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■パソコンと放浪の旅

回の特集は「パソコンを連れた放浪の旅」。旅は未知の土地や人々、文化との出会いであり、また、自分自身や自分たちの文化についてあらためて考える機会ともなる。だから、いつの時代にも紀行は、文学やジャーナリズムの重要な形となった。携帯パソコンをもって旅をできる時代になって、旅行記や旅のジャーナリズムのどのような可能性が生まれつつあるのかを探ってみよう。

▼オンライン旅日記の試み

に出て、旅情を絵はがきに書いて友達に送ったりすることは誰にもあるだろう。今では小型パソコンをもっていけば、旅先での思いを書いてE-Mailで友人に送ることもできるようになっている。それだったらいっそのこと、旅日記のホームページをつくって、旅の過程をインターネット上に公開したらどうだろう。そう考える人が出てくるのは、ごく自然なことだ。しかし、旅日記のホームページを、知らない人たちに面白く読んでもらえるものにするのはそう簡単なことではない。観察力や表現力が必要なのは当然として、それだけでなくドラマのある旅にするには、旅のあり方についてのその人自身のしっかりした考え方が必要になる。そうした独自の考えをもった、オンライン旅日記の試みがはじまりつつある。

▼小型パソコンを持って世界の旅へ


インドネシア ジャワ島:ジャカルタ
アルタイム世界旅行記」の石橋憲人さんの旅は、今年5月17日に日本を出発し、韓国と中国を経てモンゴルに入っているようだが、2年間以上の予定というからまだ始まったばかりだ。しかし、これまでの分だけでも、この旅行記が多くの読者をひきつけるものになっていきそうなことがことがわかる。
 28歳の石橋さんは、会社を辞めて長い旅に出た。といっても、会社が嫌になって辞めたのではなくて、仕事は大好きだが、今回の旅に出るために辞めたのだという。30代になる前にこういう企てを経験しておきたかったのだろう。また、20歳代のこれまでのビジネスマン生活の中でこうした独自の企てに必要な経験を積んでいるし、また資金も蓄えてきた。
 彼は今回の旅に関して、いくつかの枠組みを設定していて、それが彼の旅をユニークなものにしている。一つは、できるだけバスで世界中を移動するということ。次に、いわゆる旅行ガイド的な情報は、地図くらいしか持っていかないということ。できるだけ自力で試行錯誤を重ねながら進んでいく、そういう旅をしようとしているのだ。旅の過程ではどこに泊まるかが大きな問題だが、石橋さんの旅は、ホテルを予約しておいたりしないので、着いた町では、その日に泊まる安宿を探すのが第一の仕事になっている。
 「カンボジアで地雷除去の現状をリポートする」、「ラオス奥地に潜入し、人々の生活や風習を探る」といったような大まかな行き先とテーマはあるが、どこを通ってどこに向かうかという具体的な旅程は、その日その日に得られた情報や発見によって、決められていく。
 こういう地に足のついた旅の日記を読んでいくと、新聞報道などではあまり伝わってこない事実にいろいろ気づかされる。たとえば、釜山へのフェリーで会ったという、韓国に「出稼ぎ」に来ているイギリス人労働者の話が出てくる。韓国で不法就労者の摘発があり、それにひっかからないように日本に避難していたのだという。なるほど、そういうことがあっても不思議はないが、普通にはあまり伝わってこない事実ではないだろうか。
 そして、自由であるとともに孤独な旅の過程でドラマが生まれるのは、やはり人との出会いによることが多い。石橋さんはソウルから大連にわたる船の中で中国系韓国人のヤンさんたちのグループと友達になり、大連ではいっしょに遊び、意気投合する。ヤンさんたちは、韓国と中国を往来して品物を売買する仕事をしている彼と同年代の若者たちだ。立場は違っても自由な気質が共通していたのだろう。大連を離れる時に、石橋さんはヤンさんたちと兄弟の契りを結ぶ。------------
 石橋さんは6月末に香港に入り、その後シルクロードをバスで走破し、チベット、東南アジア、インド、ネパール、イラン、トルコを経てアフリカに入り、さらに南米から南極に向かう。長い、長い旅になる。どんな展開が待っているのか楽しみだ。

