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地球環境問題と企業

地球温暖化などのグローバルな環境問題が大きな課題になっているが、日本の中では、自分たち一人一人がとり組まなければならないという意識がまだまだ浸透していない。そんな中で、今年になってから、大企業の環境問題への姿勢に目立った変化が現れている。なかでもトヨタのエコ・プロジェクトは、日本の産業の今後を考える上でもシンボリックな変化だと思われる。企業は理想論だけでは方針転換をできないので、こうしたエコロジー重視という姿勢の大胆な表明の背景には、企業の利益追求という面での現実論もある筈だ。 今回の特集では、こうした観点から、グローバルな環境問題と日本経済や企業の関係を探ってみよう。

▼目立つエコロジー重視の企業広告

ヨタの<エコ・プロジェクト>の新聞広告やテレビ広告は今年になってはじまったが、この突然の大変身に、「あれっ?」と思った方も多いのではないだろうか。新聞では、緑一色のシンプルな感じの一面広告で、ECO.の文字の下に丸っこいクルマ型の葉がシンボル・マークになっている。紙面の真中には、自動車メーカーとしての地球環境問題への体系的な取り組み方を整理したチャートが描かれている。テレビ広告のエコ・プロジェクト・シリーズでも、「EGOからECOへ」という表現が使われ、「大人はいいよね」編では、幼稚園児が「地球は温暖化するし、子供は大変なんだから」と言い「明日のためにいまやろう、トヨタ・エコ・プロジェクト」というナレーションが入る。といったように、消費者および従業員に地球環境問題への行動を呼びかける内容になっている。エコ・プロジェクトのTVCFのところには、動画が入っている。
 従来の日本の自動車メーカーの環境問題に対する姿勢は、排気ガスの規制などのハードルを設定されれば、それを乗り切れる技術開発には高い能力を発揮するものの、自ら地球環境問題への取り組みを積極的に前面に出すということはなかったと言える。そういう点では、<メルセデス・ベンツ>が自然環境重視をテーマにした広告を続け、早くからリサイクルへの本格的な取り組みを行ってきたのとは対照的だった。それだけに、日本の産業の基幹をなす自動車産業、その中でもトップメーカーであるトヨタのエコ・プロジェクトによる大きな変身が、どういう流れの中にあるのか大いに注目に値する。

 そのほかの産業でも、リサイクリングへの取り組みなどの動きが本格化しつつあり、それをテレビ広告のテーマにする所も目立つようになっている。例えば、<アサヒビール>は「ゴミゼロ工場」のCFを流しているが、ホームページでも、リサイクリングへの取り組みを具体的に紹介している。

▼地球温暖化の問題

業行動の大きな転換を迫りつつあるグローバルな環境問題のうち、もっとも大きなものが地球温暖化問題である。12月に開かれる<地球温暖化防止京都会議>を前にして、ようやくこの問題に注目が集まりつつある。
 1970年前後に起きた大気汚染の問題が、ある地域の大気が汚染されて喘息などの公害病がおきるという地域的な環境問題だったのに対して、地球の温暖化問題というのは、いろいろな意味で地球的な環境問題である。つまり、人間の生産や消費が著しく拡大し、化石燃料の燃焼が急増した結果、大気中の二酸化炭素などが増えて、地球の気象のバランスに大きく影響を与えつつあるというように、原因も結果も地球的なスケールの話なのだ。
 大気中の二酸化炭素の量は、現在350ppm(100万個の大気の分子の中に350個の二酸化炭素分子)だそうで、これは産業革命前の280ppmから25%増えているのだという。
 つまり、もともと大気中の炭酸ガスの含有量は、一方では陸上や水中の植物が炭素同化作用によって大気中の炭酸ガスから酸素を合成し、他方、動物の呼吸や有機物の分解によって大気中に炭酸ガスが放出されるといった循環によって、ある範囲に保たれてきた。
 そして、京都会議の「地球温暖化の仕組みと影響」に記されているように、二酸化炭素などの大気中に微量に含まれるいくつかのガスは、温室効果ガスと呼ばれ、地表から放射された熱の一部を吸収し、再び地表に放射する性質をもっている。そのため、この温室効果ガスの大気中の量が適度に保たれることで、平均15℃という地球の平均気温が保持されている。
 ところが、森林の伐採で地球上の植物が減り、同時に何億年も前に植物の堆積がつくりだした石炭や石油を大量に発掘し、燃焼しつづけたために、大気中の二酸化炭素の目立った増加が起きている。その結果、明かな地球の温暖化や気象の異常が起きはじめている(こうした地球温暖化の影響については、<グリーンピースジャパン>のサイトに整理されている)。このままの二酸化炭酸排出量の増加がつづくと、100年後には大気中の濃度が産業革命前の2.5倍になってしまい、これは地球の平均気温を2℃上昇させると考えられている。地球全体の平均気温の2℃の変化というのは、地球の歴史から見てもとても大きなもので、地球上の生物にとってはメチャクチャな環境の変化を意味する。
 こうした事態を未然に防ぐために、二酸化炭素の排出量を削減するための国際的なルールづくりをめざす会議が12月の京都会議である。この会議をめぐる各国の立場やNGOの動きなどについては、<気候フォーラム>のサイトによく整理されている。

