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 今月の宮内さん

ビラの精神


        10数年前、大学入学のため四国の田舎から東京に出てきた私は、突然嵐のようなビラに出会った。
         当時私が通っていた大学では、問題を引き起こした学生に退学などの処分を課する制度を大学当局が作ろうとしていた。これに対し、一部の学生たちが猛烈な反対を繰り広げていた。

        直、私は何がなんだかわからなかった。そこでかかわりをもたないという選択肢も当然あったし、実際、多くの“賢い”学生たちはこんな問題にかかずらわらなかったのだが、なぜだか私はこの問題に興味をもってしまった。「おもしろいじゃないか」。というのも、「学生が問題を引き起こすというのはたいていの場合当局との関係で引き起こすのだから、当局が一方的に学生を処分する権利をもつのはおかしい」という学生たちの主張の方が、大学当局の主張(というほどのものは実はなかった)よりも説得力があると思ったからだ。大学とか大学の先生とかにいくらか幻想を持っていた私は、「へえ」と思ったのだ。一部の教員が、この問題について、当局を批判するビラを作っているのもおもしろかった。

        がて、私もビラを書く側になった。私はビラを書くときに、いくつか自分で決めたことがあった。自分の言葉で書くこと。わかりやすく、説得力のある言葉で書くこと。
         しかし、紙のビラには限界があった。なによりも、渡せる相手が圧倒的に限られていた。お茶の水駅前でビラを配っても、本当に届けたい相手に届いているかどうか、さっぱりわからないままだった。

        ームページというビラは、この点魅力的に見える。たとえば、オーストラリア西パプア協会は、知られざる西パプア(イリアンジャヤ)問題について、世界に注意と関心を呼びかけるホームページ"West Papua Information Kit"を作っている。1969年、インドネシアに“併合”されて以来、資源開発の対象として、あるいは国内移民のはけ口として使われてきたこのニューギニア島の西半分の地域について、"West Papua Information Kit"は、あくまでそこに住む人の視点から、住民の健康問題、人権問題、そして資源開発と環境破壊の問題を、魅力的な写真とともに、静かに訴えている。そして、最後には、私たちにできることをいくつか提案している。

         日本のマス・メディアは、「アメリカ・フロリダ州で大きな竜巻が起こりましたが、幸いけが人はない模様です」とは報道しても、南太平洋のソロモン諸島でいま大規模な森林破壊が進んでいて、その中で、伐採反対住民のリーダーの一人が殺されていることは報道しない(グリーンピース・インターナショナルのページ)。
         中国の三峡ダムなど、世界の大規模ダム建設に反対するInternational Rivers Networkのホームページは、ビラという範疇をすでに超えている。(1)問題についての初心者向け解説のページがあること、(2)問題に興味を持った人が何をすればいいのかサジェスチョンがあること、(3)訪問者への今後のフォローがあること(International Rivers Networkでは、申し込めば、メーリングリストによるup-to-dateな情報提供がある)など、これからホームページを開きたいと考える日本のNGO、市民グループにはたいへん参考になる。

        本の各地の市民グループも、ホームページの有効性に気がつき始めている。そのひとつ、「ゲンゴロウの里基金委員会」は、福井県敦賀市の中池見湿地の豊かな湿地環境が大阪ガスのLNG備蓄基地計画で危機に立たされている問題について、「トラスト運動」という形で運動を展開している。会のホームページはこの運動の趣旨についてたいへんわかりやすく説明すると同時に、中池見の環境のすばらしさについてホームページというメディアをうまく使って解説している。「このトラスト運動は、中池見湿地を人と自然が共生する自然環境学習の場として、また近年全国的に希少になった生物多様性に富んだ低湿地の原風景を体現できる自然観察の場として、保護・保全する第一歩です。そしてわたしたちは、『フィールドミュージアム=野外博物館』つまり中池見湿地全てをそのまま博物館として維持することを提案します」。中央のメディアには載らない動きだ。なお、日本の市民グループ、NGOのホームページの現時点におけるおそらく最も詳細なリストは、市民活動イエローページ(市民フォーラム21)にある。

        ちろんビラとしてのホームページも万能ではない。発展途上国の多くの人々にとって、ホームページもe-mailも別世界の出来事だ。そこでは、やはり紙メディアや口コミがいまでも中心であり、有効である。インターネット上のビラの一群には、はっきりと先進国への偏りがある。
         インターネットという技術そのものに、私は明るい未来も、暗い未来も、感じていない。明るい未来か、暗い未来かを決めるのは、技術ではない。伝えるべきことをきっちりとわかりやすく伝えようとする人たちがいて、それをちゃんと受けとめようとする人たちが世界のあちこちにいること。技術がその間をとりもつとき、〈ビラの精神〉は、国境を軽やかに越える。





        今回アクセスしたページ

        West Papua Information Kit
        (http://www.cs.utexas.edu/users/cline/papua/)
        グリーンピース・インターナショナル
        (http://www.greenpeace.org/~comms/forestry/solomo.html)
        International Rivers Network
        (http://www.irn.org)
        ゲンゴロウの里基金委員会
        (http://iwakuma.fpu.ac.jp/nakaikemi/nakaikemi.html)
        市民活動イエローページ(市民フォーラム21)
        (http://chem.human.nagoya-u.ac.jp/~matswra/cforum21/npoyp.html)