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インターネットと起業

現在は産業や社会の大きな転換期にあり、産業システムも大きく変わるためには、新しい事業がどんどん生まれてこなければならない状況にある。その割に日本では、革新的な創業はまだまだ少ない。しかし、アメリカなどに較べると大企業志向が強い日本の大学生の間でも、起業をめざす学生のネットワーク、アントレプレナー連絡会議の活動が活発になるなど、それなりに起業への関心が高まっていると言える。
 起業をめざす動きには、従来の産業システムを大きく変えるような画期的な事業革新をめざすものもあれば、他方には大きな組織に束縛されずに自分たちなりのテンポで働くために小さな会社をつくるものもある。いずれによせ、自立的な働き方によって自分の可能性を拡げていこうとする人が多くなりつつあるようだ。
 今回の特集では、こうした起業をめざす動きを、インターネットを通じて探っていく。

▼画期的なオンライン書店アマゾン・コム

ンターネットの特性を活かした起業の例としてもっとも注目を集めているのが、アメリカのオンライン書店<アマゾン・コム>だ。この会社は1996年に創業され、急速な成長をとげつつある。それを見て、大型書籍チェーンの<バーンズ&ノーブル>が今年の5月からインターネット上の通信販売に本格的に進出し、激しい競争が起きている。 アマゾン・コムについては、ビジネス雑誌<Edge Magazine>でかなり詳しくとりあげられている。
 アマゾン・コムを創業したのはジェフ・ベゾス という33歳の青年だが、この人物の経歴を見ても起業の経緯を見ても、いままでの産業秩序をくつがえす革新的な事業がつくられる過程を示す典型的なケースと言えるだろう。
ジェフ・ベゾス は、ニューヨークの投資銀行で有望な投資対象を探す仕事をしていて、インターネットのユーザーが猛烈な勢いで増えていることに着目する。そして、このメディアは近い将来、商品の販売のための新しいチャネルになると判断し、自分自身で事業を始めるつもりになる。問題はオンライン・ショッピングの業態開発に有利な商品を選ぶことだった。彼は候補として20の商品を検討した結果、書籍がもっとも適しているという結論に達した。つまり、はじめから書店を始めようと考えた訳ではなく、インターネット上の起業に適した商品として書籍を選んだのだ。
 ジェフ・ベゾス の事業開発のアプローチのすごさは、ユーザーに強く訴えるきわめて明快かつ緻密な業態コンセプトをつくりあげたことである。
 第一に、書籍の品揃えが従来の書店と較べてけた違いに豊富であることだ。アメリカの大型チェーンの書店でも、17万ぐらいのタイトル数の品揃えだが、アマゾン・コムは250万のタイトル数だと言う。つまり、物理的な店舗をもつ書店ではとても扱いきれないほど出版されるタイトル数が大きくなっている点に、オンライン書店が有利な大きな根拠がある。
 第二に、アマゾン・コムは、これだけ厖大な数の本の中から、ユーザーが自分が読んでみたい本を探し出す仕組みを開発するのに大きな力をさいている。実際に本を探してみるとよくわかるが、ある本からキーワードの連鎖をたどってそれと関連したカテゴリーの本を見つけるのを楽しめるような工夫が凝らされている。これは、店頭に出かけて本を探すのと違った楽しさと言える。
 第三に、回転のいい本については10〜30パーセントの値引き販売をするという、低価格による訴求がなされている。と言っても、別に配送料がかかるのでこの値引率の分だけ店頭で買うのより安くなる訳ではないが、それをあわせても割安の価格となっている。
 ユーザーの立場から見ると、インターネット上で買物をするのには、現状ではさまざまな不安があるが、今までにない魅力をこれだけ鮮明に提示されると試しに買ってみる気になる。それで満足がいけば、繰り返して利用したり、友人にも勧めたりするようになる。そういう形で、アマゾン・コムの利用者が急速に広がっているようだ。
 また、厖大な品揃えをもつアマゾン・コムを卸売業者として利用して、ある特定のテーマで品揃えをした小さな専門書店をネット上で容易に開店できるようにする、提携プログラムも提供されている。こうした点にも、産業の新しい仕組みを開発していこうという姿勢がうかがわれる。

