[特集]
No.28  干潟/海のゆりかご
[写真]
木更津市立教育センター
制作:干潟まつり実行委員会

[マーク] 特集編集部への発信 [マーク] 特集編集部との交信録 [マーク] バックナンバー

こんにちは!みどりです。
それは昨日のこと。たまにはパーッとお寿司でも!とお友達のユカリと潤子を誘って、都内でおいしいと評判の江戸前鮨の店に出掛けました。
カウンター席に陣取り、おいしい握り寿司を味わいながらそういえば「江戸前」ってナニ?という話に。
みどりは東京湾で獲れる魚介類をさす言葉だと思っていたんだけれど、関西出身の潤子曰く、
「江戸前寿司っていえば握り寿司のこと。つまり江戸風の食べものってことじゃない?」
それを聞いたユカリ曰く、
「えーっ、江戸前っていえば活きがいいとか威勢がいいってことでしょ?」
と意見はバラバラで、謎は深まるばかり。
見かねた店のオヤジさんが、解説をしてくれました。
それによると「江戸前」は、結構いろんなニュアンスで使われている言葉で、3人の意見はどれもハズレていないとのこと。
そして「江戸前のネタ」といえば、小鰭、ヒラメ、アナゴ、クルマエビ、イカ、赤貝、シャコ、海苔などが代表的で、蒲焼きのウナギも名高いという。
「へ〜、東京湾ってそんなにいろんな魚介類が獲れる海だったんだ」とユカリ。
「でもまぁ、江戸前鮨というからにゃぁ、ホントは東京湾で獲れたネタで握りたいんだけど、最近じゃあんまり獲れないんだよね」とオヤジさん。
「どうして?」
「理由はいろいろあるだろうけど、東京湾は、埋め立てがすすんで干潟があんまりなくなってきちゃったからねぇ・・・」
*  *  *

干潟?・・・実はおうちに帰ってきてからオヤジさんの言葉が気になり始めた。
だって「海水の汚染がすすんだ東京湾で漁獲量が減ってしまう」とういのはイメージしやすいけど、「干潟が減る」ことと江戸前のネタには、一体どんな関係があるっていうんだろう?
ということで、今月は江戸前のネタたちに誘われて「干潟」の世界へ。
干潟といえば、川が海にそそぎこみ陸地と海の際となっている場所。これまでに「サンゴ礁の海」や「魚の目から見た川」について調べてきたけれど、干潟も意味深そうなところだなぁ。なんか面白そう!

▼クルマエビの生育には干潟が不可欠

 江戸前の魚介類と干潟の関わりについて調べるため、さーて、どこから手をつけようか?
 ・・・そうだ!みどりの好きなクルマエビも江戸前のネタだってオヤジさんが言ってたっけ。最初にクルマエビについて調べてみよう。
 何か江戸前ネタとしてのクルマエビについて書いてあるサイトがないかと探してみると、クルマエビ作りの職人をめざす渡辺辰夫のホームページクルマエビに、書籍からの抜粋で寿司職人・小野二郎さんの談話が紹介されていた。横須賀沖で獲れる江戸前のクルマエビは、甘み、香り、茹でたときの色合いなど総ての点でダントツに良く、ほかには東京湾の神奈川寄りで獲れる小柴のシャコ、野島のアナゴなんかもいい鮨ネタだそうだ。次に見つけたのはWNN-Tokyo東京発/江戸前東京湾魚介類名鑑。リストを順に見ていくと、多彩な顔ぶれの魚に加えて、カニ・エビ類のところにクルマエビやワタリガニ、伊勢エビの名前まである。へ〜っ、東京湾の魚介類の豊富さに改めてびっくりだ。
 でも、ここに名前のあるもの全てが東京湾で今もしっかり獲れるのかというと、「江戸前ずし復元プロジェクト」のホームページミツカン/江戸前鮓考で紹介されている江戸前のネタのように、今ではあまりお目にかかれないものも少なくないようだ。真鯛やいか、アナゴは今もわりと豊富に流通しているが、小鰭や赤貝は、江戸前ものに限定すると入手困難で、ごく稀に出回っても量は少ない。
 そうこうするうちに、クルマエビ好きのみどりにはショックなこんな記事を見つけた。
「四国新聞・新瀬戸内論/エビの悲劇・成育の「場」奪われる」によれば、昭和33年に1,301トンだった瀬戸内11府県の漁獲量は、埋め立てが本格化した30年代後半から急落。45年に497トンと底をつき、翌年、埋め立て件数が激減してからようやく1,000トン台に戻ったそうだ。激減の理由は、干潟が埋め立てでコンクリートの護岸に変わり、幼生の住める場所がなくなってしまったこと。通常、海中でふ化したクルマエビの幼生は全長0.5ミリぐらいのプランクトンサイズで潮流に乗って浮遊し、やがて適当な干潟にたどり着いて体長が10センチ程になるまで泥のなかに潜って生活をする。しかし、たどり着く海岸にあるべき干潟が消えてしまっていたのだ。記事によると、クルマエビのように成育の場として干潟に依存している生物はたくさんいて、干潟は藻場と並んで「海のゆりかご」といわれているんだって。

