栗田涼子

WebMagでコラムを書かせていただくようになってから、約一年が過ぎました。これまで読者の方から、励ましのメッセージや質問をいただいていたにも関わらず、チェックを怠ったがために、長らく返事を書かないままになっていました。本当に本当にごめんなさい!!皆さん、これからもどうぞよろしくお願いします。

◆◆今月の栗田さん〜春だから・・・ 墓石探訪!?◆◆

よいよ春本番! ここ南仏では今、ミモザが満開だ。煙るように咲き誇った黄色い花が、青い空にくっきりと映えて美しい。少し車を走らせれば、白い小さな花を鈴なりにつけたアーモンドの木や、薄桃色の愛らしい花のアプリコットや桃の木を、道路端のあちらこちらで見かけることができる。日本も今ごろは、桜が満開だろう。天気のよい日には、外に出て、フラッと散歩でもしてみたくなるこの季節。でも、花見客で混んだ公園は嫌だし、さて何処へ行こうか・・・ と行くあてに迷ったら、「墓石探訪」に出かけてみてはいかがだろう。墓参り以外はあまり訪れる機会がない墓地だが、緑ゆたかで人もまばらな霊園は、静かに春の訪れを満喫したい人には、案外最適の散策コースなのではないだろうか。目的もなく他人の墓所に出入りするのは死者への冒涜だ、と受け取る人もいるだろうから、訪れる際は参拝者への配慮が必要なのはいうまでもないが、思いもかけず著名人の墓に出くわしたり、一風変わったデザインの墓石が見つかるなど、さまざまな興味深い発見があるはずだ。

際、パリにある有名な墓地「ペール・ラシェーズ」は、観光ガイドブックにしっかりと案内が出ているくらい、訪れる人の多いことで知られている。かつてナポレオン統治時代、墓地としては当時あまり人気のなかったこの墓地に、なんとか注目を集められないものか、と思案の末考え出されたのが“有名人のお墓移転作戦”。モリエール、ラ・フォンテーヌ、バルザックなど、名だたる著名人の墓がここに引っ越すことになったという。
 <パリの墓地散策>では、ペール・ラシェーズ墓地に関する歴史上のエピソードが紹介されているほか、ネット上で有名人の墓参りをすることもできる。リストを見てみると、プルースト、オスカー・ワイルド、アポリネール、ショパン、ラディゲなど偉大な芸術家にはじまり、エディット・ピアフ、イブ・モンタン、メルロ・ポンティからジム・モリスンまで、錚々たる顔ぶれに驚かされる。日本の墓と違い、時にはまるでモニュメンタルな芸術品のようなこれらの墓石は、墓の主たちに劣らず個性的だ。例えば、パリで亡くなったアイルランド出身のオスカー・ワイルドの墓などは、巨大な石像彫刻のようだし、19世紀アールヌーボーのガラス工芸作家として有名なルネ・ラリックの墓石には、クリスタルガラスの見事なキリスト磔刑図がはめ込まれている。写真に添えられた解説を読みながら、これらの墓を眺め、生前の彼等に思いを馳せるだけでも、墓参りをしているような気分が味わえるはずだ。

リの墓地といえば、もう一つ忘れてならないのが14区の地下にある<カタコンブ>だ。全長1700メートルにおよぶ地下納骨所には、何百万人分もの遺骨が今も静かに眠っている。現在のレ・アル地区にあった古い墓地が閉鎖され、それまで千年もの長きにわたって堆積されていた人骨が、18世紀末頃、この地下に移動されることになったという。まるで、骸骨でできた洞窟のごとく、壁には人骨が一分の隙もなく整然と並べられており、幾何学模様や、なんとハート型に骨を配列してあるところもある。われわれ日本人とヨーロッパ人とは、遺骨に対する感覚がずいぶんと異なるようだ。かつて、中世ヨーロッパの哲学者たちは、いつも身近に頭蓋骨を置き、それを眺めては「メメント・モリ」(ラテン語で“死を忘れることなかれ”の意)の言葉とともに、限りある「生」に常に思いをめぐらせていたという。そういえば、あの渋澤龍彦の書斎にも確か、氏のコレクションの一つとして頭蓋骨が置かれていたのではなかったか・・・。今では、知る人ぞ知るパリの観光名所となったこのカタコンブ。はじめは興味本位でここを訪れた脳天気な観光客も、物言わぬ骸骨の山に囲まれているうちに、死と隣り合わせの自らの生に思い至って、慄然とせずにはいられないはずだ。

