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身近な野性動物

 普段、目にすることの多い動物というと牛や豚のような家畜や犬、猫のようなペットばかりで、山を歩いても、人工林が多くなっているため、大きな野性動物と出会うことは少なくなっている。都会に住む人たちには、野性動物と聞くと、TVや雑誌(あるいは動物園)で見た珍しい野性動物を思いうかべる人が多いのではないか。
 振り返ってみると、町にも山にも、さまざまな野性動物たちと出会う自然がとても乏しくなっている。これは、考えてみればかなり異常なことだろう。こうした中で、人間の都合のいいように周囲の自然をつくりかえていくという考え方だけでは、どうもまずいのではないか、と感じる人たちが増えはじめている。人間の心にとっても、野性動物を育む生きた自然との関わりあいが重要なことに気づきはじめている訳だ。
 しかし、他方で大都会の近くには、野性動物たちがいないかと言えば、そうでもない。東京都にも、奥多摩まで行けば、クマなどの大型の野性動物もけっこういるし、都心にもカラスのように人間の都市環境をたくみに利用して繁殖しているたくましい野性動物がいる。「えっ、カラス!?」などといって目をそむけるのではなく、こういう「身近な野性動物」に目を向けなおしてみると、人間と自然の関係を再考するよい糸口がみつかるかもしれない。

▼東京のクマ

大都市圏での野性動物の存在を端的に表す「東京のクマ」という名前のホームページがある。まさか東京にはクマはいないだろうと思っている人が多いかもしれないが、奥多摩にはツキノワグマが棲んでいて、「人間とのトラブル」を見ると、年に数件、ハイカーや地元の人がクマと遭遇している。分布域の地図を見ると、奥多摩町、檜原村、青梅市、日の出町、あきる野市、八王子市がクマのいる市町村となっている。東京都のかなり広い範囲がクマの分布域に入っている訳だ。「ツキノワグマと私たちのこれから」には、なんと「奥多摩湖を泳ぐツキノワグマ」という写真が載っている(この写真では、あいにく泳いでいるのがクマなのかどうかよくわからないが)。
 このページをつくっている奥多摩ツキノワグマ研究グループは、クマを学術捕獲して、健康状態など必要なデータをえた上で放している。その際、一部のクマには、無線発信器をつけて、行動の調査を行っている。7年間に、重複をのぞいて25頭のクマが捕獲、放逐されているというから、かなりの数のクマが奥多摩にいることになる。自分たちが住む生活圏にクマが現れると、物騒なので銃などで駆除するということになりがちだが、奥多摩では最近は、「遭遇が起こった際の状況を判断して、もしくり返しの発生が懸念されない場合は、駆除を避ける方向に変わってきて」いるという。
 「クマに会ったらどうするか」を見ると、ツキノワグマは植物中心の食生活なので、人に危害を加えるようなことが起きるのは自分を防衛しようとする場合のようだ。そこでこのページには、クマと人間がふいに出くわし、驚いてクマが人間を襲うということが起きないための工夫を、具体的にわかりやすく書いてある。山を歩く人たちが、クマの生活空間に入っているということを十分に意識して、「クマと出会わないように」「クマを呼び寄せないように」注意深く行動することが重要だという。
 「ツキノワグマの食べもの」の調査によると、秋には、ドングリ類が重要な食料になっている。とくに雌は、ドングリを十分に食べられるかどうかで子供の出産がうまくいくかどうかが左右される。石田健さんの「秩父のツキノワグマ」のページによると、ドングリが豊作かどうかでクマの体重が大きく変動するという。
 つまり、クマが十分な食料を得るには豊かな広葉樹林が必要だが、伐採によって広葉樹林が少なくなっているために、食料が乏しくなってクマが人間の生活圏に降りてくるようになっている訳だ。