[写真] ▼干潟、藻場は江戸前ネタのゆりかご

 「海のゆりかご」!?そうだったのか。じゃぁ、江戸前ネタと呼ばれるいくつかの生き物たちの生態も調べてみよう。・・・すると、確かにクルマエビ(佐賀県/有明海・クルマエビ)やアナゴ(Internet Fishing Hotline/深海で生まれる魚、マアナゴ)、ウナギ(登亭/シラスウナギの溯河)、シャコ(楠町ホームページ/水辺の生き物ウォッチング(9))、ヒラメ(柴釣具商会/尾・学(ヒラメ))は、幼生や稚魚のある時期を干潟の泥のなかにもぐって生活し、真鯛や小鰭(柴釣具商会/尾・学(コノシロ))などの小型の魚も、干潟や藻が生い茂る藻場で生活する時期があるんだって。・・・ホントだ、みんな干潟や藻場が「ゆりかご」、つまり稚魚の生育の場になっている!
 木更津市立教育センター/小櫃川河口干潟のサイトに干潟は魚のゆりかごだという解説を見つけた。これによれば、内湾で生活する魚の主なものが稚魚の時代を干潟で過ごす大きな理由のひとつは、水が温く、酸素やエサとなる底生動物(線虫、輪虫、アミ、ゴカイなど)が豊富なこと。そしてもうひとつは、干潮時に海からの捕食者を遠ざけ、外敵からの危険性が少なく、補食されない大きさに早く成長することができることだ。それから、ハゼやカレイのように、干潟を産卵場所としている生き物もいるんだって。
ところで干潟と並ぶ「ゆりかご」の藻場とは、砂泥地に生える海草のアマモ、岩場に育つ大型海藻のホンダワラ類(ガラモ場)などの群生地のことで、しばしば海の森林、草原にも例えられている(四国新聞・新瀬戸内論/ゆりかご受難、手軽な浅瀬狙い撃ち)。しかし、干潟も藻場も全国的に急激に消滅している(日本の沿岸海域における環境問題と環境管理/2.2干潟と藻場の消失)。
 それでは東京湾はどうかというと、「生活都市東京を考える会」第2回まちづくり部会発言要旨によれば、東京湾は房総半島の洲崎から三浦半島の剣崎を結ぶ線の北側一帯で、外湾と内湾をあわせた東京湾の全体は1,380km2。内湾というのは、富津岬と観音崎を結ぶ線から北側の面積で960km2。この内湾960km2は、1936年には約1,200km2あったが、埋め立てによって20%が減ってしまったという。しかし、このうち特に干潟について見てみると、その減少は20%どころではなく、1936年には136km2あったものが、現在はその1割以下の10km2しかない。ナント、約60年のあいだに一割以下になってしまったのだ。

 江戸前の魚介類達にとって「ゆりかご」となるべき場所がそんなに減ってしまっているのでは、姿を消すものがいたり、量が減るのは当然だ。これって、なんとかしなくちゃいけない!


▼干潟は渡り鳥たちの栄養補給拠点

 それにしても、干潟って思ったより賑やかな場所だなぁ、と感じたのは木更津市立教育センター/小櫃川河口干潟にある「干潟の春」「干潟の夏」「干潟の秋」「干潟の冬」のページ。季節ごとの干潟の様子を具体的に読んでみると、干潟にいる生き物の豊かさに改めて驚く。干潟には海で暮らす生き物だけではなく、かなりたくさんの種類の鳥もいる。
 「小櫃川河口干潟」の「干潟の鳥」によると、干潟で姿を見ることができる鳥の多くは、渡り鳥だそうだ。渡り鳥とひとくちにいっても、カモのように冬を日本で過ごす冬鳥、ツバメのように夏を過ごす夏鳥、春や秋口に見られるシギやチドリのような旅鳥と、大きく分けて3つのパターンがいる。
 このうちシギ・チドリは、夏の繁殖期であるシベリアやユーラシア大陸の中緯度地方まで移動し、冬には東南アジアから時にはオーストラリアにまで渡って越冬。かなりの距離を移動するため、途中で日本に立ち寄って、しばしの休息を取りエネルギーの補給をする。干潟は、その場所として重要な役割を担っているのだ。こういう渡りをする水鳥の、旅の拠点となる湿地環境を地球規模で守ることを目的に、ラムサール条約という国際条約が結ばれている。この条約の締結国会議で採択された「東アジアからオーストラリア地域・シギチドリ類湿地保全ネットワーク」の登録湿地と渡りのルートが谷津干潟自然観察センターのサイトに図で示されいる(東アジアからオーストラリア地域・シギ・チドリ類湿地保全ネットワーク)。見れば、その範囲は日本列島をすっぽり覆っている。日本列島の干潟や湿地が減ることがシギやチドリにとって致命的な打撃であることが、一目でわかる。