▼車にノート・パソコンを積んで日本中を走破

VAGABOND-MAN」の竹村純二さんの日本全国一周の旅は、ちょうど1年間をかけて、今年5月20日に完了している。コンピュータを連れた自由な一人旅という点や、30歳の少し前という年齢は共通しているが、旅のスタイルには異なる点が多い。
 石橋さんは世界の旅、竹村さんは日本一周の旅というように、経巡る場所の違いがまずある。さらに、スタイルの大きな違いは、竹村さんは移動手段としても、宿泊施設としても乗用車を使っている点である。乗用車を使えば、重い荷物を背負って歩く必要がなくなるし、その日の宿の心配をする必要もなくなり、負担はだいぶ軽くなる。しかし、旅をする地域への視線や人々とのコミュニケーションは、クルマによって制約される面も出てくるだろう。実際、竹村さんの旅日記を読んでみると、旅の過程での人との出会いの面白さはやや乏しいきらいがある。これは、クルマを移動手段と宿泊施設にしていることによる所が大きいだろう。
 しかし、「VAGABOND-MAN」でこれを補っているのは、このサイトを読んでいる読者とのコミュニケーションである。「○○に寄ってみるといいよ」というメイルが来て、それによって面白い展開がしばしば起きている。
 例えば、北海道を巡っていた7月26日に、チミケップ湖というひっそりとした湖水に寄り、そこにバイクでやってきてキャンプを張っている人たちと出会う、ちょっと感動的な場面がある。このチミケップ湖についての情報も、「VAGABOND-MAN」にメイルで届いたものなのだ。
 この竹村さんのサイトを読んでいて感じるのは、自由な旅の途上にしては、ずいぶんと忙しい生活をしているということである。毎晩、その日の出来事をホームページに載せるだけでなく、いくつかの雑誌に連載の原稿を書いていたようで、新種のトラベル・ライターとしてのスタイルをつくりつつあるのかもしれない。
 また、モバイル・コンピューティングについての話題が日記中にしばしば登場するのもこのサイトの特徴の一つだ。この旅自体が、その実践として企画されたもののようだ。ノートパソコンやデジタルカメラ、携帯電話などの活用についても様々なヒントが得られるだろう。

 ▼2人の「モンク」が作るモバイル・マガジン

橋さんや竹村さんのようなパソコンを連れた旅のジャーナリズムの元祖と言えそうなのが、モバイル・マガジン「MONK」である。もっとも、この雑誌が始められたのはかなり古いので、オンライン・マガジンではなく紙の雑誌で、記録の道具としてマックが使われている。
 マイクとジムの2人、彼らは自分たちのことを「ザ・モンクス(修道士)」と呼ぶ。1986年に、都会での仕事に疲れきった2人は仕事を辞め、家財道具を売り払い、猫とマックをバンに積んで放浪の旅に出た。知人や友人に旅の様子を知らせるニュースレターを送った所、とても評判がよかった。それで、放浪の旅をくり返しながら、それをもとにしたを雑誌にすることにした。こうしてモバイル・マガジン「MONK」が生まれ、それ以来、2人は旅を繰り返す生活を続けている。
 インターネット上には、この雑誌「MONK」について伝えるためのホームページがある。このサイトを通じて、最近の号について詳しい内容を知ることができ、かなり長いエッセイを読むことができる。
 彼らの旅のスタイルは、一つの街にある期間滞在して、その街についての様々な情報を集め、さまざまな人たちに会い、それを編集・構成して雑誌で発表していくというもので、取りげる街についての情報の密度は非常に濃い。レストランや書店、ホテルなどの実用的なガイド情報から、いわゆる口コミや噂話まで、その街の住民でも知らないことが多いのではと思えるほどだ。
 現在ホームページ上で見られるのは、ポートランドとサンフランシスコだが、これまでにもテキサス、サンタフェ、オザーク、ニューヨーク、サウスフロリダ、メイン、シアトルといった街や地域が取り上げられている。
 旺盛な好奇心と鋭い批判精神をもったMONKSは、訪れた街の魅力や特徴を多面的に描き出す。旅のジャーナリスムのひとつの典型的なパターンをつくりだしていると言える。

