絵:中村圭志
ブラジル------大いなる企ての地
 




ブラジルいうと古くから日本からの移民も多く、最近ではサッカーやサンバなどのブラジル音楽で馴染みの深い人も少なくないでしょう。また、最近は地球環境問題との関連でアマゾンの熱帯雨林のことがしばしば話題になります。
しかし、地球の反対側ということもあって、マスメディアを通じては、具体的な情報が乏しいのが現状です。ブラジルで何が起きているのか、それがこれからの世界にどんな意味をもつかを伝える報道はあまりないようです。インターネットで探っていくと、ブラジルという所は面積が巨大なだけに抱える問題も大きいが、それに対応する発想のスケールも大きい土地であり、21世紀の行方を左右するような、斬新な企てが進みつつあることがわかってきます。
ブラジルには「縮み志向」とかいわれる日本文化と反対の面が多く、閉塞感の強い現在の日本国の人たちにとって、とても刺激的で学ぶべき所が多そうです。

▼多彩な異文化のるつぼ

MUSIAN「GilとTimbalada」 「カーニバル」より
「素晴らしい国、ブラジルにようこそ」でも述べられいるように、ブラジルはおそろしく広大な国です。国の面積は851万平方メートルは日本の約23倍、そして南米大陸の48%を占めています。これだけ広い国ながら人口は1億6千万人に過ぎません。
しかし、人口の中味は、ポルトガル人をはじめとするヨーロッパ系、先住民のインディオ、奴隷として連れてこられたアフリカ系、さらにアジア系となかなか多彩であり、この混合の中からリオのカーニバルやサンバのような、ブラジル独特の文化が生み出されています。
こうように異文化が混合するブラジルの様子を伝えてくれるのが、北村欧介さんの「Sarvador-----NIHGT AND DAY」の生き生きした写真です。北村さんが住むサルバドールは、人口の85%が黒人というもっともアフリカ文化色の強い所で、ブラジルの中でも独特な文化をつくりだしています。北村さんは、カーニバルや音楽家のほか、街頭のたくさんのスナップを載せてくれています。
画家の中村圭志さんのブラジル旅行の記録「BRAZIL----A SPACIAL EXPERIENCE」にも、サンパウロの人類学教授、アルバイター、サルバドールのストリート・ミュージシアンといったように、さまざま階層、さまざまな都市の多彩な住空間、暮らし方が描かれています。

BRAZIL SPACIAL EXPERIENCE「人類学教授の優雅なアパート」 より

▼キチンとしすぎないのがいいところ

「ブラジルにようこそ」の作者が言うように、所得格差が著しいなど抱える問題も大きいけれど、面白いことにも事欠かない所です。そして、こうしたブラジルの魅力に惹かれて住み着いた人たちのサイトに行ってみると、ブラジルの人たちの空気が伝わってきます。
櫻田さんの「極楽トンボな野郎ども」の中の「極楽トンボインタビュー」に登場している神戸さんは、日系二世の女性と結婚し、日本ブラジル交流協会ブラジル支部事務局長としてブラジルに住みはじめ、現在は広告代理店のマッキャンエリクソンのブラジル支社に勤めています。神戸さんはブラジルに来てよかったと思う点について、「人目を気にしないで生活できて、自分はこういう人間だって事を開き直って認めて、そのまま生きていてもあまり支障がない。そんな感じですかね。」と答えています。
「ブラジル体験者発言集」では、ブラジル生活を体験した日本ブラジル交流協会の研修生が、「ブラジルの好きなところ、嫌いなところ」をあげています。「好きなところ」の上位は「でっかい(いろんな意味で)」「楽しい、陽気、おおらか、ゆとり」「自然、海がきれい」「不要な気を使わない」「人が生き生きしている」などであり、「嫌いなところ」は「治安が悪い」「いいかげん」「政治家が悪い」「貧富の差が激しい」「無計画」などがです。広大なブラジルでは人間も、チマチマしていてもはじまらないので、おおらかであり、大雑把にもなるということでしょう。
ブラジルに住み着き、自然科学博物館を自分でつくってしまった橋本さんは、「キチンとしすぎていないところがブラジルのいいところじゃ」と書いています。橋本さんが製作している「Amazon自然科学博物館」 も、ずいぶん大雑把だけれど愉快なサイトです。
橋本さんは、小さい時から生物が大好きで、高校時代も生物の成績はトップだが他の勉強はしないという子だったそうです。大学で生物学を勉強したかったけれど、予備校に入って勉強するような余裕は家になく、涙をのんで就職した。その後、いろいろな仕事を転々としたあげく、21年前にブラジルに移住したのだそうです。そして、自分で稼いだ金でAmazon自然科学博物館をつくまるところまでこぎつけた。「わしは大学なんか行かなかったから」こういうことができたと、橋本さんは書いています。
スケールの大きい発想と並外れた行動力をもつ橋本さんは、とてもブラジル的な人のようです。