[写真]
木更津市立教育センター/制作:干潟まつり実行委員会

▼ガンの生態調査のネットワーク

 ところで、鳥・鳥・鳥そのエッセイ冬鳥 (1)を読むと、冬鳥の仲間としてカモのほかにガンの名前が挙がっている。昔は冬鳥の代表といえば、すぐガンが思い出されたそうだが、今ではガンが渡ってくる姿は一般に見ることがほとんどできなくなってしまったそうだ。そのためかインターネット上では、ガンの観察情報が特に活発にやりとりされてる。
 たとえば小友沼の自然/WILD GEESE リンクには各地の観察が結ばれていたり、日本の雁のページにも飛来地のマップがある。渡り鳥について調べるには各地点の観察を結び合わせていくことが大事なので、インターネットはそうした連携のために、優れた道具になっているようだ。
 また、国の天然記念物のオオヒシクイ(ガンカモ科)については、飛来地である福島潟のある新潟県豊栄市がつくっている水の公園福島潟/オオヒシクイのサイトにオオヒシクイの渡りのルートのマップが載っている。「山階鳥類研究所」と「雁を保護する会」とロシアの研究者との共同調査を通じて、カムチャッカ半島から飛び立ったオオヒシクイのほとんどが日本列島にやってくることがわかったそうだ。さらに、オオヒシクイに小型発信器をつけて、繁殖地などを調べる調査が進行中だという(人工衛星をつかった繁殖地調調査)。

▼干潟の食物連鎖と水質浄化機能

 と、こうして渡り鳥のサイトをいろいろ覗いているうちに、旅鳥のシギ・チドリにしても、冬鳥のカモやガンにしても、渡り鳥は干潟や湿地に集団で大挙してやってくることがわかった。最近、埋め立て事業の動向が問題になっている東京湾の最奥部、千葉県船橋市沖に残る三番瀬は、実に131種もの鳥類が訪れる干潟。日本自然保護協会/東京湾内でシギ・チドリ類がもっとも多い場所を見ると、1995年の調査では、三番瀬で45種・計7万4000羽の水鳥が記録されたとあった。
 これを見て、みどりが不思議に思ったのは、一年を通じてあちこちからやってくる渡り鳥に、干潟が十分な栄養を提供できているってこと。どうしてそんなことができるのかな?
とりあえず、旅鳥の代表格、シギやチドリの餌になっているという底生動物について、調べてみることにしよう。

 その前に、干潟ってどんなところのことを言っているのか、イマイチあいまいなままだったので、ちょっと確認。日本でも代表的な干潟のサイトをいろいろ覗いてみると、干潟とは川から流れてきた砂や泥が堆積してできた遠浅の海岸のうち、潮の干満によって海の中になったり砂泥が露出したりする部分と言えばいいようだ(兵庫県立人と自然の博物館/人と干潟)。大きな干潟ができるのは波の静かな内湾で、ちなみに荒波にさらされているような外洋に面した砂浜の場合は、干潟のように有機物をたくさん含む砂泥にはならない。

 さて、鳥の餌になる底生動物の話だけれど、和白干潟を守る会ホームページ/和白干潟の底生動物には、博多湾にある和白干潟に住むいろいろな底生動物が紹介されている。干潟表面の藻類を泥といっしょに削り取って食べる巻き貝のウミニナ。海水中のプランクトンや微少な有機物をえらでこしとって食べるアサリ、サルボウ、オキシジミ、オオノガイなどの二枚貝。 干潟に巣穴を掘って生活しているスナガニのなかまや、砂地に多いコメツキガニは干潟表面の砂をはさんで口に運び、砂の中の有機物をより分けて食べるという。そして陸上でいうとミミズに似ているゴカイ類は、干潟の泥を食べて栄養素を吸収し、砂粒を排泄する。
 和白干潟は底生動物が非常に多く、小さいものまで入れると1平方メートルあたりナント1万個体以上にもなるそうだ。そうか、さっき、干潟は川から流れてきた砂や泥が堆積してできていると言ったけど、この泥の部分が有機物を豊富に含んでいて、底生動物たちの餌となっているんだ。
 そしてこのサイトには、これら底生動物は野鳥や魚の餌として重要なだけでなく、干潟の余分な有機物を食べて海をきれいにするという「高い浄化能力」を持つという点でも重要だと書いてある。木更津市立教育センター/小櫃川河口干潟干潟の浄化力には、汚水処理場と干潟の洗浄機能を対比した解説があって、干潟が有機物だけでなく窒素やリンなども浄化するとある。

