参加型の総合学習施設です。「雲のつくりかた」「声優さんをやってみよう」など、われわれ大人でも思わず興味をそそられるような内容のワークショップが企画されており、親子揃って楽しむことができそうです。

ころで、現在私が住んでいる、ここフランスの博物館教育の現場はどうなっているのでしょうか。こちらの美術館を訪れると、先生に引率された幼い子どもたちの見学グループにしばしば出逢います。先日訪れたアヴィニヨン市内のある小さな私立美術館でも、たまたま幼稚園くらいの年齢の子どもたちのグループに遭遇しました。モノは試しです。私も彼らの後について館内ガイドツアーに参加してみることにしました。約十人ほどのちびっ子たちを牽き連れて案内役をつとめるのは、教育普及担当の若い女性学芸員。腕をグルグル回したり、行ったり来たりしながら、熱心に作品を説明してゆきます。「この絵の中では、いま何が起こっているの?」「雲はどんなかたちに描かれているかな?」「絵の中のたての線と、よこの線をさがしてみてごらん?」「遠くにあるものと、近くにあるもの。どんな風に違って見えるかな?」という具合に、彼女は子どもたちにさまざまな質問を投げかけます。この問いかけに、一生懸命答えようとする子どもたち。みな、真剣そのものといった面もちです。やがて、彼女は作品と同じ大きさの何も描かれていない白いカンヴァスとクレヨンを取り出し、子どもたちに差し出します。「さあ、みんなでこの絵と同じものをかいてみよう!」彼らは手に手にクレヨンを持ち、白いカンヴァスの廻りに輪になって座り込んで、展示されている風景画を真似て描きはじめました。わいわいがやがや、とても楽しそう。それは、見ていてワクワクするような光景でした。子どもたちは知らず知らずのうちにカンヴァスの中へと誘われ、線やかたち、色と戯れながら、絵画の中の世界を冒険旅行しているかのようです。

のように、フランス国内の多くの美術館でも、さまざまな工夫が凝らされた教育活動が活発に行われています。美の殿堂<ルーブル美術館>でも、4歳から13歳までの児童を対象に、年齢別にテーマを設定したガイドツアーが用意されています。ホームページの案内を見ると、たとえば、「古代エジプトの暮らし」「肖像画に描かれた顔」「天使の歴史」など、こどもの知的好奇心を掻き立てるような興味深いタイトルが目を引きます。以前ルーブルで、この子供向けのガイドツアーを偶然見かけたことがありますが、眼をキラキラさせながら熱心に聞きいっている子どもたちの様子が実に印象的でした。
 また、同じくパリにある<ジョルジュ・ポンピドーセンター>にも、木目細かな教育的配慮がなされたプログラムが各種用意されています。視覚芸術だけでなく、ダンスや音楽、文学など幅広いジャンルを対象にしたそれらのワークッショップでは、五感をフルに活用し、からだ全体でアートと遊ぶことにその眼目が置かれているのです。

ンターネット上にも、子供向けのワークッショップは存在しています。<Global Children's Art Gallery><Kids' Space><Aglomerius>には、世界中の子どもたちから寄せられたデッサンや詩、童話、音楽演奏などが紹介されています。インターネットというデジタル空間もまた、巨大な「知の博物館」といってもよいかもしません。このデジタル博物館を遊び場にして、子どもたちはのびのびとその創造力発揮することが可能なのです。こうした試みはまだ始まったばかり。今後、インターネットがどのように子どもの世界を広げてゆくのか楽しみです。

今回アクセスしたページ


横浜美術館
(http://www.art-museum.city.yokohama.jp/)
デジタル・ピコラ
(http://www.art-museum.city.yokohama.jp/kakushu/piccola.html)
世田谷美術館
(http://www.setagayaartmuseum.or.jp/mainJ.htm)
広島大学附属福山中・高等学校
(http://www.hiroshima-u.ac.jp/japanese/fukuyama/index.html)
キッズプラザ大阪
(http://www.kidsplaza.or.jp/)
ルーブル美術館
(http://mistral.culture.fr/louvre/)
ジョルジュ・ポンピドーセンター
(http://www.centrepompidou.fr/)
Global Children's Art Gallery
(http://naturalchild.com/gallery/index.html)
Kids' Space
(http://www.kids-space.org/index.html)
Aglomerius
(http://perso.club-internet.fr/walker/aglomerius/pagehtm/homepage.htm)


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