栗田涼子

 このところ、運転免許をとるべく奮闘中です。フランスの教習所は日本のそれとは違って、個人経営の小さな事務所といった感じ。料金も3900フラン(約8万円)と、信じられないくらい安いのです。でも、フランス人の荒っぽい運転にはいささか気圧され気味・・・マイペースで頑張るぞ!

◆◆今月の栗田さん〜ヴァーチャル・ミュージアムへようこそ!◆◆

イツの哲学者ウォルター・ベンヤミン(1892-1940)が『複製技術時代の芸術作品』を著してから、既に半世紀以上もの時が過ぎました。今日のさまざまなメディア論に少なからぬ影響を与えたこの論文なかで、ベンヤミンは、近代の複製技術が生んだ写真や映画などの新しいメディアは、芸術作品の「真正」、つまり作品の一回性に基づいた「いま−ここ」的性質を無価値なものにし、大衆を芸術のオリジナル信仰から解放するものであると論じています。例えば、写真によって「大聖堂はその場所を離れ、芸術愛好家のアトリエで受容され」ることが可能になり、また、レコードによって「ホールあるいは野外で演奏された合唱曲は、部屋の中で聴かれる」というように、芸術作品とそれを受容する一般大衆との社会的関係は、かつてないほど劇的に変化しました。ベンヤミン曰く、「技術的複製によってオリジナルは受容者のほうに歩み寄ることができるようになった」のです。
 そして、写真の登場からほぼ一世紀の時を経た現代。最新鋭のデジタル技術の集合体であるインターネットは、かつて写真や映画が我々の社会にもたらした以上の革命的な意義をもつ、“超・複製技術時代”の新たなるメディアといえるでしょう。今や私たちは、部屋に居ながらにして<アレクサンダー大王の栄光の軌跡>を3D画像で追体験したり、古代西アジアの<アッシリア帝国の遺跡見学ツアー>に参加することすら可能なのです。
 デジタル三次元画像の再生や、インタラクティブ・コミュニケーションなどの飛躍的な技術進歩によって、オリジナル作品のもつ「真正」の今日的意義は、ますます稀薄になりつつあります。そして、インターネットが世界規模の巨大ネットワークに成長を遂げた現在、オリジナル信仰の最期の牙城ともいうべき美術館や博物館は、今、その新たな存在価値を問われています。

うした状況のなか、超・複製技術時代のミュージアムのあり方に一石を投じているのが、町田市立国際版画美術館です。同館は、「ホンモノ」の作品を「実在する空間」の中で展示するという通常の美術館活動と並行して、インターネット上にしか存在しないもう一つのヴァーチャル・ミュージアムを運営しています。この架空の美術館が主催する<アート・オン・ザ・ネット展>は、インターネットを通じて世界中から寄せられたデジタル・アート作品を審査し、受賞作品をウェッブ上でのみ展示するというもので、第一回が開催された95年当時、その画期的なコンセプトが多くの関心を集めました。今日、ほとんどの美術館・博物館が自前のホームページを持っていますが、その多くが単に情報を公開するにとどまり、既存のメディアの枠を大きく越えるものではありません。これに対して、展覧会自体をインターネットによって構成するという同館の試みは、従来の博物館の概念そのものを揺るがす、ラディカルな挑戦といえるでしょう。
 現在ウエッブ上では、過去3年間のコンクール受賞作品を見ることができます。(ゲームソフトの洗練された3Dアニメーションを見慣れている人は、その意外なほどの素朴さに、やや物足りなさを感じるかも知れませんが)四回目を迎える今年のテーマは<ストリーミング・メディア>。インターネット放送などの分野で使用されているこの最新システムを利用した、新しい表現の可能性を探ろうというものです。日進月歩の勢いで進歩するテクノロジーを手に、今後、アーティストたちがデジタル・アートの世界をどのように開拓してゆくのか大いに期待されます。

 「はじめにモノありき」という、従来の博物館のテーゼを根本から覆えしてしまうネット上のミュージアムたち。物や場所の物理的な制限のないヴァーチャルな世界では、作品とそれを見る私たちとを隔てているガラスケースが取り払われ、時には、ガラス越しに本物を眺めるよりも一層リアルに作品を鑑賞することが可能なのです。
 <Ukiyo-e Museum(名古屋テレビ)>は、そうしたインターネットの利点を最大限に生かしたヴァーチャル美術館です。名古屋テレビが企画運営するこの美術館では、同社所有の約8千点もの浮世絵コレクションが、各テーマに沿って順次公開されています。フルサイズ画像でみる浮世絵はなかなかの迫力があり、版木の木目や刷り上がりのかすれた感じなど、細部にまでわたってじっくりと鑑賞することができます。

