WebMag logo

 今月の宮内さん

市民とリサーチ


        んなこと言うのはちょっと気恥ずかしいけれど、私はプロのリサーチャーである。一応「社会学者」(これもちょっと恥ずかしい)を名乗っていて、南太平洋のソロモン諸島というところで村の経済状況の調査をしたり、沖縄の離島で移民経験者の聞き取り調査をしたりしている。
         世の多くの人は、「調査」と聞くと、何か特別なテクニックがあると思っている。けれど、リサーチなんて誰でもできる。ただちょっとしたテクニックと心得といくらかの時間が要るだけだ。

        直化した行政でも利潤追求の企業でもない、市民グループ(NPO)の活動は、今後の社会のありかたを考えるとき、決定的な意味合いをもってくるはずだ。そのさい、大事になってくるのは市民による調査活動だ、と私は考えている。熱帯林伐採のことがクローズアップされたとき、少なからぬ市民グループが「熱帯林保護のために牛乳パックのリサイクルを」と訴えた。しかし、ちょっと調べれば、熱帯林伐採と牛乳パックがほとんど関係ないことはわかったはずだった。あいまいな情報にもとづいて行動することほど恐ろしいことはない。ちなみに日本が輸入している熱帯林の多くは、建築用のコンクリート用パネルとなる。なのであるが、たとえばgooで「熱帯林」を検索すると1,000件以上検索される(日本国内)のに、そのうちコンパネに言及しているのは、大林組NKKなど企業のホームページのみだった。

        井県三国町沖にナホトカ号が漂流して、重油汚染にみまわれたとき、たくさんのボランティアがやってきた。しかし、毎日重油回収をやってきた地元の人たちと、ボランティアの人たちの間には微妙な意識のずれがあった。「たまには休みたいけど、ボランティアの人ががんばっているときに休みにくい」という地元民の声もあった。ボランティア・グループがその溝を埋めるために発足させたのは「市民調査隊」である。地元民の生の声を「調査」することが当初の目的だったが、調査そのものがボランティアたちと地元民との間のコミュニケーションになり、相互理解の役割を担うことになったという(『福井新聞』による。なお、インターネットに公開されている『福井新聞』の重油事故関連記事は、今後のボランティアのあり方を考える上で、示唆に富んでいる)。

        調査のない善意は、容易に悪意へ転化しうる。
         調査に決まった手法はないが、インターネットも調査の一手段(あくまで一手段だけれど)として威力を発揮する。研究者の間で有名なUnCoverは、従来なら研究者が独自の情報網でしか手に入れられなかった世界中の雑誌記事や論文が、瞬時に検索でき、また必要なら原文をFAXで送ってもらうことも可能だ(もちろん有料だが、クレジットカードで簡単に支払える)。17,000の英文学術雑誌をカバーし、700万(!)の英語論文のタイトル(場合によっては要約も)が収録されている、この驚異的な文献検索システムに、私もこれまでずいぶんお世話になった。日本語文献についての同様のサービスは、文部省の学術情報センターが行っている。このサービスは、telnetで使うもので、非常に便利なのだが、いかんせん大学関係者しか利用できないことになっている(このあたりは本当に困ったものだ)。一般の人が使えるサービスは、NICHIGAI ASSISTがホームページ上とNiftyServe上とでやっている。頻繁に使う人なら、NICHIGAIWebの「ジャーナルインデックス」(一般誌)の380円/月や「雑誌記事索引ファイル」(学術雑誌)の970円/月は悪くない。しかし、なんと言ってもUnCoverは検索だけならタダなのだ。情報インフラとでもいうべきものが、残念ながらアメリカと日本ではずいぶん違うということか。ちなみにUnCoverは、学術雑誌だけではなくて、一般雑誌の記事も収録していて、たとえば「ゴジラGozilla」で検索したら36の記事がヒットした。

        界の市民グループがどんな問題にどう取り組んでいるかを知るには、gooAltaVistaなどでホームページを検索するのも一つの手だが、たぶんAPC(Association for Progressive Communications)にtelnetでアクセスするほうが有効だろう。NiftyServeの「市民運動・生き活きネット (FSHIMIN)」の国際版とでもいうべきAPCが蓄積してきた情報量の豊富さは、まだまだWWWの世界に負けない。インターネットといえばWWWとなっているが、どっこいtelnetの世界も捨てたものではない。
         が、調査マンから言うと、本当に必要な情報は、なかなかインターネット上にはない。紙に書かれた情報も、インターネット上の情報も、世界の40憶の人間が脳の中にため込んでいる情報量に比べれば、まことに微々たるものだ。情報のほとんどは人がもっている。インターネットでもっとも役に立つのが結局のところe-mailだと言われるのもそこにある。自分が知りたいことを誰が情報としてもっているのかをさぐりあてることがまずもって必要であり、新聞のデータベースもインターネットも実はここでこそ威力を発揮する。私もこの4月に北海道にやってきて、さっそく北海道新聞のデータベース(オーロラネット経由)を使い始めたのだが、これがなかなかいい。というのも、朝日新聞のような全国紙のデータベースではなぜか地方版が省かれているのに対し、北海道新聞データベースでは、地方版がちゃんと収録されていて、かなり細かい情報までフォローできる。

        報公開、が叫ばれている。そのとおりだ。しかし、情報公開は、正確な情報を取ってきてそれを活かそうとする市民がいてはじめて意味をもってくる。