[特集]
No.41  シックハウスと化学物質過敏症
[写真]
『トルエン、フォルムアルデヒド、
ジクロロメタン』


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 こんにちは、ミドリです。

 それは先月のこと。フリーでグラフィックデザイナーをしている友達のユキちゃんに仕事を頼もうと久しぶりに電話をしてみると、受話器からは元気のない声が・・・。
 「どうしたの?」と尋ねると、「からだの調子が悪く、1年くらいの間しばらく仕事を休んでいた」とのこと。いわゆるシックハウス症候群になってしまったのだという。
 からだの具合が悪くなったのは去年の夏、実家に帰ったときから。日中を居間で過ごしていたユキちゃんは、その年の春に離れの物置小屋に撒いたシロアリ駆除剤の成分が風にのって居間に流れてきているのを知らず、長い時間その風にあたっていたのが悪かったらしい。微熱が続き、全身がだるく、吐き気、咳が出てる、頭痛がするという症状が現れた。また頭がぼ−っとして、ごくふつうの会話はできても、ちょっと順序だてて考えごとをしようとすると混乱し、思考力や判断力が明らかに低い状態になっていたという。そんな症状が現れ始めてからというもの、シャンプーや化粧品、マニキュアなどの化学物質が使われている身の回りのものにも反応して同様の症状がでるようになってしまったそうだ。

 いろいろなものに反応してしまうため、少し前までは外出もできなかったという。パソコンも長く使っていると気持ち悪くなってしまうのでデザインの仕事はしばらく休んでいるとのこと。再開するにはもう少し時間がかかりそうで、今は仕事をお願いできそうにないことがわかり、この時は早々に電話を切った。

 シックハウス症候群???そう聞いてミドリはちょっと不安になることがひとつあった。シロアリ駆除剤ではないけれど、わが家ではゴキブリとダニを駆除する霧の殺虫剤を使い過ぎてるんじゃないか?と最近、思い始めていたからだ。いまの部屋は古い木造建築。ちょうど1年前にこの部屋に引っ越してくる時、ゴキブリがとっても苦手なミドリは霧の殺虫剤を、引越前日に1回、引っ越し直後に1回、今年になって夏がくる直前に1回、そしてもうそろそろ通算4回目の散布をしようと考えていたところなのだ。殺虫剤の説明書きにはご丁寧に、1度殺虫剤をまいたあと2週間後には、念のためもう一度まくとよいと書いてある。しかし、前回殺虫剤を使った後、換気をしても部屋にいると気分が悪くなった。ミドリの気分の悪さはやがておさまったけれど、もしかしたらユキちゃんみたいにたいへんな症状に発展する可能性もあったんじゃないか?なんだか人ごとじゃないぞ!そう思えて、この機会にシックハウス症候群についていろいろ詳しく調べてみることにした。
文中のミドリのお友達ユキちゃんは実在の人物です(名前は仮名)。今回原稿を書くにあたり、いろいろ話を聞かせてくれてありがとう! 協力に感謝です。
ミドリ


挿し絵のペルメトリンとクロルピリホスの化学構造式については、「住まいにおける化学物質」の東賢一さんのご協力をいただきました。ありがとうございました。
編集部


▼シックハウス症候群の症例

 「シックハウス症候群」や「殺虫剤」をキーワードにサイトをのぞいてみると・・・どうやら住宅に何らかの原因があって症状がでるケースをひとまとめにして、シックハウス症候群と呼んでいるようだ。ひとくちにシックハウスと呼んでいても、その原因や症状はさまざまだ。

 「シックハウスを防ぐには」には、いくつかの具体的なケースが紹介されている。壁のクロスを貼り替えてから頭痛・吐き気がひどく、やる気がなくなり仕事が嫌になってしまったという20代の女性(ビニールクロス、接着剤ともに問題があった)や、リフォームしたところアトピーで肌が黒ずみ、不眠にも悩んでいた40代の女性(床材に使用した接着剤がよくなかった)。また、リフォームしたら床下に付けた強制換気の位置が悪く半年前にまいたシロアリ駆除の薬を含んだ空気が室内に逆流し、子供2人にひどい湿疹ができ入院するまでになってしまったケースも。

