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サンゴ礁の海

「ミドリちゃん、サンゴだ。」
番組のチーフディレクターが近づいてくるなりそう言った。
「サンゴ?サンゴって、あの宝石のですか?」
「いや、サンゴ礁のサンゴだ。」
「は?」
「まぁ、君の理解もそんなところだろう。ちょうどいい、サンゴ礁について調べてみてくれ。実は今年は『国際サンゴ礁年』なんだ。」
「サンゴ少年?」
「もう、いい。手がかりとなる資料は、あとでメールに入れておく。取材は来週だ。それまでになっ!」

後日、送られてきたメモには20を越えるURLが添えられていた。
新米レポーターの私に、取材を始める前にネットで勉強しておけというのだ。
サンゴってどんな生き物?
サンゴ礁の保護が必要なのはナゼ?
そういえば、知っているようで意外に知らないサンゴのこと、サンゴ礁のこと。
いいページを探して、いざインターネットの海の中へ。
ネット・サーフィンならぬネットダイブを決行だぁ!
みなさんもご一緒に!ぶくぶくぶくぶく・・・。

▼竜宮城ってきっとサンゴ礁のことにちがいない

ずは、サンゴ礁の海の中の様子を覗いてみよう。
 『SEATV』では、グレートバリアリーフをはじめ世界の海中を写真や動画で楽しむことができる。グレートバリアリーフは、オーストラリア大陸東部の海岸線に2,000キロにも渡ってつづく世界最大のサンゴ礁地帯。ここには、約300種類のサンゴが生息している。ここで出会える魚たちはみんなカラフルできれい!そして海の水は青く透き通っている。
 この他にも、サンゴの海を堪能できるサイトはたくさんある。たとえば『大月の海、自然観察図鑑』では、四国西南部・足摺宇和海国立公園にある大月の海のさまざまな形のイシサンゴの仲間、そこにすむ生き物たちを見られる。『ハコフグネット』では、沖縄のサンゴ礁に住むちいさな魚たちの生態を見ることができる。チョウチョウウオの仲間などは、沖縄のサンゴ礁で産卵し、稚魚が黒潮に乗って太平洋を日本列島ぞいに北上するのだという。

「ルリホシスズメダイ」大月の海 自然観察図鑑より
 日本のサンゴ礁は地理的な分布上、最も北限にある貴重なものだという。サンゴ礁の多くは、赤道をはさんで北緯30度と南緯30度の間にある。海水が摂氏30度くらいで、しかも20度を下回ることのない暖かい海に分布している。
 ディレクターのメモによると、サンゴ礁がしばしば海の「熱帯雨林」に例えられているのは、このように、限られた場所に多様な生物が住み、複雑なエコシステム(生態系)をつくりあげているからだそうだ。「エコシステム」とはある地域の生物と環境を、機能的なまとまりとしてとらえた呼び方のこと。そこに住む各生物間の、食う食われる(食物連鎖)、物質の循環、共生、エネルギーの流れなどの相互関係が含まれている(「朝日現代用語'97」)。
 『LivingCorals』によると、サンゴ礁は海底のわずか0.2%を占めるにすぎないが、そこに海洋生物の約4分の1が生息しているという。

 どうしてサンゴの海はそんなにたくさんの生物を育むことができるのかしら?
 よしっ、まずはこの「サンゴ礁」の主役、「サンゴ」がどのような生き物なのか を調べてみることにしよう。