▼先駆的なクリチバ市の街づくり

ブラジルには、壮大な試みが夢みられるだけでなく、実行に移される精神的な風土があるようです。しかし、壮大な試みが、無惨な結果になってしまっているのは、ブラジリアへの首都の移転です。
ブラジルの首都は港町リオ・デ・ジャネイロだった訳ですが、内陸部に人工都市ブラジリアを新設し、首都の移転を実行しました。コルビジェに学んだオスカー・ニーマイヤーが設計した公共建築群は、「YKK ap World Travel Machine:ブラジリア」にあるように、モダニズム建築の精神の壮大な実験と言えるもののようです。
ところが、「同時代を撃つ!」の「このニュースに注目!」で立花隆さんが触れててるように、国会議員や公務員たちはウィークデーは仕方なく首都にいるが、週末にはこんな所は人間の住む所ではないと言っていなくなってしまうというありさまで、都市機能の集積がともなわない街のままであるらしい。
他方で、パラナ州の州都クリチバ市は、街づくりにおける旺盛な実験的な精神が優れた成果を生みつつある例のようです。クリチバ市では、人口増加にともなう交通渋滞や大気汚染に対処するために地下鉄を建設したりするのではなく、ずっと安上がりな公共交通システムをつくりだしました。これは大げさな新しい技術を使うという発想ではなく、従来のバスにちょっと工夫を加えたものだったのです。後藤太一さんの「世界のまちづくり見聞録」の中の「クリチバ」>はチューブ状のバス停の写真がありますが、このバス停に入る時に料金を支払うようになっているようです。また、急行のバスは連結して大勢の人を運べる。こうしたいくつかの工夫を加えることで、バスの乗降の時間を短縮したりして、効率のいい公共交通システムにしている訳です。その結果、堺大輔さんのLRT情報にある「日経サイエンス」の「クリチバ市の都市計画」の抜粋によると、通勤者の4分の3がこのバス・システムを利用しているそうです。
おおげさな技術をありがたがるのではなく、従来の技術にちょっとした工夫を組み合わせて優れたシステムをつくりだしている所は、とても冴えていますよね。


▼激しいアマゾンの森林伐採

アマゾンの熱帯雨林ではじまっている「ポエマ計画」(アマゾン貧困撲滅環境プロジェクト)にも、ブラジルの人たちのスケールの大きい発想や先駆的な精神が優れた形で発揮されています。まず、ポエマ計画の背景となるアマゾンの森林の現状をたどってみましょう。
"Wealth of Rainforest----Pharmacy to the World"の中の"Rainforest Facts" に書かれているように、「地球の肺」とも呼ばれるアマゾンの森林で地球上の20%以上の酸素がつくり出されていると推定されています。ところが、アジアの木材業者による森林伐採の最前線がマレーシアやインドネシアからこのアマゾンに移ってきているようです。材木を太平洋側に搬出して、アジアに輸出する動きもあるといいます。
「アマゾン流域の雄大な景色」
ペルーアマゾンの自然文化
を支援する会
「ペルーアマゾン紀行」より



そして、アマゾンの森林破壊のテンポが速まっていて、このままいくと50年でこの巨大な森林もなくなってしまうと言われています。地球上の20%以上の酸素をつくっている森林がなくなると、いったいどうなるのか? なんとも、とんでもない話です。

原後雄太さんたちのJapan Brazil Networkの中のNews Letter 2-Topics に書かれてるように、アマゾンの森での木材業者の森林伐採は、しばしば、先住民の森の不法伐採という形で進んでいます。News Letter1-News Frashにあるように、1988年の新憲法は、先住民の権利保障について明確に規定する画期的なものですが、その権利を実現するための仕組みをともなっていないようです。
そのため、森林伐採業者、牧場主、金掘人などによる先住民の土地の侵害がつづき、さらに、こうした侵害を合法化しようとする動きもおきています。
熱帯雨林での業者の森林伐採は、商品価値の高い樹種を伐り出すために広い範囲の森を破壊してしまいます。多くの動植物の複雑なバランスによって成り立っている熱帯雨林の生態系は、いちど破壊されるとなかなかもとに戻らないのです。その結果、森の中で暮らしてきた先住民は、生活の基盤をうばわれてしまうことになります。これは、マレーシアのサラワク州の熱帯雨林が木材業者に伐採されていったときに起きた(サラワクキャンペイン委員会の松江和子さんの講演を参照)のとほどんど同じことです。