▼東北では多数のクマが「駆除」されている

の地方のツキノワグマの現状は、どうなっているのだろうか?「ヒグマ・ツキノワグマネットワーク」の「BEAR infowave vol.1」によると、東北には約5,500頭のツキノワグマが生息しているというが、平成8年度にはそのうち約1割の552頭という多数のクマが有害駆除されてしまった。
 青森県では、「ワナで捕獲したクマは奥山に放獣するよう努めること 」との通達を市町村に出したが、効果がなかったという。市町村では、地域住民の安全という観点から、クマを殺してしまうことになりがちのようだ。クマの生態をきちんと調査して、住民の安全と野性動物の保護とをなんとか両立させる工夫をするには、専門家の協力が不可欠なことをこのネットワークは訴えている。
 また、「会員からの情報vol.9」によると西日本では、ツキノワグマは絶滅の危機に瀕している。そして、兵庫県美方町では市民団体「日本熊森協会」が、広葉樹の植林の活動をはじめている。クマがえさを求めて人里に迷いこみ射殺されるということが多くなっていて、クマの絶滅を防ぐには遠回りのようでも、食料になる木の実をつける広葉樹の森を回復させるしかないと考えたためだ。
 他方、九州では、いまはツキノワグマは絶滅してしまったらしい。

▼庭に餌を食べにくる仔連れタヌキ

ヌキも、棲まいだった森が開発されて小さくなってしまい、食料も乏しくなって、人間たちの居住地区に顔を出すようになった。こういう点では、タヌキの場合もクマの場合も、事情は似ている。しかし、タヌキの場合クマと違って、人間が危険を感じはしないので、庭先に顔を出すとエサをもらえることもあり、なかには仔連れでエサをもらいにくるタヌキも出てくる。
 「金沢文庫のたぬきファミリー」は、庭にやってくるようになったタヌキの家族の観察をつづけている小野崎さんのホームページだ。小野崎さんの家の庭には、1990年から一匹の雌のタヌキが庭に現れ、残飯をあげるとすぐに食べた。このタヌキは毎日、庭にやってくるようになり、翌年には2匹の子供を連れてくるようになり、さらに次の年には、驚いたことに14匹の子供を連れてきた。1994年になると、世代交代して、最初の雌のタヌキの娘が仔連れでやってくるようになった。 小野崎さんのページには、この3世代にわたるタヌキの系図が描かれいて、庭でエサを食べたり、遊んだりするタヌキの写真もたくさん載っている。
 小野崎さんの家は、金沢文庫駅から10分の住宅地にあるが、家の裏がグリーンベルトのような雑木林になっていて、ここにタヌキたちは住んでいるのだという。小野崎さんのページに同居している京都の関さんの「京都のたぬきと京都のキツネ」のページにも、雑木林の周りがとつぜん開発されてしまい、雑木林に棲んでいるキツネとタヌキが道路や庭を散歩するようになった様子が描かれている。
 人間との接触が増えて、タヌキは食料を手に入れやすくなっているが、いいことばかりではないようだ。小野崎さんのページの「病気」の項にも書かれているように、タヌキの間で皮膚病の疥癬が広がっていて、毛が抜けてしまうと寒さに弱くなり、死んでしまうこともあるという。原因はよくわからないようだが、もともとの棲まいの森が乏しくなり、エサのある所に多数のタヌキが集まるなど、バランスが崩れているのが一因らしい。
 「yukio's family」には、群馬県利根郡山中で撮影したタヌキたちの写真が収録されている。このタヌキたちも温泉宿からでる生ゴミをあさりにくるようだ。

「野性のたぬき」yukio's familyより

▼カラスはそんなに嫌な奴なのか

ラスは、東京のような大都市では、いちばん目につく野性動物になっている。都市生活からでる大量の生ゴミを食料にして繁殖しているためだ。ゴミとして捨てられる残飯の量が増えるとともに、都会のカラスも増えてきたようだ。
 カラスはゴミを食い散らかすこともあり、都会のカラスはすっかり嫌われ者になっているので、カラスのことなんか見たくも、考えたくもないという人も多いだろう。しかし、これが意外な盲点で、カラスのように人間に嫌われている「身近な野性動物」にあらためて目を向けてみると、野性動物の魅力や人間社会と自然の関係の現状がよく見えてくるのではないか。そう思って、カラスについてのインターネット上のサイトを探してみると、考える手がかりをたくさん見つけることができた。
 カラスたちに目を向けなおしてみると、いろいろな疑問が出てくる筈だ。そういう疑問に答えてくれるのが、秋田大学の武藤幹生さんの「Crows!!」というホームページだ。
 たとえば、「カラスの種類」について。都会でゴミあさりをしたりすることが多いのがハシブトガラス、農村などに多いのがハシボソガラスだ。それぞれの鳴き声も入っている。そのほか、ミヤマカラス、コクマルカラス、ワタリガラスといった渡り鳥のカラスもいる。このカラスたちは冬の間大陸からやってくる。
 しかし、東京の街中でゴミをあさっているカラスたちは、どこに棲んでいるのだろうか。「みんなで見つける自然通信95号----都会のりこうな黒い鳥」によると、東京は都心にも公園、神社、庭園などが多く、これがカラスのねぐらになっている。生ゴミが多いこととねぐらになる森が都心にも多いために、東京でカラスがふえたのだという。同じ、大都市でも大阪では、東京とちがい深夜にゴミの回収が行われているので、カラスは目立たないのだそうだ。

