栗田涼子

 昨年から準備をすすめてきたオンラインショップが、ようやく開店にこぎつけそうで、このところ大忙しの毎日です。インターネットが消費者と生産者を結ぶ、第二の市場(マルシェ)になることを願っての船出です。農家、市場、そしてインターネット・・・ 一見矛盾するこの三者を、なんとか幸福なマリアージュ(最高のとりあわせのこと)へと結びつけたいのですが、果たしてうまくいくのかどうか。

◆◆今月の栗田さん〜「グルメ」再考◆◆

ランスの片田舎に住むようになって一年余りが過ぎた。日本とは違った生活空間の中に身を置いているうちに、ものの見方や考え方が少なからず変わったな・・・と感じることは儘あるけれど、何よりも大きく変化したと実感するのが私自身と「食」との関わり方だ。元来、美味しいモノを食べるのは好きな質だが、もっとも基本的で日常的な行為でありながら、食べることについてそれほど関心があったわけではない。東京のような大都会では、お金さえ出せばそれこそ世界のあらゆる料理を食べることができるが、食材そのものの本当の美味しさ出合う機会が少なかったように思う。それが、フランスのしかも小さな村に暮らすようになって改めて「食」に開眼したのは、やはり農業の現場を目の当たりにすることになったからだろう。
 例えば、プラスチック容器に入ったキズ一つないきれいな野菜を買うのが当たり前だと思っていた頃、この野菜が一体何処でどんな風に作られるかなど、考えたことはなかった。しかし、畑で働く人々の姿を間近に見たり、野菜や果物が色づき実ってゆくのを眺めている今、自分自身の生活と「食」との繋がりが不透明でなく、とてもリアルなものに感じられるのだ。

本は今、空前のグルメブーム。食コーディネーターとか料理評論家といわれる人達が、これほど世間の注目を集め、活躍している時代は未だかつてなかったろう。彼等のお目に適うか適わないかで、レストランや店の客行きが左右されるご時世だ。現在、日本で引っ張りだこの人気料理評論家、山本益博の<ウィークリーてれすこ>を見てみよう。注目のレストランや食材、一流の料理人など、食に関する様々な話題が紹介されており、特にフランスの食文化について詳しい。例えば、厳しい審査で毎年星つきレストランを選ぶことで有名な「ミシュラン」のエピソードや、名高いフランス人シェフとの交流など、専門家ならではの小気味よいエッセイを読むことができる。これらを読むと、改めて美食道の奥深さを知らされるとともに、誰もが一流のフランス料理を味わい、最高級の食材を手に入れることができる日本という国の豊かさをあらためて思う。

かし、ともすると目新しさや高級感ばかり追いかけ、コマーシャリズムに乗せられた日本のグルメブームには、何か本質的なものが欠けているようにも感じられる。
 イメージばかりが先行して、肝心な大地と人と食の連鎖が見えてこないのだ。いくつもの流通経路を経た後、スーパーの売場に整然と列ぶパック入りの食材しか見ることのできない日本の現状(とりわけ都会)では、それも無理のないことなのかもしれない。実際、私が南仏に来て「食」への眼が開かれたまず最初のきっかけは、村市場での買い物だった。
 フランスでは、どの地方に行っても必ず朝市(マルシェ)が立つ町や村がある。私の住んでいるガール県も例外ではない。毎週土曜日に朝市が出ることで知られる村<ユゼス>を訪れてみる。<オリーブ>やハーブなどプロヴァンス特有の産物のほか、シャクトリーと呼ばれるハムやソーセージを売る屋台、自家製山羊のチーズ、野菜、パン、ジャムやワインを売る農家、<トリュフ>の量り売りなど、百軒ほどの小さな店がところ狭しと集まった広場や通りはたいそう賑やかで、いつ行っても活気がある。店とは名ばかりの、長テーブルに品を並べただけの青空店舗で、売っているのは近くの農家や生産者だ。試食させてもらいながら、「今年のオリーブオイルは出来がいいよ」とか「胡桃入り蜂蜜を試しに作ってみたんだけど、どう思う?」などと、店主と話をするのもまた楽しい。(この大きなお腹のおじさんが丹精込めて作ったのか・・・)と思うと、パン一つにも愛着が湧いてくる。生産者と顔を向き合わせながら、直にコミュニケーションできるのが、初めはとても新鮮に感じられたものだ。
 いつかワイン作りをしている修道院を訪ねて、一面に広がるブドウ畑を見せてもらった時には、(ああ、この土と空気で育ったワインなのか!)と感慨を覚えたりもした。生産と消費のサイクル、モノと人の流れと自分自身の生活との繋がりを、このときハッキリとした手応えを持って感じられたのだ。

京の<築地市場>や、京都の台所<錦市場>など、日本にも有名な大市場はいくつか知られているが、地域の住民と生産者がもっと身近に結びついた地方の小さな市場は、これからますます消えていく一方なのだろう。近頃ではフランスでも、大型スーパーで買い物をする人がますます増えてきている。それでも、人々は地元の市場を今なお大切にしているし、そうした消費者の支えによって、細々ながら小さな生産者や農家が仕事を続けていけるのだ。今後も、マルシェがなくなることはないだろう。

 飽食の現代。有名レストランや料亭での最高級の料理もたまにはいいけれど、もっと身近な日常の「食」にこそ、本当の贅沢が求められてもいいのではないだろうか。

今回アクセスしたページ


マスヒロのてれすこ
(http://www.so-net.ne.jp/telesco/index.html)
Bienvenue au Pays du Pont du Gard - Le march duzes
(http://lepontdugard.com/html/marche.html)
la route l'olivier
(http://www.oligovar.com/Default.htm)
Provence - Produits regionaux
(http://www.provence.guideweb.com/produits/prod_region_f.html)
ザ・築地市場
(http://www.tsukiji-market.or.jp/index.html)
京都の有名商店街
(http://www.joho-kyoto.or.jp/~shop/indexsj.html)


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