▼林産品を自動車の内装に

こうしたアマゾンの森林の大規模な破壊をくいとめるには、熱帯雨林保護の運動だけでなく、熱帯雨林を伐採するよりも賢い熱帯雨林の活用法を見つけだしていくことが必要になります。
これまでのアマゾンでは、熱帯雨林を伐採して牧場にしたり、モノカルチャー型の農園にしたりという開発が盛大に行われてきましたが、こうした方法はアマゾンに適さず、強い陽射しと激しい雨が短期間のうちに土壌を荒廃させてしまうようです。こうした失敗に学んで、熱帯の農業は熱帯雨林の生態系にならって、多様な樹種や作物を組み合わせたものにしなければならないというアグロフォレストリーの考え方が注目されはじめています。これは何も新しいことではなく、アマゾンの先住民が森林の中で昔からやっていたことなので、先住民に学ぶことが必要なのでしょう。このアグロフォレストリーの試みが浸透すれば、熱帯雨林を伐採するのではなく、その富を活用した方が長い目で見て有利だという方向につながっていきそうです。
「毒々しいくらい色が
鮮やかな花。
おばけの様な感じ
がする木」
ペルーアマゾンの
自然文化を支援する会
「ペルーアマゾン
紀行」より
パラ大学を中心としたポエマ計画は、アグロフォレストリーの考え方に基づいて、モノカルチャー型の農園から脱却し、多様な樹種や植物のシステムをつくっていくと同時に、多彩な作物の市場を自動車の部品や内装材に求めるという野心的なものです。Web Mag 7号の特集「地球環境問題と企業」でメルセデス・ベンツの環境問題への取り組みの一環として、廃車時に燃やしても有害ガスが出ないように、シートの素材をプラスティクではなくココナッツ繊維を使うなどの試みを紹介したことがあります。こうした動きの中心はドイツではなく、ブラジルのパラ大学やメルセデス・ベンツ・ド・ブラジルなどブラジル側にある訳です。


Japan Brazil Networkの中のNews Letter 2-Eco-Action 「天然素材にはまった人々」を見ると、泊みゆきさんが、メルセデス・ベンツ・ド・ブラジル(MBB)を訪ねた時の様子が報告されています。ポエマ計画の推進役のひとりであるMBBのパニック博士は、自動車部品に使える天然素材の研究に熱中しているようです。パニック博士たちが夢中になっているのは、天然素材の活用が、企業利益の視点と貧困の撲滅や環境保全の視点とを無理なく両立させることがわかったからです。「現在、車内の内装材面積の90%は、何らかの形で天然素材を使ったものです。2000年までには、これを100%にします」と工場ラインの責任者が語ったそうです。ここには、ブラジル独特の大いなる企ての精神が優れた形で発揮されているのではないでしょうか。


▼アマゾンは医薬資源の宝庫

アマゾンの熱帯雨林を賢く活用して、森林伐採を防ぐという動きは、さまざまな形で起きているようです。
"Wealth of Rainforest----Pharmacy to the World" のページをつくっているThe Raintree Group も、アマゾンの熱帯雨林に自生する多彩な有用植物について(医薬品として効用のあるものを中心に)先住民の助けをかりながら研究し、需要開拓を試みています。その際、"Sustainable Rainforest Products"に書かれているように、市場の需給の法則より生態系の保持を優先させた考え方をこのグループではとっています。つまりある品目の需要が大きいからといって、その品目だけを量産するということはしない。多彩な植物の組み合わせないと短期間に土地を荒廃させてしまうからです。また、熱帯雨林を生かす知恵をもつ先住民から学び、先住民の土地に対する権利と生活を尊重するのが、このグループの基本姿勢だと言っています。
このようにインターネット上の旅をしてみると、ブラジルは抱える問題も大きいと同時に、それに対処する取り組みの発想のスケールも大きく、かつ先駆的であり、そういう意味で「大いなる企ての地」であることがわかってくるのではないでしょうか。皆さんの 感想やご意見をメールで送ってくださると嬉しいです。

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