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香港'97

▼インターネットを通じて伝わってくる香港

これまでイギリスの統治下にあった香港が、7月1日に中国に返還される。それを前にして、テレビ、新聞、雑誌などでは、香港についてのニュースや報道がたくさん流されている。しかし、マスメディアを通じての情報はどうしても断片的になりがちで、もっと詳しく知りたい、もっと深く知りたいという必要や好奇心に答えるのは難しい。また、過渡期を生きる街、香港で生活する個々の人たちの実感は、マスメディアからはなかなか伝わってこない。こういう時こそ、インターネットが役にたつのではないだろうか。
今月は、インターネットを通じて、どんな香港が伝わってくるかを試してみることにしよう。

  • 香港--------ねじれた現実を生きる都市
  • パラドックスその1
    -------植民地香港の繁栄
  • パラドックスその2
    ----一国両制 (一国二制度)
  • パラドックスその3
    ------香港が大好きだけれど外国の居住権をとる香港人たち
  • インターネットで発信される香港のさまざまな魅力
  • 香港在住フリーランスの人たちの香港レポート
    ------ポップ・カルチャーや食べ物とともに政治の話題も
  • 香港の芸能情報を発信するの東大生 (両親が台湾出身)
  • 香港アイドルにのめり込む女性マンガ家
  • 玩具のロボットが香港人に会いに行く

    ▼香港----ねじれた現実を生きる都市

    港は、パラドックスのかたまりのような所であり、メビウスの輪のようにねじれた現実を生きる都市である。香港の異様なバイタリティやちょっと怪しい魅力も、こうしたさまざまなパラドックスと切っても切れない関係にある。

    ▼パラドックスその1-----植民地香港の繁栄

    民地経済というと支配国に収奪されて疲弊した経済を思い浮かべがちだが、香港の場合には、皮肉なことに植民地下で経済的に大いに繁栄した。
    そもそも、1949年に中華人民共和国の成立以後も、香港が植民地として残ったこと自体、不思議といえば不思議だが、この点については石川羅生氏の「世紀末香港」第15回が解説してくれている。要するにいち早く中国共産党政権を承認したイギリスの外交的手腕と、中国政府の戦術的な判断の結果だったようだ。(香港が植民地となった経緯については、橋本光平氏の「返還後どうなるか?香港」に解説がある。)
    そして、共産党政権を嫌った中国大陸の企業家や専門技能者がたくさん香港に流入することになった。こうしたすぐれた人材と労働力が集まってきたことが、その後の繁栄の大きな要因となった。この人たちは、流れついた香港でなんとか生計をたてるために、必死になって働いたからだ。
    これに、イギリスのなかなか巧みな植民地政策がうまくかみ合わせられた言える。イギリスは、香港を関税のかからない自由貿易地域とし、法人税も所得税も低率に固定し、ビジネスに有利な環境をつくり、資本の流入と企業の立地を促したのだ。
    Ross H. Munro 氏は、"A City of Prosperity" の中で、イギリスのこうした経済政策と統治の安定性、信頼性と言論の自由の3つの相乗効果が 香港の繁栄をつくりだしたと言っている。統治の安定性、信頼性とは、政策が気まぐれに変わったりせず、役人の賄賂の要求が一般化していないことである。言論の自由とは、実際にはイギリスを批判することを除いた言論の自由だったようだが、中国や台湾、およびその他の華人社会についてのさまざまな言論や情報が自由に飛びかう場所になり、香港は中国人社会についての格好の情報収集の場となった。こういう条件が揃ったために、中国大陸と取引をしたり、投資をする企業は皆、香港にオフィスをもつようになり、中継貿易の基地、国際金融センターとして繁栄することになった。

    ▼パラドックスその2-----一国両制 (一国二制度)

    国政府としては、97年7月以降も香港のこうした繁栄をなんとか維持したい。そのために、中国側から出てきたのが「一国両制 (一国二制度)」や「港人治港(香港人による自治)」といった言葉である。つまり、50年間は香港の資本主義と香港人による統治を維持するという基本方針を中国政府が表明し、香港からの人材や資本の流出に歯止めをかけようとした。
    しかし、他方で中国政府は、香港の動きが本土の民主化運動にはずみをつけることを恐れており、香港の政治的な自由、言論の自由を狭い範囲に制限しようとしている。中国政府によるさまざまな形での香港の民主派の封じ込めの試みは、「世紀末香港」の第13回、30回などで伝えられている。また、C.W.Chong 氏の「香港News Report 3月17日」によると、香港の多くのマスメディアは、中国政府の目を意識して言論を自主規制をするようになっている。
    一方では、世界に開かれた都市香港の繁栄を維持しようとし、他方で、政治的な自由を狭い枠に押し込めるという中国政府のアクロバット的な試みがどんな結果を生むのか、今のところ誰にもよくわからない。