燻煙剤に使われることの多い
ペルメトリン
 一方、殺虫剤についてはミドリの不安がもっと大きくなるページを見つけてしまった。「ハウスダスト粒子中の殺虫剤と多環芳香族炭化水素の分布」によれば、シックハウスに関係があると考えられている室内のハウスダストには、殺虫剤の成分である有害化学物質が含まれている可能性があるそうだ。例えばこのサイトに紹介されているアメリカの研究では、ハウスダストのなかから殺虫剤ではペルメトリンという物質が一番多く検出された。これは家庭用燻煙剤やゴキブリ用エアゾールなどに使われている化学物質で、発がん性が疑われ、環境庁が示した環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)67項目の中にも名前が挙げられているという。 研究の結果、ハウスダストの粒子が小さいほど高濃度で含まれているということがわかったそうで、ということは例え掃除機で吸い込んだとしても排気と一緒にまた部屋の空気中にばらまかれ、ひとはそれを吸い込んでいる可能性があるってことではないだろうか。ひゃ〜、殺虫剤を使ったあと自分では十分に換気をしたつもりでも、あとあとまでハウスダストのなかの殺虫剤成分を吸い込む可能性があるってわけなのね。コワイ。

▼化学物質過敏症の症状

 ところで、さっき紹介したシックハウスの例は、いずれも原因を取り除くことで体調の改善ができたケースだった。しかしユキちゃんの場合はシロアリ駆除剤の影響がない東京の家に移動したにもかかわらず、症状がなかなか改善せず、一時は悪化したと言っていたっけ。
 そこでさらに調べてみると、シックハウス症候群の中でもユキちゃんのケースにあてはまる「化学物質過敏症」と呼ばれているケースが見つかった。
 「化学物質過敏症ネットワーク」の「症例・患者の体験」や、自らが化学物質過敏症でこのネットワークの相談窓口をしている道本さんのページには、化学物質過敏症になった人の体験談がたくさん紹介されている。「症例・患者の体験」を2つ3つ読んだだけで「化学物質過敏症」の症状のすざまじさに唖然としてしまった。

 一度発症してしまうと、人によって例えば「ボールペンのインク、紙にも反応し、顔面皮膚の膨張感、舌のしびれ、のど、首の違和感がある」(声を受け止めてください)など、かすかな物質に反応し、普通では想像できないくらい大きな苦痛を感じてしまうようだ。また化学物質を含む洗剤、柔軟剤、防虫剤の臭いを極微量でも吸うと頭に血が登り、性格が攻撃的になる(避難生活と回復記2)など、感情が不安定になり自分でもコントロールできないくなってしまうという例もあった。そして特にかわいそうなのは自分の体調の悪さをうまく言い表せない子どもたちのケースだ。発症しても原因がわからないまま化学物質に接し続けると、「食欲不振、腹痛、倦怠、手指の振顫、身体の節々の痛」などの症状に加え、「奇妙な行動。鼻歌がやめられない。手足の指先が気になって、何度も見てしまう。階段の一つの段を2度踏みしめずには昇降できない。まっすぐ歩けない」(CSの原因を探し続けた7年間)などの症状が現れ、精神的に問題のある子供と周囲から思われてしまうケースもある。

 このほか、教科書やノート、プリントを広げると動悸や息切れが始まり、何も考えられなくなる子どもに、からだに障らない教材を用意してあげると見違えるように学習に取り組む話(化学物質と子どもの教育権)も紹介されていた。
 紙のメーカーから成分表を取り寄せたところ、紙自体に、にじみ防止や強度を上げる目的の合成樹脂、接着剤や消泡剤、防腐剤まで使われていた。そこでこうした加工がされていない紙を使うようにしたら症状はおさまったのだという。