 また、干潟にはアナジャコやスナモグリなどの巣穴がたくさんポコポコとあいていて、酸素を泥の中に送り込んで、これが好気性の微生物の活動を活発にし、有機物の分解を盛んにしているという。下水処理場でいう、活性汚泥(好気性微生物の集団)を使った水の浄化と同じことが行われているのだ(藤前干潟におけるアナジャコ類調査)。中国新聞・新せとうち学/干潟の恵み−海の生命はぐくむ−の「食物連鎖で窒素を除去」には、こうした干潟の食物連鎖と浄化機能のようすを簡単に図式化したイラストがある。

 以前、WebMag24号の特集で生きた土壌と持続可能な農業について調べたとき、イキイキとした植物を育む生きた土壌は、有機物が分解しかかった腐植が豊富で、それを分解する多様な土壌動物や土壌微生物がチェーンになって複雑で高度な生態系をつくりあげていた。干潟の場合、腐植にあたるのが有機物を含んだ泥で、それを分解する底生動物や微生物が中心となって豊かな生態系を作り上げているのだろう。
 実は干潟で栄養補給をする渡り鳥もその生態系の一部なのだ。「四国新聞・新瀬戸内論 /鳥の告発、海と陸の「連環」断つ」には、鳥も干潟の生態系の一部として重要な役割を担っているという記事があった。鳥や魚が干潟内にたまる栄養を外部に持ち出す役割をしているのだ。干潟で底生動物や魚を食べた鳥のなかには、森や林に入って排せつをするものもいる。そうか、川によって干潟に運ばれてきた山の栄養は、また山へと還っていたんだ。

▼「古生代の生きた化石」が棲む有明海

 諌早湾の大規模干拓事業のために、干潟や浅瀬があのギロチンのような鉄板で閉ざされてしまった時に、実は、みどりにはどういう問題なのかよくわかっていなかったのだが、こうして干潟の生き物たちのことを調べてみて、他人事とは思えなくなってきたぞ。諌早湾がその一部をなす有明海は日本で一番大きい干潟で、ほかにはいない珍しい底生動物たちの宝庫だというからだ(諌早湾の問題については、山下弘文さんの諌早湾----ムツゴロウ騒動記という本をインターネット上で読める)。
[写真]  諌早湾の干潟が閉ざされる時のテレビの報道では、ムツゴロウの映像が繰り返し流れて、ムツゴロウばかりがすっかり有名になったけれど、有明海の干潟は、不思議な生き物が無数にいる途方もない場所みたいだ。佐賀県/有明海によると、有明海にはムツゴロウ、エツ、ワラスボ、ハゼクチ等国内では他で見られない生物が15種類も生息しているそうだ。ハゼ科のワラスボは、内臓や血管が透けて見えるような紫色でぬるぬるした気味悪い体と、むき出しになった歯が醜悪な面構えがグロテスクなムツゴロウと並ぶ有明海の珍魚。きゃぁぁ、これが魚?と疑いたくなる見た目だ。日本では有明海にしかいないという。
 ミドリシャミセンガイは、貝と名前についていて一見二枚貝の仲間にも見えるけど、貝とは全く異なる触手動物腕足類の一種。5.7億〜5.1億年前のカンブリア紀は、三葉虫などの大きな生き物が海に姿を現しはじめる時代だけど、腕足類も三葉虫などとともにこの時代の化石として発掘されている。あきれたことに、ミドリシャミセンガイは、このカンブリア紀の化石の腕足類とほとんど変わらない生き物なのだ(遠藤一佳◇ホームページ/「カンブリア紀の大爆発」と多細胞動物の起源)。だから、ミドリシャミセンガイは「生きている化石」と呼ばれている。

 有明海の干潟は、こういう途方もない古い時代の生き物の棲みかなのだ。有明海の干潟と古生代の渚は、共通する点をもっているのだろう。こういうことがわかってくると、干潟は、地球上に誕生した生命が、だんだんと生き物らしい形をもつようになっていく際に「生命のゆりかご」としての役割を果たしたのではないか、なんていう想像もふくらんでくる。生命の長い長い歴史に想いをはせるためにも、干潟はとても大事な場所なんだろう。

[マーク] 特集編集部への発信 [マーク] 特集編集部との交信録 [マーク] バックナンバー


文中で紹介したホームページ


ここから思いついた言葉でホームページを検索!

InfoNavigator
*半角カナは使用できません
検索のコツ


InfoNavigator HAYATEを使い
干潟&渡り鳥」で
ホームページを探してみよう!