▼インターネットを活かした事業開発の動き----国内版

本では、まだアマゾン・コムのようにインターネットの特性を活かした画期的な新規事業の成功例はほとんどないが、さまざまな業種でインターネットを使ったビジネス展開の模索がなされている。埼玉大学経済学部の土屋陽一さんがつくっている<Doing Business on Internet>というホームページでは、新聞に掲載されたインターネット関連の記事を分野別に丹念に分類している。これを読むと、インターネットを使ったビジネスを組み立てていく基本的な要因としてどんなものがあるか、大きな方向を読みとることができるたろう。
 インターネット上のビジネスを検討する際の基本的な視点のひとつに、インターネットの特性をどう活かすかという点がある。効果的なアプローチのひとつは、アマゾン・コムの場合のように大きな点数の商品を扱う、あるい詳細な商品情報を提供するカタログづくりに活用するという考え方である。
 視点を少し変えると、アマゾン・コムは、出版社と読者を結ぶオンライン上のマーケットづくりをやっていることになる。このようにある分野の商品情報が集まる仕組みをつくり、オンライン上のマーケットをつくるというのも、ひとつの基本的な方向である。Doing Business on Internetを見ると、パソコンなどの中古機械でそうした試みがはじまっている。
 また、書籍でもデジタル化されたソフトを販売する場合には、ユーザーはインターネットを通じてすぐに商品を入手できるという利点がある。また、デジタル化された書籍は保管するのに場所をとらない。そうした点に着目して、<電子書店パピルス>などオンライン出版も開業しはじめている。
 音楽CDの販売の場合には、ネット上でサンプルの曲を聴けるのが強みだ。たとえば<WAVE INDIES CLUB>は、インターネットを通じてのインディーズと聞き手の接点を拡げることをねらっている。
 デジタル化されたソフトの販売や、コンサート、ホテルなどのサービスの予約の場合には、物理的に商品を配送する必要がないが、それ以外のオンライン取引では受注した商品を確実かつ効率的に配送する国際的なシステムがきわめて重要になる。宅配便のサービスを行っている運輸会社は、それを前提にシステムづくりをすすめつつあるようだ。
 現状でオンライン・ショッピングのもっとも大きな障害になっているのは代金決済の方法だが、これについてもさまざまな方法が普及しつつあり、アマゾン・コムのようなインターネットならではの通販業態が日本でも出てくれば、この障壁もクリアーされるだろう。

▼起業した女性たちの物語

イカ焼き
業といっても、注目すべきなのは画期的な業態革新をおこすような起業だけではなく、自分の能力や趣味を活かす場として小さな会社を起こすといった起業も、これからの社会をつくっていく大事な動きと言っていいだろう。そうした自立した働き方をめざす起業という点では、女性たちの起業に目をひく例が多い。
 <女性が作ったCyber Cafe 山口>では、「やまぐち女性起業家支援塾」を卒業して起業した人たちの中から、40の事例が紹介されている。はじめた事業の内容だけでなく、動機や経緯も記されているので、起業を考えている人にはヒントになる点も多いだろう。
 例えば主婦という経験をどのように活かせるかを考えた秋本さんは、家庭料理にたどり着き、自宅のマンションを店舗として素材を大切した「家庭料理店」を開いた。1日1グループだけの予約を受けて料理をつくるというまさに家庭的なもてなしだ。
 手作りで建てたログハウスを週に2日だけ開放して「カントリー料理店」を開いている小川さん、洋菓子店を開店した岡さん、ハーブ専門店をつくった宮楠さん、トルコの工芸品の輸入販売をはじめたアラスさん、マンガ制作工房を開いたわださん------といったように、なるほどという例がたくさん並んでいる。
 それぞれ自分の好きなこと、得意なことを土台にしながら、あまり無理をせずに自分たちで管理運営していけるビジネスをつくりだす工夫をしている。
 こうした女性たちの起業には、一人の生活者として「こんな店があればいいのに」とか「こんなサービスがあれば助かる」と思っても、誰もやってくれないので、自分たちで起業するというケースも多い。そういう事業には、社会的なニーズはあるがビジネスとして成り立つかどうかは見通しにくいものが多く、創業資金を必要としていても一般の銀行の融資を受けるのは難しい。そこで、こうした「社会性」のある事業を融資対象にする銀行として<市民バンク>がつくられている。
 三菱信託銀行の組合委員長だった片岡勝氏がプレス・オルタナティブを設立し、この会社と永代信用組合が提携して市民バンクがスタートしたのだという。これまで融資先の例として、「女性や高齢者のための不動産コンサルティング」や「天然酵母で作る手作りパン屋さん」「廃食油を使った石油プラント」などが紹介されている。

