栗田涼子

 山はすっかり秋色に染まり、キノコ狩りや狩猟を楽しむ季節がやってきました。家の裏山でも、毎朝鉄砲の音が聞こえます。しかもこの地方の山林では、トリュフが見つかるらしいのです! わが家の犬二匹を、なんとか「トリュフ狩り犬」に仕立てるべく訓練しようと思っているのですが・・・やっぱり無理かな?

◆◆今月の栗田さん〜ヴァン・ヌーボーの季節です◆◆

10月のある晴れた日曜日。南仏のこの小さな村でも、恒例の秋祭り「フェット・デ・ヴァンダンジュ」が行われた。ヴァンダンジュとは、フランス語で「葡萄の収穫」の意。つまり収穫祭である。さすがお祭り好きな土地の人々のことだ。一仕事終われば、何はともあれ、まずは陽気に飲んで踊らないことには始まらない。収穫を無事に終えたことを歓び、来年の豊作を祈って、村人総出で祝うのである。広場に着くと、もうかなりの人だかりがしている。カフェは、プロヴァンスの地酒パスティスやビールでほろ酔いかげんになった客たちで賑わい、市場では、骨董商が軒を並べて何やら怪しげな品々を売っている。古い木靴、陶器製のドアノブ、食器類、ランプや蝋燭立、果ては年代がかった便器など、どれも一世紀以上の時を経ているだろうか。しばらくそれらを冷やかして歩くうちに、太鼓と笛の音が鳴り始めた。どうやら祭りが始まったようだ。

ロヴァンス民謡の朗らかなリズムに合わせて、仮装した村の人々が目の前を練り歩いていく。若い娘たちは髪を結い上げ、<伝統的なプロヴァンス模様の生地>で仕立てたスカートを穿いて、軽快なダンスを踊りながら進む。馬子に扮した青年は、摘みたての葡萄を入れた重そうな樽を乗せて、荷馬車を引いている。昔の農民の格好をした男性もいれば、葡萄畑の領主であろうか、ブルジョワの装いをした紳士淑女の姿も見える。シルクハットを被った村長の後には、黒いローブ姿の司祭が続く。花のアーチを手に手に掲げた少女たちに導かれ、葡萄の葉と蔓で見事に飾られた馬車がゆっくりと行進してゆく。まるで、一世紀ほど時を遡ったかのようだ。往来から手を振って、晴れ着姿の子どもを応援するお母さん。その一方、パレードなんかお構いなしで、道端で寄り集まっては四方山話に花を咲かせる老人たち。とにかく、老いも若きも皆楽しそうだ。

がてパレードも一頻り終わる頃、今度は若者たちが数人がかりで、巨大な木製の圧搾機を回し始めた。ブドウ汁を絞り出すための昔ながらの手法だ。かつてはこんな風に、すべて手作業でワイン作りをしていたのだろう。きれいな薄紫色をした絞りたての葡萄ジュースが、集まった見物客たちにふるまわれた。一口飲むと、フルーティな香りとともに、自然な甘さが口一杯に広がる。これが発酵して、やがては芳醇なワインになるのだ。今から新酒が待ち遠しい。まさに、村をあげての素朴なバッカス祭であった。

て、ヴァンダンジュが終わると、近隣のカーヴ(酒蔵)では一斉に仕込み作業がはじまり、11月には各地でヴァン・ヌーボー(新ワイン)が解禁となる。日本ではボルドーやブルゴーニュ、ボージョレーなどの銘柄が有名だが、ローヌ川に沿ったこの一帯でも、それらにまさるとも劣らぬ美味なるワインがつくられている。北はヴィエンヌから南はニームあたりまで、およそ200Kmにおよぶローヌ川流域の葡萄畑から採れるワインは、総称して<コート・デュ・ローヌ>と呼ばれ、この一帯は<ワイン街道>と名付けられている。この街道をゆくと、葡萄畑の素晴らしい眺めに出逢うことができるのだ。低くなだらかな丘一面に広がる葡萄畑は、四季折々さまざまに表情を変え、われわれの眼を楽しませてくれる。11月のこの時期、枝葉はすべて剪定されて、ゴツゴツと節くれ立った幹だけが寒々と並んでいる。丸裸になった葡萄畑はやや淋しい風情だが、これも秋の風物詩のひとつである。こうして、葡萄たちはミストラルの吹きすさぶ厳しい冬を越すのだ。