ころで、日本の墓の場合はどうだろう。西欧の開放的なそれとは違い、日本の墓地にはもっと厳粛で近寄りがたい雰囲気があるように思う。やはり死生観が違うせいだろうか。死をめぐるあらゆる情報を提供する<死の総合研究所>のホームページでは、日本人の死生観についての考察や、葬儀の変遷史などが紹介されている。例えば、「東西棺の話」を読んでみよう。ギリシャ・ローマ時から古代中国まで、古今東西の埋葬の仕方の違いや、棺のシンボリックな意味が解説されており、東西の“あの世感”の違いを考える際のヒントを与えてくれる。この他にも「江戸時代の葬儀のマナー」「アメリカの霊園事情」等々、通常のわれわれの生活からはかけ離れた「死」に関する様々なトピックを読むことができる。また、末期医療や相続、葬儀の方法など、実際的な事柄について書かれた項もあるので、いざという時に必要なアドヴァイスを得ることもできるだろう。

て、墓地を訪れる前に<国松石材による“石と墓の世界”>で、予めある程度の基礎知識を得ておこう。「お墓の名称」の図版をみると、墓石の各部所には、それぞれ名前がつけられていることがわかる。また、墓地でよく見かける「五輪塔」についての解説もある。五つの輪を重ねたようなこの不思議な塔には、それぞれ梵字が刻まれているが、これは、密教の教えに基づいて「空・風・火・水・地」の宇宙を構成する五大要素を下から順に積み上げたものだという。五輪塔の起源は平安時代にまで遡ることができるが、中国や朝鮮では発見されていないため、日本独自に創作されたものと考えられているようだ。以前から墓を訪れる度に疑問に思っていたのが、なるほど、深い意味合いが込められていたのである。

ざ、お墓を訪れようにも、一体どこへ行ったらよいのやら・・・ という読者には、<文学者掃苔録>が参考になるだろう。タイトルにあるとおり、このサイトは、日本の著名な文学者の墓の探訪記録である。幸田露伴、夏目漱石、芥川龍之介、永井荷風、志賀直哉、三島由紀夫、川端康成、宮沢賢治、寺山修司、松本清張、遠藤周作など、167名におよぶ偉大な作家たちの墓が登録されている。墓石の写真だけでなく、各々のプロフィールや、墓を訪れた際の印象などが記されていて、読み物としても面白い。ちょっとした文学者名鑑といったところだ。個人のホームページだが、丹念に訪ね歩き、丁寧な解説を添えるとなると、かなりの労力と熱意が必要であったろう。ミーハーな興味からでなく、偉大なる先人たちの墓を詣でることで、自身の生を見つめようとする作者の真摯な姿勢が伝わってくる。

 春、今が盛りと咲き乱れる桜を見ていると、何故か「死」を連想してしまうのは、私だけではないだろう。その儚さゆえ、一瞬の煌めきゆえに、散り行く花は私達の胸を打つのだ。この季節、フランスの各地では、死と再生を祝う謝肉祭のカーニバルが行われている。春は死者が蘇る季節なのだ。メメント・モリ・・・ この言葉を胸に、私も墓石探訪に出かけてみることにしよう。

今回アクセスしたページ


ksm home page
(http://www.ksm.fr/default.html)
Les Catacombes de Paris
(http://www.multimania.com/houze/)
お葬式プラザ ホームページ
(http://www.sekise.co.jp/sougi/)
国松石材による“石と墓の世界”
(http://kunimatsu.com/index.shtml)
文学者掃苔録
(http://www.jah.ne.jp/~viento/soutairoku.html)


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