宮内泰介

 先日アフリカのある言語を研究している言語学者とお酒を飲んだ。日本では「ブッシュマン」として知られているサンの言語を披露してくれた。口の中でいろいろと音を鳴らしながら、それと並行して音を出す、およそ人間業とは思えない言葉だった。それにしてもそんな言語を操れるようになる言語学者はおそるべし。でもお酒の席の“芸”としては最高だった。

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◆◆今月の宮内さん〜方言ワールド◆◆

20年ほど前、初めて東京に出てきたとき、隣の千葉県に稲毛(いなげ)という地名があるのにびっくりした。私のいなか、愛媛県松山市では「いなげ」とは「奇妙な」とか「変な」とかいった意味で(う〜ん、これではしかしニュアンスを伝えられない)、顔をしかめながら使うような言葉なのだ。そんな言葉が公然と地名になっているのに驚いた。もっとも驚いているのは私だけで、稲毛に住んでいた人が松山に移り住んだら、逆にびっくりするだろう。
 そんなわけで、方言のページにどんなものがあるのかと調べてみると、これがびっくり。多いなんてもんじゃないくらいに多い。変な話だが、30年前にもしインターネットがあったとしても、こんな“方言ブーム”はなかったと思う。地域アイデンティティが強まったということなのか、はたまた郷愁にすぎないのか、さだかではないが、それぞれの地域への自信と理解が深まったことは確かなようだ。

本の方言の豊かさを知りたいなら、まずは<ふるさとの方言>のページをのぞいてみよう。方言に関する日本各地のホームページが網羅的にリンクされている。というわけで、私も、ここからたどっていくつかの方言ページを見てみた。
 しかし、つらつら見ていくうちに、方言ページの豊富さは分かったが、不満も残った。どこまでが現在も使われている言葉なのか、使われているとしてもどの年齢層や地域の人が使っている言葉なのか、といったことまでちゃんと示したページは、残念ながら多くなかった。

んな中でも、<誰でも分かる鹿児島弁講座>は、「文法編」、「単語編」、「実践編」と、充実した内容を誇っている。音声もwavファイルで充実している。このページは、作成者の世代(20代)中心の「鹿児島弁」だそうだが、「鹿児島では、小学生、中学生あたりまではばりばりの方言を使いますが、高校生になるにつれて、イントネーション以外はなぜかほとんど標準語になります」。これは、おもしろい現象だ。どうしてだろう?

澤健之さんの<茨城県の方言>のページは、一見ふまじめそうだが、実は大まじめなページ。多くの人から情報を集めて、なんだか非常に充実したページなっている。それにしても、「あおなじみ」は青あざのことだというし(茨城の人はこれを標準語だと思っているらしい)、「いしこい」は「非常にどうしようもなくけなしたいほどボロいさま」という最大級の罵倒語だというし、「にっせい」というと日本生命ではなくて日立製作所のことだというし(そう言えば、私の田舎=松山でも、昔の電電公社=現NTTのことをなぜか「でんつう」と呼んでいた)、とうてい私には茨城に住むのは難しそうだ。

ころで日本では「言語」と「方言」は別のものと考えられているが、実は、どこまでが言語でどこからが方言かは、それほどはっきりしているわけではない。以前、ポルトガル語をしゃべるブラジル人とスペイン語をしゃべるアルゼンチン人が話をしているところに立ち会ったことがある。それぞれの言葉をしゃべって、お互い「だいたいわかる」と2人は言った。100年前、青森の人と鹿児島の人が話したら、さっぱり通じなかったに違いない。どっちが言語で、どっちが方言なのか。

 <ETHNOLOGUE: Languges of the world>は、学問的なレベルを保ちながら、世界中の言語を網羅しようという、とてつもないもくろみのページである。「世界中にどれだけ言語があるか? それは誰も知らない」と言いながら集めた言語は6,700(!)。世界でも最も話されている中国語(北京語。8億8,000万人が話す)から、ソロモン諸島ウトゥプア島アスンブオ村の住民60人にしか話されていないアスンブオ語まで(もっと言語人口が少ないものや、話し手がすでにいなくなった言語もたくさんある)の6,700言語である。A国にはA人がいてA語をしゃべっている、と思いがちな日本人の思考を、この「ETHNOLOGUE」は見事なまでに打ち崩す。
 「ETHNOLOGUE」では、日本で話されている主要な言語を15個リストアップしている。アイヌ語、日本語、北奄美大島語、南奄美大島語、喜界島語、朝鮮語、国頭(くにがみ)語、宮古島語、中央沖縄本島語、沖永良部島語、徳之島語、八重山語、与那国語、与論島語、日本語手話、がそれである。手話がその一つに入っているのは慧眼だと思う。

 「ETHNOLOGUE」で独立した言語と認定(?)された八重山語を紹介したページに、<石垣島閑話>。言葉を紹介した「八重山方言」のページのみならず、八重山語で唄われた音楽が「オリジナルな音楽」のページに数多く載せられていて、実際に聞くことができる。 生は短いけれど、6,700のいくつかでも使えるようになると、人生はもっとおもしろくなるんだろうなあ。

今回アクセスしたページ


ふるさとの方言〜方言ページの道しるべ〜
(http://www.itl.atr.co.jp/dialect/)
誰でも分かる鹿児島弁講座
(http://www.dtinet.or.jp/~y-arima/hougen/kagoben.html)
茨城県inぶりぶり県
(http://www.harashima.t.u-tokyo.ac.jp/~yanagi/index.html)
Summer Institute of Linguistics
(http://www.sil.org/)
石垣島閑話
(http://www.big.or.jp/~ishigaki/)


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