▼化学物質過敏症の原因物質の究明

 「化学物質過敏症ネットワーク」によれば化学物質過敏症は、何かの化学物質を呼吸や飲食、手に触れるなどによって一度に大量に体に取り込んだり、微量だけれども長期間にわたって取り込んだ結果、主に自律神経失調を中心として症状がでるものだそうだ。英語ではChemical Sensitivity(=CS)というと書いてある。そして一つの物質に対して過敏になると、最初に原因となった物質だけではなく、その後いろいろな化学物質に反応してさまざまな症状を引き起こす傾向があり、それを「多種類化学物質過敏症」(Multiple ChemicalSensitivity=MCS)というのだそうだ。ユキちゃんが最初に反応したのはおそらくシロアリ駆除剤だが、その後、シャンプーや化粧品など身の回りにある化学物質を使ったものをどんどん受けつけなくなったというから、このMCSの症状にあてはまる。

シロアリ駆除剤に使われることの
多いクロルピリホス
 そういえば、新聞のインクの臭いをかいだだけでも軽く締め付けられるような頭痛がすると言ってたっけ。

 化学物質過敏症はごく微量の化学物質にも反応してしまうというのが特徴らしい。しかし微量であるがゆえに、一体何が原因で具合が悪くなるのか、見つけるのは難しいようだ。手記を読むとたいていの人は化学物質過敏症と診断されるまでに、いろいろな科のお医者さんに行っては「どこも悪くない」「気のせい」「神経質なだけ」「更年期障害だろう」などと言われ、打つ手のないままひどくなる症状に苦しんでいたみたいだ。そんななか、北里研究所病院には日本で唯一化学物質過敏症の患者を受け入れる外来がある。手記を書いている人はほとんどこの病院の診断をうけたらしい(「知っていますか?化学物質過敏症」)。

 この病院では、新築やリフォームをしたばかりの家に住んでいるか?という質問をはじめ、徹底した問診によって症状の原因となっている物質を洗い出す。そして疑わしいものを見つけると、それを除去してからだの反応をみる。先程紹介した子どもの例では、ノートに合成樹脂や接着剤や消泡剤、防腐剤が含まれていることをつきとめ、それらが使われていないノートを使ってみることで子どもの症状がおさまるか試してみていた。このように根気強く調べることで原因物質をつきとめるのだ。

 化学物質をとりのぞくことで症状がおさまるとすれば、からだの具合の悪さに化学物質が関係していることは明かだろう。

▼化学物質過敏症の発症とバケツ・モデル

 だけど、一体ぜんたい化学物質がからだの中で何をやらかしてるっていうのだろう?「化学物質過敏症とは」には、こんな説明があった。からだのなかには体内に入ってきた化学物質を解毒するバケツがあって、化学物質を体内に取り入れ続けるとやがてバケツがいっぱになり、あふれ出してしまう。そしてバケツがあふれて以降はごく微量の化学物質にも反応して強烈な症状がおきるようになるというのだ。北里研究所病院の医師・宮田幹夫さんによれば、この症状は主に自律神経系の異常によるものだそうだ。北里研究所病院では、自律神経のはたらきに異常があるかどうかをみるために目の検査をするという。目には自律神経系の異常が現れやすい(「知っていますか?化学物質過敏症」)。

