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 今月の宮内さん

デジタルな収蔵庫


        ンターネットという分散型の情報ネットワークに接すると、これを使っていろんなことができそうな気になってくる。分散型であるということは、各地でそれぞれ少しずつ蓄積した情報が、全体から見るとすぐに膨大な情報になるということである。しかもユーザから見ると、インターネットという技術はそれほど難しいものではない。何かやってみたくなるのが人情だ(私もそうだ)。

        ジタルアーカイブという構想がある。アーカイブ(archive)という言葉は、もともと、国家の記録や公文書を保管しておく場所を指している。デジタルアーカイブは、さまざまな歴史的記録や文化財を、デジタルで蓄積、保管し、公開しようという考え方だ。記録や文化財は、もともと不定形なものだし、公開すると散逸してしまう危険があるので、公開しない場合が多い。また、一ヶ所に置いておくと、他の場所では見られない。イギリスの公文書館に収められた、イギリス植民地時代のインドの記録は、インドでは見られないのだ。デジタルアーカイブはそれをクリアする可能性をもっている。

        川県は県を挙げてデジタルアーカイブに取り組んでいる。<石川新情報書府>と銘打ったページがそれだ。輪島塗り、九谷焼など、石川県の伝統文化を、多角的にアプローチし、プレゼンテーションしている。たしかに洗練されたページだし、内容も悪くない。しかし、なぜ輪島塗り、九谷焼ばかりなのか? どうも県の宣伝の域、観光案内の域を脱していないように私には思える。

        ジタルアーカイブ推進協議会>というものが1997年4月にできたらしい。石川県も参加しているという。ホームページを見てみた。――会長の平山郁夫氏が、「私が提唱いたしております『世界文化財赤十字構想』」の精神にのっとってぜひデジタルアーカイブの普及につとめたい、と挨拶し、続いて、文化庁のおえらいさん、通産省のおえらいさん、自治省のおえらいさんが、それぞれ、わが省もこんなことしてます、今後もがんばります、と挨拶している。そしてデジタルアーカイブ構想の概念図(お役所は本当にこういうのが好きだ)が出ている。概念図の中には、「地場産業の活性化」なんていうのもしのびこんでいる。このあたりでちょっとげんなりした。ちょっと官主導すぎやしないか。ちょっと「文化遺産、国家遺産」にかたよりすぎないか。

        じ協議会に参加している中でも、長野県上田市の試みは、もう少しおもしろい。<上田情報蔵>と銘打ったページには、醤油久保橋という一風変わった橋、鎌研ぎ石という、昔牛馬用に草を刈った場所にあった草刈り鎌を研ぐための石、千曲川で行われる「つけば漁」という漁、など、上田市のさまざまな歴史、情景が3,000点の写真とともに掲載されている。より人々の生活に近いところでの記録である。上田市は、このページとは別に、動画も含めた上田市の歴史的な記録をCD-ROMで制作しており、これもいずれネットワークに公開していく予定だという。

        のデジタルアーカイブ推進協議会はデジタルアーカイブ構想を「有形・無形の文化資産をデジタル情報の形で記録し、その情報をデータベース化して保管し、随時閲覧・鑑賞、情報ネットワークを利用して情報発信」(なんか日本語が変だなあ)と定義している。しかし、デジタルアーカイブ化すべきなのは「有形・無形の文化資産」なのか? インターネットという分散型ネットワークの上のアーカイブは、国の、ではなく、もちろん県の、でもなく、人々の記録の保管場所になるべきだ。

        うした意味で注目すべきデジタルアーカイブの例を2つ挙げたい。一つは、<カンボジア大虐殺の生存者たちのデジタルアーカイブ>だ。アメリカ在住のカンボジア人自身の手で作られたこのページは、ポルポト時代の大虐殺を生きのびた人々からの聞き取りを集めようとしている。「自分自身の生活史が大事なこともわかるし、忘れたい記憶をもう一度語ることの困難も分かる。しかし、もしそうした記憶がほんの数十年の間に忘れられてしまったとしたら、それがどんな意味があったのか学ぶことはできなくなる」。
         現在のところ5人の体験者の手記が掲載されている。正直言って、近親者が殺されていく彼らの手記を読むのはつらい。書いた方はもっとつらいはずだ。

        う一つ、日本のデジタルアーカイブで注目すべきものは、一人の個人がつくったものだった。<マッピング霞ケ浦>と銘打ったページは、製作者の前川道博さん(東北芸術工科大学デザイン工学部)の生まれた茨城県霞ケ浦の情景を、膨大な写真、膨大なページで描いてみせる。インデックスも、分類別、地域別、撮影日別、とちゃんと整理されている。これはすごい。このページを作るために「ページ自動生成ツール」を作ったという。このツールは後日、一般公開する予定だという。う〜ん、ぜひとも使ってみたい。