ノルウェーの「ウィンドファーム」NEDO情報センターCADDET

▼地球温暖化問題と自動車メーカー

の国際会議での合意がどのような形をとるかまだ流動的だが、先進国の2010年の二酸化炭素排出量を1990年の5%減に抑えるというゆるやかな目標の場合でも、これまでの生産や消費の考え方をかなり転換しないと達成できない。そして、日本の二酸化炭素排出量の約2割を運輸部門が占め、しかも最近の増加率が高い。そのほとんどが自動車によるものであるため、自動車メーカーには、排出量の大幅削減への方策が求められる。
 トヨタのエコ・プロジェクトはひとつには、こうした流れを前提にしてはじまっている。そして、自動車からの二酸化炭素の排出量を削減する当面の有力な方法として、トヨタやホンダが提案しているのが、電気モーターとガソリン・エンジンを併用したハイブリッド車である。ハイブリッド車だと、ガソリン車にくらべて燃費改善と二酸化炭素排出量の大幅削減が可能になり、電気自動車のように充電の必要もなく、走り方もガソリン・エンジンに慣れたユーザーにも違和感がないという。ただし、燃費改善により維持コストは下がるものの、他方で自動車の販売価格は高めになってしまう。そのため、市場への浸透をはかるためには、ユーザーのエコロジー意識に訴え、それを追い風にする必要がある。「明日のために今やろう」といった地球環境問題への行動を呼びかけるトヨタのキャンペインの背景には、こうした事情もあるのだと思われる。

▼カルフォルニア州のZEV(排気ガスを出さないクルマ)促進策

本の自動車メーカーにとって、低公害自動車の開発を本格化する大きなきっかけになったのは、アメリカのカルフォルニア州でのZEV規制だと言われている。この規制は、2003年にカルフォルニア州で販売する自動車の10%以上をZEV(Zero Emission Vehicle)にすることを自動車メーカーに義務づけている。ZEVとは、電気自動車など排出ガスを出さない自動車のことである。
 このZEV規制をめぐる市民、州政府、各自動車メーカーの動きについては、カルフォルニア州の市民団体の連合体で環境保護法案づくりの活動を行っている<PCL(The Planning and Conservation League)>のサイトによく整理されている。
 この中の「California Today」は、PCLからのニューズ・レターでこの中のZEV関係のものを読むと、ZEV規制をめぐる環境保護派と産業界との激しい抗争が続いていることがわかる。もともとのプログラムでは、ZEVの比率を1998年に2%、2001年に5%というように段階的に上げていくことになっていたが、自動車業界や石油業界の激しいキャンペインの結果、この中間段階の規制は実質的に除かれてしまったという。
 「ZEV NEWS」の項では、ZEV関係の各自動車メーカーの動きやZEV普及促進をはかる官民の動きについての報道を時間順に追うことができる。たとえば、電気自動車の普及のためには、充電施設のネットワークを整備していく必要があるが、こうしたネットワークづくりが官民の協力によって進んでいることがわかる。
 また、アメリカの自動車業界には、2003年に10%のZEVというのは非現実だとして、この規制の骨抜きをはかる動きが目立つ一方で、日本の自動車メーカーのうちトヨタとホンダが、カルフォルニア州での電気自動車の販売をはじめている。
 トヨタ・エコプロジェクトでも、ハイブリッド車とならんで電気自動車の紹介に重点がおかれているが、電気自動車は直接的にはカルフォルニア州のZEV規制に対応するために、急いで製品化が進められたものなのだろう。