▼放浪の旅を支援するサイト


インドネシア ジャワ島:ソロ
のような放浪の旅を実行しようとするには、旅の準備や目的地についての情報が必要になってくる。もちろん、既存のメディアの情報に頼らないというのも一つの考え方だ。しかし、行くべきところに行けなかったり、危険な目にあったりということを未然に回避するという意味では、ガイドブックが教えてくれる情報は貴重だ。重要なのは、そうした情報に流されるのではなく、それを取捨選択して、自分流に活用することだろう。
 ロンリー・プラネットはオーストラリアのメルボルンにあって、特にバックパッカーのためのガイドブックを発行し、世界中で高い評価を受けているが、そこが開設しているホームページが「Lonely Planet Online」だ。
 モーリーンとトニーの2人は、ある時イギリスからオーストラリアへ、車やバス、ヒッチハイク、船、鉄道といった手段を駆使して旅をしたが、その旅の後で、大勢の人から旅の仕方を尋ねられたのに応えて、1973年に「Across Asia on the Cheap」を出版した。これがロンリー・プラネットの最初のガイドブックになった。この本はすぐにベストセラーになり、続いて出された「South-East Asia on a shoestring」は、表紙カバーの色から「イエロー・バイブル」とも呼ばれ、今でも東南アジアを旅するバックパッカーにとっての重要な情報源として版を重ねている。
 今では数多くの著者とスタッフを抱え、世界中の様々なガイドブックを発行するまでになっているが、ロンリー・プラネットのガイドの特徴は、読者である旅行者から手紙で様々な情報をフィードバックしてもらい、それをガイドに反映させていくという手法をとっている点だ。ホームページ上でも、各国別に読者から寄せられた情報を読むことができる。
 その他、それぞれの国の自然や社会、観光などについての基本情報、また旅行中の健康管理に関する解説もあるので、旅のプランを考えるに際して、このサイトだけでも有益な手掛かりをつかむことができるだろう。
 この他にも、放浪の旅に役立つ情報を与えてくれるサイトがある。その代表的なものをいくつか紹介しよう。
 「地球の歩き方」ホームページ……いわば日本版「ロンリー・プラネット」。本は旅人のバイブルとしてすでにおなじみだが、ホームページも充実している。とりわけ、出版物では対応しにくい最新の為替や天気、現地情報やイベント情報などは、出発前にぜひチェックしておきたい。旅全般をカバーする強力なリンク集も備えている。
 「とほ」ネットワーク……旅人宿の情報誌「とほ」を発行する「とほネットワーク」のホームページ。いちおう対象範囲は全国だが、特に北海道の宿情報が充実。旅人宿とは、男女別相部屋形式で、比較的安価であったり、規模が小さい宿のこと。それだけに、ふつうのホテルや旅館にはない、宿泊客どうしの出会い・交流が楽しめる。北海道関連リンク集もあるので、この夏に北海道旅行を予定している人は必見だろう。
 沖縄観光ニュース……沖縄観光速報社が運営するホームページ。沖縄を旅するのに参考になるのはもちろんだが、『沖縄発着格安自由旅行マニュアル』は、沖縄以外に住む人でも、東アジアをはじめ世界を旅行する際に役立ちそうだ。Adobe AcrobatのPDFデータを利用するなど、情報提供に積極的な姿勢も好ましい。



文中で紹介したホームページ