▼夜に触手を伸ばして食事。サンゴって、動物だったんだぁ

モを頼りにたどり着いたのは、『JURASSIC CITY KITAKYUSHU−北九州市立自然史博物館ガイド−』。「無脊柱動物と系統の進化」のコーナーを探してみると・・・驚いたことに、サンゴはイソギンチャクやクラゲとおなじ種類の肛腸(こうちょう)動物だと言う。
 その昔、昼間の動かない姿だけを見ていた学者たちは植物だと思っていたらしい。
しかし、夜になるとサンゴは、イソギンチャクのように透明な触手を伸ばし海中のプランクトンを食べている。サンゴは石灰岩を分泌して石の骨格をつくる種類が多い点はインギンチャクとは違うが、おおまかにはイソギンチャクと同じ体のつくりなのだそうだ。
 サンゴ礁を形づくるサンゴは、装飾品に使われる「宝石サンゴ」とは別の種類で、「造礁サンゴ」と呼ばれている。死んだサンゴの石の骨格の上にまた別のサンゴがすんで成長する。これが長い時間をかけて積み重なり、サンゴ礁という「地形」をつくっているのだ。この地形は凸凹が多く、敵から身を守って暮らさなければならない様々な生き物たちにとって、格好のすみかとなっている。
 鍾乳洞などの石灰石が堆積した地形の多くは、サンゴが長い長い時間をかけてつくったんだって。恐ろしく気長な仕事をする地球の造形家であった訳ね。

 ところでサンゴは、どうしてそんなにたくさんの石灰石を分泌することができるのかしら?どうやら、その秘密は「褐虫藻」との共生にあるらしい。

▼サンゴと褐虫藻との甘い(!?)共同生活

「ハナミカサゴ」大月の海 自然観察図鑑より
虫藻は、単細胞藻類の仲間。1個はとても小さく、直径は10ミクロン(1ミリメートルの100分の1)くらいで、サンゴの体内に無数にすみついている。その姿は、『渦鞭毛藻類の世界』でみることができる。
 『Jurassic ReefPark』によると、褐虫藻は光合成によってサンゴに必要な酸素と炭水化物の大部分をつくりだしている。一方、サンゴの体内にいることで保護され、光合成に必要な二酸化炭素をサンゴからもらっている。サンゴは、この褐虫藻との共生により、栄養分が不足している海中でも石灰岩をつくるのに充分な栄養分を得ているのだ。
 そして、この褐虫藻がつくった栄養分のうち、自分で消費するのは1割で、あとの9割はサンゴにわたしているという。サンゴもサンゴで、そのうちの半分は呼吸や成長に使い、残りの半分は主に粘液の形で体外に分泌している。そしてこの粘液が、カニや魚や動物プランクトンなどの食料となっているのだ。この関連については、沖縄の海人莇和義さんが「やんぱる林道・赤土流出裁判」の中で説明してくれている。

 こうしてサンゴ礁は、多くの生き物にすみかを提供すると共に、食べ物までもを提供し、その結果、サンゴ礁にはたくさんの種類の生物がすむようになり、複雑なエコシステムをつくりあげていく。
 サンゴ礁の多くが、浅くて、水の透明度の高い海にだけ分布しているのは、そういう海でないとサンゴの体内で褐虫藻が光合成を行えないからなのだ。

 なるほど、たくさんの生物がサンゴ礁に暮らしていけるのは、そういうわけだったんだ。しかし、複雑微妙なものは壊れやすいところが心配になる・・・。

▼こんなに危機的だったなんて

LivingCorals』では、サンゴ礁を「地球上でもっとも危機に瀕しているエコシステムである」として、その危機的な状況を説明してくれている。
 サンゴ礁のある109の国のうち、93ヵ国のサンゴ礁が人間の行動によって傷つけられたり、破壊されたりしているというのだ。人間の直接的または間接的な影響によってすでに世界のサンゴ礁の5〜10%でサンゴが死滅した状態になっているが、もし破壊のペースがこのまま進めば、今後20〜40年のうちに、さらに60%の地域でサンゴが死滅するだろう、と推定している。