▼製品の一生(ライフ・サイクル)への配慮

品のリサイクルについても、日本企業の取り組みがようやく本格化しつつある。自動車産業、電気産業をはじめ各産業で、製品のリサイクルの仕組みづくりが具体化しつつある。こうした動きが最近になって急速に現れた背景には、環境マネジメントに関する国際標準ISO14000シリーズをつくる作業の進行があるようだ。
 環境マネジメント・環境監査という考え方は、企業活動による自然破壊を抑制するための工夫としてドイツやイギリスで制度化が進んでいる。企業活動による環境への負荷を小さくするには、生産活動から排出される有害物質を問題にするだけでなく、製品の原料から、製造過程、製品の寿命が尽きた後のリサイクルや廃棄のされ方まで、製品の一生(ライフ・サイクル)に総合的に配慮する必要があるという考え方である。たとえば、メルセデス・ベンツの「環境」のページを見ると、廃車時に燃やしても有害ガスが出にくいなどの点を考慮してシートにココナツ繊維を使うなど、さまざまな工夫がされていることがわかる。
「アマゾン流域における環境プロ
ジェクト」メンセデス・ベンツ日本
 1992年のブラジルでの「地球サミット」の後、こうした環境マネジネント・環境監査のシステムの国際標準づくりがはじまった。これがISO14000シリーズである。こうした国際環境規格が普及すると、それを充たさない企業は、環境問題に熱心なEUなどでは相手にされなくなるのではないか。国際標準づくりが具体化するとともに、そういう危険を感じて、日本の多くの大企業も、にわかにISO14000シリーズに強い関心をもつようなり、製品のリサイクリングへの取り組みを本格化しつつあるというのが実情のようだ。
 こうした企業の環境問題やリサイクリングへの関心に対応して、インターネット上でも、たとえば、人と企業を環境で結ぶオンライン・マガジン<Ecology Symphony>が5月から創刊され、創刊号では、ISO14000の特集が組まれている。また、9月からスタートした企業と環境問題についてのオンライン・マガジン<green-web>でも、ライフサイクル・アセスメントが主なテーマのひとつになっている。

▼地球環境問題と日本経済

上でたどってみたように、日本の大企業の環境問題への対応が本格化しだしたのは、日本の市民や消費者の意識の高まりの結果というより、カルフォルニア州のZEV規制やドイツ、イギリスで制度化が進んでいる環境マネジメント・環境監査の国際標準化といった「外圧」に押されてという面が強いようだ。
 EUでは、地球規模の環境問題に積極的に対応するという点で市民、企業、政府の足並みが揃っているように見える。それに対して、アメリカでは、上でカルフォルニア州のZEV規制について見たように、環境保護派と産業界が激しく争っている。(そんな状況下でアメリカ政府は、地球温暖化問題への取り組みはEUにくらべて極めて消極的である。)そして、日本では、「外圧」に押されて、世界の市場から閉め出されては大変と、まず大企業が本腰を入れ始めるというパターンになっている訳である。
 なにやら情けない状況ではあるが、とにもかくにも、日本の中でも地球環境問題への本格的な取り組みが始まりつつあるのは幸いというべきだろう。

 そして、製品の原料から、製造過程、製品の寿命が尽きた後のリサイクルや廃棄のされ方まで、製品の一生に総合的に考えるライフサイクル・アセスメントが各産業、各業種で進んでいくと、これまで見えていたのとは違った技術の連鎖が生まれ、新たな技術開発の相乗作用が発生することになるだろう。日本の社会では、変化がある水準までいくとそこから先の波及は早い。企業の多くが製品のリサイクルに本腰を入れはじめると、こうした新しい技術連関が意外に早くつくられていくのかもしれない。こうして、21世紀初頭の日本経済のひとつの柱として期待されている環境関連技術の離陸のシナリオが見えてきつつあるとすれば、これは明るいニュースといえる。

 さて、皆さんは、地球環境問題についてどうお考えですか。

文中で紹介したホームページ