 ちなみに、そもそも人によってからだに取り込む化学物質の量が違ったり、バケツの大きさがひとそれぞれに違うので、たとえば同じ環境で暮らす家族でも発症する人としない人がいるとのこと。
 そういえば、花粉症でもこのバケツの話に似た説明をよくみる。例えば「なぜ花粉症になるのだろう?」では、花粉症をはじめとするアレルギーは原因物質に対するからだの許容量(コップ)がいっぱいになりあふれだしたときに、突然、症状がでてくると説明している。だから予防法は、原因物質になるべく触れないようにすることだという。化学物質過敏症の場合と同じだ。
 あれれ、それじゃぁ化学物質過敏症はアレルギーの一種ということなんだろうか?
 でも、よく考えてみるとアレルギーの方は原因となる物質が花粉、ダニ、ソバなどもともと自然界に存在しているものが多い。そして花粉アレルギーだったら、花粉に対して具合がわるくなる。本来自分の体を守るべき抗体がアレルゲン(アレルギーとなる物質)に反応することで過剰な防御反応を起こすのがアレルギーだ(詳しくは「アレルギーの正しい知識」で)。
 それに対して、化学物質過敏症の場合は、合成化学物質に反応をすることが多い。

 そして「化学物質過敏症とは」を読むと、化学物質過敏症とアレルギーは親戚のような関係との説明があった。免疫機構に異常がでる症状をアレルギー、自律神経系に異常がでる症状を化学物質過敏症として区別しているようだ(「化学物質過敏症とアレルギー症の違いについて」)。しかしこの2つ、全く別々のものかというとそうではなく、化学物質過敏症になった人はアレルギーになりやすかったり、またその逆のケースもあるという。
 なんだかややこしいなぁ。もぉ。

▼ユキちゃんの場合

 と、ここまで調べてみて、もしかしたらユキちゃんは化学物質過敏症なのかもしれないと思った。本人はシックハウスみたいなものという言い方をしていたけど、化学物質過敏症については知っているんだろうか? 心配になって、もう一度改めてお見舞いの電話をかけてみることにした。最初の電話から3週間くらいあとになってのことだ。
 電話に出たユキちゃんは、前回にくらべたら少し調子のよさそうな声。その後のからだの調子を尋ねると、最近は少し症状が落ちついてきているとのこと。4カ月も続いていた新聞のインクの臭いに反応する頭痛も、ある日突然、症状が出なくなったという。少しづつだが体調がよくなってきていることを聞いて安心した。

 そこで、ミドリがシックハウスに興味をもってインターネットでいろいろ調べるうち化学物質過敏症という症状があることを知ったと言ってみた。
 するとユキちゃんは、東京に帰ってきてからも頭痛、倦怠感、整髪料の臭いに反応して動悸がする、また、まだ暖かい季節なのに突然手足から血の気がひき、真っ白く冷たくなってしまうなどの症状がおさまらなかったため、どんな病院に行ったらよさそうか「私もインターネットを使って調べたのよ」と言う。

 ちなみに、化学物質に反応してでるユキちゃんの頭痛の症状は風邪をひいた時などと明らかに違うそうだ。肩から首、頭にかけてコチコチになり、まるで孫悟空がお仕置きされるみたいに頭についた輪っかがギリギリとしめつけてくるような痛みがして同時に、鼻の中に水が入った時に感じるような鼻がツーンとする不快感がするのだという。ほかにも微熱やだるさなどが続いていた。シロアリ駆除剤があやしいと思っていたユキちゃんはシックハウス関連を中心に症例を探しては読み、そして自分にそっくりな症状、化学物質過敏症を見つけたのだという。さらに化学物質過敏症の体験談を書いている患者さんのほとんどが北里研究所病院で診断されていることを知り、早速、診察を受けに行った。その結果、自分で疑ったとおり化学物質過敏症と診断されたのだった。

 では、バケツが一杯になるようなことがユキちゃんにはあったのだろうか? 実はユキちゃんはグラフィックデザイナーになる3年前まで、約2年間にわたって建築関係の仕事をしていたのだそうだ。週に30〜40件もの新築住宅を見てまわる仕事だった。しかし新築の住宅はまだ内装などに使われている接着剤が乾いてないことも多く、しかも入居前で閉め切ったままの室内にいきなり入って仕事をしなければならない。ユキちゃんはたいていの家で強烈な接着剤などの臭いをかぎ、時には目をあけてられず涙をボロボロこぼしながら室内で仕事をしなければならないこともあったという。