 『WWFJ(世界自然保護基金日本委員会)』の国際サンゴ礁年関連ページでは、サンゴ礁にダメージを与えるものとして、下水や農薬などの流入による水質汚染、魚類の乱獲・破壊的な漁法、沿岸の開発、森林伐採や農業による排水、ダイビングによるレクリエーションなどを挙げている。
 サンゴの大きな被害の原因としてよく知られているのもののひとつに、サンゴを食べるオニヒトデの大発生がある。沖縄では、1969年頃、本島の沿岸周辺から北の方に拡大し、琉球列島の大部分のサンゴを死滅させた。サンゴ礁が元通りになるためには、20年から40年かかるといわれている。未だに回復しないところも多い。
 もうひとつの沖縄のサンゴの破壊の大きな原因は、「土地改良事業」という名の沖縄の風土を考慮しない画一的な公共事業からおきる赤土の流出である。
 アオサンゴの豊かな海で知られる沖縄県・石垣市の白保の海を世界遺産に登録する活動をしている『八重山・白保の海を守る会』のページにある『赤土問題掲示板』にその詳しい事情がのせられている。
 「やんばる林道・赤土流出裁判」のコーナーでは、1996年に沖縄県知事を相手取って起こされた2件の公共工事のやり方を問う住民訴訟の、原告側の意見陳述がのっている。沖縄県の特異な自然環境に配慮しない「本土並み」の基準で公共工事がすすめられたために、赤土が大量に流出し、サンゴに壊滅的な打撃を与えたことが具体的に述べられている。

▼「国際サンゴ礁年」、世界は動いている

際サンゴ礁年(International Year of the Reef)』では、このような危機的な状況に対応するために、サンゴについてのキャンペーンや、世界のサンゴ礁の現状把握のためのネットワークづくりを推進している。
 今、サンゴ礁を守るために最も必要なことは、モニタリング調査により世界のサンゴ礁の健康状態を知り、適切な保護の方法を探ること、そしてこの危機的な状況を広く知ってもらうことのようだ。
 そんななか、国際サンゴ礁年の一環として行われているのが「ReefCheck'97」だ。サンゴ礁の価値とその保護に必要な環境について、社会的なアピールを行う国際的なイベントで、6月14日〜8月31日に実施される一斉調査には、世界100ヶ所を越える地域で科学者とレクリエーションダイバーのボランティアが参加する。
 『ReefCheck'97homepage』によると、これまでは、サンゴ礁研究者の数が少ないことなどから、調査の数そのものや世界規模で比較可能なデータが乏しかったようだ。
「ReefCheck」はこれを解決するため、毎年行う世界的なモニタリング調査を組織しようと構想されたものだ。この調査は特に、人間がサンゴ礁に及ぼす影響を調べる測定方法を採用し、人間がすべきことは何か?を知ろうとしている。日本でも8月末に、WWFJと地元ダイバーの協力で石垣島西海岸などで実施されるとのこと。日本でのリーフチェックの中心になっいる『水中生物ネットワーク』は、資金、機材、人材が不足しているため、支援、カンパを呼びかけている。
 世界各地の調査結果は、郵便と電子メールの両方で事務局に集められ、調査結果は10月16日に発表される予定だ。この試みは、インターネットを使って積極的に広く世界中に参加を呼びかけていて、史上初の世界的なサンゴ礁の調査が、インターネットを存分に活用して行われている様子を伺わせる。調査結果もネット上で公表されることになっている。

 駆け足(早泳ぎ!?)で見てきたサンゴ礁の海。
 豊かな漁場として、観光資源として、また津波や高波をくい止める防波堤として、人間の生活において担っている役割も決して小さくないという。
 アメリカ、ドイツ、香港など、保護の必要性を訴える声は世界中のサイトから聞こえてきた。

 日本でも、WWFJが中心となってサンゴ礁研究の専門的な施設「日本サンゴ礁保護研究所」の設立にむけて動き出した。『白保サンゴ村新聞』ではセンター設立のための寄付や、募金活動ボランティアへの参加を募っている。
 う〜っむ、短時間で随分いろんなことがわかったなぁ。 これで来週の取材も、なんとかレポーターがつとまりそうだっ!
 みなさんも、是非この夏、素潜りやグラスボートで本物のサンゴ礁の海を覗いてみては?
 

文中で紹介したホームページ