▼愉快なカラスたち

入観を捨ててカラスに目を向けてみると何が見えてくるか、身をもって示してくれているのが、コンピュータの仕事をする松島千治さんの「愉快なカラスたちのページ」だ。松島さんも、かつてはカラスは「比較的嫌いな鳥」だったという。しかし、1996年はじめらから週末に井の頭公園にでかけて、カラスに餌をやりながら気長に観察をはじめた。そして、その年の12月になって、ようやく1羽のカラスが、はじめて松島さんの腕に乗り、とても感動したという。「愉快なカラスたちの紹介」を見ると、松島さんになじんだ7羽の手乗りカラスたちを写真入りで紹介して、それぞれの個性を説明している。こうした観察をしているうちに、「カラスは、総じて明るくてヒョウキンな性格で、人間的と思えるほど鳥としては異常に頭が良くて、----良くみると、けっこう愛敬のある顔をして」いることがわかってきた。それで、「比較的好きな鳥」になったという。
 プロ・ナチュラリストの佐々木洋さんも、カラスびいきを自認する人だ。「佐々木洋の自然感察」の中の「全国おすすめカラス」には、石神井公園で将棋をさすおじさんたちの上の枝にとまり「待った」というようになった「待ったカラス」とか、貝を落として割って食べる「貝割りカラス」とか、ユーモラスなカラスの話が集められている。佐々木さんの場合、カラスびいきになったきっかけは、役所からカラスの巣おろしを頼まれて、作業中に親鳥に襲撃されて怪我をしたことだった。その後このカラス(佐々木さんはジェイソンと名前をつけている)の行動半径に入ると、佐々木さんにつきまとうようになった。そして、ジェイソンと追いかけっこをしているうちに、たがいにスリリングなゲームを楽しんでいるような気になったという。この体験から、佐々木さんはカラスの高度な能力に敬意をもつようになったのだ。
 松島さんや佐々木さんのようにカラスに魅力を感じるようになった人たちは、カラスの賢さと遊び心に惹かれている。Crows!!の武藤さんも、「カラスが賢いってどのくらい?」で、カラスの高度なコミュニケーション能力を指摘している。また「カラスの遊び」では、雪の積もった坂を何度も滑り降りたり、トンビをからかったりという遊びとしか考えようのない行動に触れている。

▼身近な野性動物への意識

「カラスのヒナ」Crows!!より
以上では、ツキノワグマ、タヌキ、カラスをとりあげ、身近な野性動物と人間の関係を捉えなおす、手がかりを探ってみた。
 ツキノワグマが東京都に棲んでいるということは、東京には奥深い自然が残っていることを示している。ハイキングやキャンプに出かける人たちはあまり気づいていないが、クマが近くにいることも多いようだ。そして、知らないままでいるのではなく、山に入る時にクマの生活圏にいることを意識して、注意深く行動しようとすれば、自然に対する見方、感じ方も変わってくるだろう。
 タヌキやキツネが庭に顔を出したりすることも、宅地開発が進んでいる地域の自然を見直すよいきっかけになる。雑木林を孤立させずに、つないでいきグリーンベルト状の地帯をつくっていくと、住宅地にも野性動物が棲める環境をつくれるようだ。
 嫌われ者になっているカラスも、先入観を捨てて目を向けてみると、きわめて賢く、ユーモア精神に富み、しかもあまり人間に媚びをうったりしない、まさに「身近な野性」であることがわかってくる。



文中で紹介したホームページ