▼起業を進めるのに役立つサイト

宅配をはじめたコンビニ
で見たように、起業といってもさまざまなタイプがある。しかし、どのような起業であれ、自立して事業をはじめるにはそれなりの準備が必要となる。また、その準備には、アイデアと出会うところから細部を具体化していくところまで、さまざまな段階がある。インターネット上には、起業を進めるそれぞれの段階で役に立つサイトがたくさんある。
 <アントレ>はその名の通りの起業を目指す人のためのオンラインマガジンである。ここでは起業・独立のためのお金や法律上での相談事や、起業のための独立に必要な資金の調達の公的機関や個人投資家の利用法などが、また金融機関を納得させるための「事業計画書の書き方」など起業に必要な事柄が細目にわたって詰まっている。
 自分の店の開業マニュアルというものまであり、「ラーメン屋」、「居酒屋」、「パン屋」など異なる業態の店をはじめようとする場合、いくら位の開業資金が必要で目標の売り上げがどの位かの目安も書かれている。
 ちなみに「ラーメン屋」の場合、開業資金は店舗取得費は別にして、店の広さが10坪で席数は15席の場合、内装の設備費に350万円、厨房設備費の240万円、など開業の運転資金も合わせて約800万円と試算され、目標となる1日の売り上げ高は4万円が最低ラインとなっている。小さなラーメン屋を開くにも随分とお金がかかるのである。
 このマガジンでユニークなところは起業を行おうとする個人からの情報発信のコーナーがあることである。例えば「私と共同で会社・店舗を始めませんか」というコーナーや、「私の起業に出資して下さい」「私の能力・才能貸します」などの項目があり、この中に個人からのさまざまなアイディアが提示されている。また逆に法人からの情報発信もあり、「いろんなエリアの販路・代理店募集」や「いろんなアイデア・企画待っています」というようなものも掲載されており、起業をしようとする個人、法人の双方のニーズを見ることができる。
 英語のサイトにも、起業を進める時に活用できそうなものがたくさんある。例えは、The Small Business Resource Center の<Free Reports>には、はじめる事業を選ぶところから事業の経営まで、各段階で何が必要かについて詳しい記述がある。
 <事業家列伝>では事業を起こし、あるいは成長させた人々の物語を短い文章で読むことができる。ここで紹介されているのはブリヂストンの石橋正二郎、ソニーの井深大、アメリカのホテル王、コンラッド・ヒルトンやマクドナルドのフランチャイズ化を成功させたレイモンド・A・クロックなど、今は誰でも知っている企業の創業者のショートストーリーである。このサイトでは申し込めば「事業家列伝」を電子メールで配信してくれるサービスがある。

 今回の特集では、インターネットから見えてくる起業の動きを追ってみた。時代の流れは、大きな組織に依存しない自立的な働き方が求められる方向にむかっているのは確かなようだ。そして、自立的な働き方や生き方をめざす人たちにとって、インターネットは大きな武器となる。
 

文中で紹介したホームページ