    ▼パラドックスその3------香港が大好きだけれど外国の居住権をとる香港人たち

    港人の多くは、中国の共産党政権を嫌って逃れてきた人たちやその子供たちだから、香港が中国政府の統治下に入ることにより、政治的、経済的な自由が奪われることを恐れている人が多い。とくに1989年の天安門事件があってから、その気持ちは切実なものになった。
    「香港News Report 3月10日」があげている数字によると、1989年〜96年の間に42万8千人の人が香港から海外に移住している。移民先から受け入れられやすいのは、資産をもっている人、高学歴で専門的な技能をもっている人たちだから、そういう層がこれだけ流出してしまうのは大変なことである。しかし、香港人がカナダやオーストラリアに移住しても、生活していくのは容易ではない場合が多いらしい。だから、永住権をとった上で香港に戻ってくる人も多い。香港人には、本当は香港が大好きで香港に住み続けたいと思っている人が多いようだ。にもかかわらず、そうする余裕のある人たちの多くが海外の永住権をとるのは、なにかがあった時のための「保険」なのだ。
    "Everyday life in Hong Kong" の「香港返還レポート」は、香港在住の日本人ビジネスマンの作者が知人の香港人たちの話をもとにして、このあたりの事情を具体的に伝えてくれる。

    ▼インターネットで発信される香港のさまざまな魅力

    うしたパラドックスのかたまりのような香港は、その独特の活力と魅力によって多くの人たちを引きつける街である。そして、香港に魅せられて住み着いたり、香港をしばしば訪れる人たちが、香港の魅力や香港人のたくましさについて、各々の視点からインターネットを通じて発信してくれている。

    ▼香港在住フリーランスの人たちの香港レポート------ポップ・カルチャーや食べ物とともに政治の話題も

    港在住の日本人がつくっているさまざまなサイトがあるが、なかでも一番元気がよく、幅広い話題を扱っているのがPAC Channelだ。これは、香港人と香港在住の日本人が一緒に運営しているサイトのようで、中国語、日本語、英語のページがある。
    「通のお店」「香港天国」が香港の街についての情報コーナー。「通のお店」では、食、ハンドメイド、文化に分けて、お勧めの店が紹介されている。「香港天国」には、「かわい娘ちゃん天国」などというのもある。「みんなの広場」はフォーラムで、香港の食べ物や生活文化について、さまざまな話題が飛びかっていてにぎやかだ。ショーケースでは、"Short Animation"、「香港地下音楽」など香港の若者文化の新しい流れの紹介を試みている。
    "Good Morning HK" では、羽仁未央さんがBay FM で放送した香港からのレポートを連載コラムの形で掲載し、「香港千夜一夜物語」では、うさぎだひろしさんがコラムを書いている。
    香港のポップカルチャーを伝えるもうひとつのサイトは、香港在住のフリーランスのライター、Koike Shinobu さんのINDEPENDANT EYESだ。ここでは、香港ファッション通信を中心にして、音楽、食べ物などについて、具体的な報告をしてくれている。
    PAC Channelの羽仁未央さんやうさぎだひろしさんの場合も、INDEPENDANT EYESのKoike Shinobu さんの場合も、香港の食べ物や音楽、ファッションなどについて伝えながら、他方で、香港の民主派の動きなど政治の話題にも強い関心を寄せている。1989年6月4日の天安門事件は、それまで政治に無関心だった香港の若者たちに大きな衝撃を与え、政治的な表現の重要さに目覚めさせた。だから、香港の「今」を伝えようとすれば、政治の話題も欠かすことができないのだろう。

    ▼香港の芸能情報を発信する東大生 (両親が台湾出身)

    港ポップスについて、わかりやすいガイドをしてくれるのは、林泰佑ホームページだ。林さんは、日本育ちだがご両親が台湾出身という人で、東大在学中。台湾、香港をはじめアジアの文化に通じているが、周囲の日本人がアジアの文化にあまり関心をもっていないのを淋しく感じ、香港ポップスなどをアジアに興味をもってもらう糸口にできれば、という気持ちでこのサイトをつくっているという。
    「中文流行歌とアジアンポップス」の中の「香港芸能入門」には、王菲(フェイ・ウォン)をはじめとする代表的な歌手の紹介のほか、「アジアカルチャーを知る雑誌」、「アジアンポップスを扱っているレコード店」といったページもある。林さんは王菲の熱烈なファンのようで、王菲については別に「王菲スペシャル」がある。
    「香港スペシャル」では、「重慶大廈(の安宿)に泊まる」、「日本人のいない観光名所に行く」、「本場で香港映画を見る」などとちょっと変わった香港ガイドを試みている。

    ▼香港アイドルにのめり込む女性マンガ家

    港では、人気者の4人の男性歌手が「四大天王」と呼ばれるそうだが、その一人レオン・ライ(黎明)に熱をあげているのが、マンガ家の村田順子さんだ。村田順子のページでは、マンガ入りで「レオン・ライという人」を連載中だ。
    村田順子さんは、1987年にはじめて香港に中華料理を食べに行った。ところが中華料理だけではすまなかった。「香港のパワーに引き寄せられるように通い詰め、アイドルにハマリ、映画にハマリ、ついには家まで借りてしまった」のだと言う。

    ▼玩具のロボットが香港人に会いに行く

    後になかなか凝った、香港を考える英語のサイトをひとつ。Gadget goes to Hong Kongは、玩具のロボットのGadget君が中国返還を前にした香港に出かける、というスートリーになっている。Gadget君は、香港の街の中を散策しながら、いろいろな人と知り合いになり、これからの香港がどうなりそうかを尋ねていく。何人かの人には、その人の経歴や香港人のアイデンティティなどについて、Gadget君が詳しいインタビューをしている。今の所、インタビューで工事中の所が多いが、登場する人の数が増えてくればより面白いページになりそうだ。


    文中で紹介したホームページ