 <電通 古今東西広告館>は、江戸時代以降、わが国独自の広告表現として発達した「錦絵」「引札」「看板」「案内本」「草双紙」「雛形」など、4万7千点にも及ぶ豊富な資料を展示するヴァーチャルミュージアムです。3ヶ月ごとに異なったテーマが設定され、さまざまな切り口から、日本の広告史・風俗史を通観することができます。例えば、今月のテーマは『旅』。江戸時代の旅の心得や旅行グッズなどが図入りで記された案内本や、また、公認優良宿(今でいうJTB指定旅館や国際観光旅館)であることを示す札など、当時の風俗を偲ばせる貴重な資料の数々が紹介されています。

 <World Art Treasures>はその名の通り、各国の珠玉の美術品をウェッブ上で公開する世界でも有数の優れたサイトです。ヨーロッパの古典美術作品をはじめ、古代エジプト美術や、日本、中国、インド、タイ、カンボジアなどアジア諸国の美術品や遺跡を、詳細な解説とともにクオリティの高い画像で鑑賞することができます。このサイトは、ローザンヌ美術館の元学芸員であったジャック・エデュアール・ベルジェ氏が寄贈した10万点にも及ぶスライド写真をもとに構成されており、学術的資料としての価値も充分備えています。これまで、研究者以外にはなかなか公開されることがなかったこうした専門的な映像資料が、コンピュータネットワークを介して世界中の人々の共有財産となったことは、インターネットの普及がもたらした最大の功績のひとつといえるでしょう。

のハプスブルグ家の皇帝<ルドルフ二世>は、鉱物や動物の標本や化石、その他の風変わりな代物を夢中で蒐集したことで知られますが、それらのコレクションを一同に集めた宮殿の一室は、さながら奇怪な博物館のようであったといいます。かつては、王族や貴族など一部の限られた者だけに許された特権であったプライベートミュージアムも、しかしネット上の仮想現実の世界においては、今や叶わぬ夢ではありません。誰もがルドルフ王のように、自分だけのオリジナルミュージアムを実現することが可能なのです。
 次に紹介する<Musee Virtuel De la Barbe et Barbus>(髭博物館)も、そんなユニークな空想ミュージアムのひとつです。いかにもフランス人らしいユーモアたっぷりのこのサイトでは、古代から現代までのあらゆるイマージュ(彫刻・絵画・写真・マンガなど)に表された、さまざまなタイプの「髭」が紹介されています。『古代シュメールおよびエジプト美術にみる髭』『キリスト教聖者の髭』『政治家・芸術家・学者の髭』『イラストレーションにみる髭』の四つのメイン展示室のほか、特別展示室では 、<タンタン>の作者として知られるベルギーのマンガ家エルジェの作品に描かれた髭を特集しています。この他、髭に関する文献や、ラルース百科事典に掲載されている「髭のある図版」についての分析レポートなど、見応え(笑い応え?)充分です。ジョークのつもりにしてはかなりの根気と熱の入れようですから、館長は大まじめでこの美術館運営に取り組んでいるのでしょう。(フランス語表記のみですが、壮大な髭コレクションを画像で眺めるだけでも充分楽しめます。)

のほか、モナリザや菩薩像のように、古今の微笑みを湛えた芸術品ばかりをコレクションした<Musee du Sourire>(微笑み美術館)や、壁の落書きを紹介する<Wall Art Museum>など、一見の価値のあるヴァーチャルミュージアムは数多くあります。インターネットの仮想空間だからこそ実現可能な博物館たち。オリジナルかコピーか・・・という難題はここでひとまず置いて、さあ、あなたもヴァーチャルミュージアムに出かけてみませんか。

今回アクセスしたページ


La Gloire d'Alexandrie(SmartWeb - ParisGuide)
(http://www.smartweb.fr/alexandrie/index.html)
British Museum in Japan
(http://bmjpn.ibm.ne.jp/)
Art on the Net(町田市立国際版画美術館
(http://art.by.arena.ne.jp/)
Ukiyo-e Museum(名古屋テレビ)
(http://www.nbn.co.jp/ukiyoe_J.html)
電通 古今東西広告館
(http://www.dentsu.co.jp/DHP/DOG/MUSEUM/home.html)
World Art Treasures
(http://sgwww.epfl.ch/berger/)
Prague Castle - Prazsky hrad
(http://www.hrad.cz/index_uk.html)
Musee Virtuel De la Barbe et Barbus
(http://pages.pratique.fr/~proussel/)
TINTIN(Herge Foundation)
(http://www.tintin.be/)
Musee du Sourire
(http://www.netmuseum.tm.fr/sourire/home.htm)
Wall Art Museum
(http://www.edgechaos.com/MECA/WALLART/wallart.html)


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