 どうやらユキちゃんはこの仕事をしていた2年間のうちに普通の人の何倍もの量をバケツに貯め込んでしまったようだ。シロアリ駆除剤は、バケツがあふれ発症するきっかけだったのかもしれない。

 北里研究所病院でした検査の結果、4種類ある目の検査のひとつに異常が出た。しかし肝臓には異常がないことがわかり、お医者さんにはこれ以上症状が激しくなったり肝臓に異常が出たりしないうちに早めに診察に来られてよかったね、と言われたそうだ。重い人は肝臓に障害が見つかり、なかには悪性腫瘍になるケースもあるのだという。そしてもうひとつ、この時点でユキちゃんにははっきりしたアレルギー症状はなかったのだが、「いつ併発してもおかしくない、もしなってしまってもしょうがないと思ってください」と言われたそうだ。だからユキちゃんは今年の春は花粉症になるかもと心配していた。しかし幸いなことに花粉アレルギーの症状は今のところでていない。ただ、風邪をひきやすくなったりコーヒーなどの刺激物でおなかをこわしてしまうようになるなど、化学物質過敏症の症状が現れる以前から、すでに免疫力の低下は感じていたそうだ。

▼化学物質過敏症の治療法

 話がすすみ治療法について尋ねてみると、「それがね、特にないのよ」という返事が返ってきて、驚いた。この症状に特効薬なんてないのだ。そもそも化学物質に反応してしまうので、風邪薬なども、ちょっとの分量を試しにのんでみてからだに反応がでないかどうか、身をもって調べてから飲むように言われているという。人によって反応がでるものが違うので、「あれとこれはダメ」というようなはっきりした指示をお医者さんも出せないのだそうだ。

 症状を軽減する策としては、まず原因となる化学物質を身の回りからなくすことが何よりも大切。そして体内に蓄積した化学物質を減らすために汗をかくことをすすめられるという。ユキちゃんの場合は備長炭を入れて沸かしたお風呂で1日に3時間は半身浴をしたり(塩素を含む普通の水道水を沸かしたお湯ではかえってよくないそうだ)、外に出られるようになってからは1日置きにスポーツジムに行って運動することを実践しているそうだ(ただしこの時も他の人が使う制汗スプレーや整髪料などには注意してできるだけ近寄らないようにしているとのこと。ちなみにプールは塩素が強いので入れない)。そしてもうひとつ、ビタミンを多く捕るようにしているという。

 関連のサイトをみると治療法としてどこでもこの3つが紹介されている。ビタミン、ミネラルは肝臓の解毒作用を促進させるはたらきがあるようだ(「肝臓の仕事」、「ビタミンとは何か」を参照)。

▼化学物質の蓄積から起きる疾患のつながり

 ユキちゃん、スゴイ。冷静に自分の状況を分析しちゃんと北里研究所病院に化学物質過敏症の検査を受けに行っていたとは。お医者さんの言うように、早く症状改善のための手を打つことができて本当によかった。ユキちゃんがもう少し元気になったら久々に会ってお昼ご飯でも食べようという約束をし、電話を切った。

 ユキちゃんの話を聞いて化学物質過敏症の体験を具体的に知ることができた。そして、電話をする前にインターネットで調べてみて概念としてわかっても漠然としていたことが、いろいろリアルに感じられるようになった。症状のあらわれる化学物質を身の回りから遠ざけること、からだのなかに溜まっているらしい化学物質を汗をかいて外に出すこと、ビタミンを採ることで肝臓の解毒作用を促進することなどで症状が改善しているというユキちゃんの話からは、確かに化学物質が体内に蓄積することが問題らしいということがはっきりしてくる。