ート・デュ・ローヌとひとくちにいっても、地域ごとに<葡萄の品種>も違い、また地質の条件も微妙に異なることから、バラエティに富んださまざまな性格のワインを楽しむことができる。中でも<シャトーヌフ・デュ・パプ>という村で作られたワインは、コート・デュ・ローヌの中でも特に名が知られているもののひとつだ。広大な葡萄畑の真ん中にこじんまりと佇むこの小さな村には、5メートル毎にカーヴが軒を並べ、デギュスタシオン(利き酒)も体験できるという。ものは試しだ。早速この村を訪れることにした。
 シャトーヌフ・デュ・パプ(法王の新しい城)という名前は、14世紀にローマ法王が<アヴィニヨン>に移り住んだ時期、この村に法王のための新しい別荘が建てられたことに由来する。カトリック教会の頽廃ぶりを攻撃された法王は、内紛から逃れるようにしてアヴィニヨンにやって来たのだ。俗に「アヴィニヨン捕囚」とも呼ばれる教会二分裂の時代はその後70年続き、その間に歴代の法王が第二のイタリアと呼ばれたこの南仏の地で、栄華の日々を送ったという。法王に献上するワインを作っていたシャトーヌフ・デュ・パプは、次第にその名が知られるようになり、コート・デュ・ローヌを代表する産地のひとつとして今も栄えているのである。そんな歴史あるカーヴの中でも、最も古くからある葡萄園のひとつ<シャトー・ラ・ネルト>を訪ねた。その名が示すとおり「シャトー」、つまり城である。この城が有する広大な葡萄畑は、他のワイン農家の中でもひときわ眼を引くスケールだ。畑の中を通ってアプローチを進んでゆくと、やがて瀟洒な館が見えてきた。16世紀中頃に建てられたものだという。日傘をさした高貴な貴婦人が今にもテラスから出てきそうな、優雅な佇まいである。この館の一部が事務所と酒蔵になっているらしい。おずおずと薄暗いカーヴに入ってみると、ひんやりと湿った空気が肌にまとわりつき、ふわりとアルコールの香が漂う。左右両側に巨大な黒いワイン樽がズラリと並んでいるさまは、壮観な眺めである。この蔵の中で、ワインは静かにゆくっりと熟成するのだ。デギュスタシオンでは、数種類のワインを賞味させてもらった。赤、白、ロゼ、どれも素晴らしい味と香りだ。ほろ酔い気分になって大満足。素敵な体験だった。当分の間は、酒蔵めぐりにはまりそうである。

今は、<フレンチ・パラドックス>の影響で、日本でも赤ワインの需要が急激に伸びているらしい。またプロヴァンスにも、ソムリエを目指す日本人留学生が多くやってくるようになった。日本のワインブームもどうやら本格的になってきたようだ。コート・デュ・ローヌは、日本ではまだそれほど知名度は高くないが、廉価でも上質のワインが手に入る。ヴァン・ヌーボーのこの季節。コート・デュ・ローヌで、南仏の太陽の香りを味わってみてはいかがだろうか?

今回アクセスしたページ


Made in Provence
(http://professional.gen.com/provence/index.html)
Vins des Cotes du Rhone
(http://www.vins-rhone.com/)
Chateauneuf du Pape
(http://www.chato9pape.enprovence.com/anglais/)
Avignon et Provence
(http://www.avignon-et-provence.com/avi/gb/pres/p1.htm)
Chateau La Nerthe
(http://www.laprovence.com/lanerthe/)
サントリー
(http://www.suntory.co.jp/index.html)


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