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 今月の宮内さん

世界の海苔、日本の海苔


        太平洋ソロモン諸島の小学校で授業をする。1回だけの授業だ。
         前回調査で訪れたとき、地元の小学校の先生と話をして、一度生徒たちに話をしてくれ、と頼まれた。「喜んで」と引き受けたが、何も準備をしていかなかったので、黒板に書く下手な絵以外、見せるものがなかった。今度はちゃんと準備をしていきたい。しかし、何について話そう?
         妻になにげなく聞いたら、すぐさま「海苔がいいんじゃないの?」という答えが返ってきた。「海苔?」。「だって持っていくの軽いじゃない」。
         なるほど。思いつきにしては悪くない。軽くて、珍しくて、話が広がるもの。海苔しかない。
         しかし、私は海苔について詳しく知っているわけではない。となれば、インターネットで調べてみよう。

        ソロモン諸島の公用語は英語なので、できれば英語で説明したものがあれば便利だな、と思い、<goo>で、「nori seaweed aquaculture」というキーワードをかけてみた。何件もないだろう、という予想と裏腹に、101件もヒットした。「nori seaweed」だけなら、1046件もヒットした。こんなに多いのは、寿司の説明の中で海苔についての触れられていることが多いなどの理由によるようだ。

        ワイの新聞<Star Bulletin>のオンライン版は、昨年8月28日の記事で、Labor Dayの催しに出される予定の韓国風海苔巻を披露している。Labor Dayはハワイのメーデーで、1946年に2万人の砂糖きび労働者がストライキを打ったのを記念した日らしいが、そんなことよりも、韓国風海苔巻のほうが関心を呼んでいるようだ。レシピを披露したのは病院で働くロレーン・ヒガさん。ヒガという夫の姓は、おそらく沖縄からの移民を示しているだろうが、ロレーンさん自身は韓国系なのだろう。ハンバーガー、フィッシュケーキ、たまねぎ、韓国風バーベキュー・シーゾニング・ミックス、唐辛子を用意し、適当に海苔で巻き、それをサラダオイルで揚げるのだそうだ。この場合の海苔は、あの塩味の効いた韓国海苔だろうか。ちなみに韓国海苔の作り方は、和歌山の会社<いそかや海苔>のページにある。

        界の海苔生産のほとんどは日本と韓国だが、実はアメリカでも海苔生産の試みが行われている。
         アメリカの北東地方海洋学研究大学プログラムが出している<Nor'easter>という雑誌のオンライン版は、1996年春夏号で、海苔養殖を特集している。それによると、米国メーン州では、その海苔養殖プロジェクトが、いくつかの大学の共同研究として進められている。現在養殖されているのは日本の海苔(Porphyrayezoensisという学名らしい)だが、今後はアメリカの海苔の種で実験を進める予定だという。「ノリは奇跡だ。ノリは自分が育つ水をきれいにするし、汚れた水の富栄養分を吸収してくれる」。「ノリの産業を広げることは北東部地域の経済をうるおすだろう。ノリは栽培にそれほどコストのかからないのである。ノリ養殖は失業状態の漁民など雇用することができる」。

         ところで海苔はどうやって作られるのだろう。

        房総黒潮のめぐみ>(千葉漁業士会館山支部)のページでは、漁協の指導漁業士畑中順一さんが、千葉での海苔養殖の様子を描いている。パチンコ歴30年、「漁師に大事な動態視力を養うにもいい」からぜったいにパチンコはやめないと豪語する畑中さんによると、海苔の種つけは9月上旬。種つけのあと、いったん冷凍庫に入れる。9月下旬から海苔の種網を海に広げ、一部をそのまま育て、一部は途中で冷凍庫にしまいこんでしまい、こちらは冬〜春の海苔生産用のストックになる。網の張り方は、従来型の「支柱柵方式」と、浮きといかりで固定した木枠を使う「ベタ流し方式」とがあり、千葉の場合9割が「ベタ流し」。そして海苔の収穫は「高速摘採船」という機械を使う。収穫した海苔はその日のうちに、やはり機械で乾海苔にする。<文化庁>のページに載っている東京都大田区大森の海苔生産用具(重要有形民俗文化財)のようなものはすでに使われていないわけだ。
         ところで、この「南房総黒潮のめぐみ」のページ、とてもおもしろい。海の男たちの絵画展があったり、漁師がすすめるおいしいお店の紹介があったり、さらには、漁協で取り組んでいる海苔養殖の共同化の報告があったりする。海苔養殖の共同化の報告は、本格的なレポートで、昭和60年から、養殖の過程全般を個人管理から共同管理へ移行させて成功してきた成果が報告されている。生産者の結束を固めながら、努力を続け、一人あたり生産量は増えた。が、一方で、労働時間が増大したり海苔の質が低下したりといった問題点もまた生まれた。困難はあるけれど、「共同化の問題は一層の共同化で解決していく」とレポートは結んでいる。
         こうした報告は、これまでなら、関係者や研究者でなければ目にすることもなかったものだ。海苔を食べない人はいないけれど、その海苔の生産をめぐって今何が起きているのかを知る人は少ない。
         そんな漁師さんたちのがんばりも、ソロモン諸島の子供たちに伝えたい。