 またユキちゃんは化学物質過敏症の症状が出る前に明らかに免疫力の低下を感じたと言っているし、発症後はいつアレルギー症を併発してもおかしくないとお医者さんに言われている。やはり自律神経系の異常と免疫の異常は何らかのつながりがあるみたいだ。それに症状の進んだ人は悪性腫瘍など肝臓の病気になることもあるとお医者さんが言っていたところを見ると、化学物質の発がん性の問題ともリンクしてるみたいだ。なんだかいままでバラバラに見られていた発がん、アレルギーの悪化、環境ホルモンなどの化学物質の蓄積によって起きる疾患が、じつは根っこでつながっているのではないかという気がしてきた。

 ならばここで一度、今まで問題にされてきた化学物質の蓄積で起きるいろいろなタイプの疾患を思い出しておこう。まず中毒。カネミ油症が有名だ。カネミ油症の原因はポリ塩化ビフェニール(PCB)で、これが米ぬか油に混入し、摂取した人の顔、首、背中に黒いにきび状のぶつぶつができ、頭痛、手足のしびれに襲われるなどの中毒症状を起こした(「カネミ油症事件」)。
 次に発がん性。PCBをはじめ、化学物質の多くについて、体内に蓄積するとがんを引き起きやすくなることが指摘されている。さらに、最近になって出てきたのが環境ホルモンの問題だ。環境ホルモンは体内に入るとホルモンに似た働きをしたりホルモンのはたらきを邪魔する。生殖ホルモンとまぎらわしい物質がオスをメス化したりする。この環境ホルモンの場合、発がん性物質に較べてずっと微量で、大きな問題を起こすところが恐ろしいところだ。(「環境ホルモン概論」)。
 また、アレルギー疾患の場合にも、化学物質が症状を悪化させる要因になることが多い。花粉症の発症率が大気汚染のひどい地区で明らかに高くなったり、ホルムアルデヒドの濃度が高い家に住む子どもの場合に喘息やアトピーが起きやすといった調査結果もあるという(「身近な化学物質と健康」)。

 これら、中毒、発がん性、環境ホルモン、アレルギー疾患は、いずれも化学物質の蓄積と関係が深いことがわかっていたものの、今まであまり根っこをつなげてみるという捉え方がされてこなかったのではないだろうか? でも化学物質過敏症との関連で見ると、バラバラに見えていたこうした疾患が互いに密接につながり合っていることが、具体的に感じられてくる。

 たとえば、今までにも化学物質はアレルギーの症状を悪化させる要因になる場合が多いことが知られているが、どうしてそういう効果が起きるのかよくわかっていなかった。
 しかし化学物質の蓄積が免疫系の機能を低下させることが明らかになってくると、アレルギーと化学物質の関係の理解も進むのではないか。
 また、免疫系の機能の中には、がん細胞のような異常な細胞を見つけて殺してしまうものもあるようなので、化学物質の蓄積によって免疫系の機能が低下するとがんにかかりやすくなるという関連もありそうだ。ユキちゃんがお医者さんに聞いた「化学物質過敏症が重症化すると肝臓が悪性腫瘍などになるケースもある」という話は、化学物質の蓄積がいろんなルートからがんの危険を高めてしまうものであることを感じさせる。

▼自律神経系、免疫系、ホルモン系の密接な関係

 中毒、発がん性、環境ホルモン、アレルギー疾患、そして化学物質過敏症という症状を根っこのところでつなげて考えてみると、例のゴキブリ殺虫剤をまたやろうか、どうしようかという問題の答えは、おのずと決まってきた。からだのなかに化学物質が溜まり、それが中毒、発がん性、環境ホルモン、アレルギー疾患、化学物質過敏症といった症状にあらゆるルートで影響を与えているのだとすると、普段から化学物質をできるだけからだの中に取り込まないようにしておくに越したことはないのだ。化学物質が添加されている食べ物や皮膚に触れる可能性のがある合成洗剤なんかはもちろん、呼吸から摂取される化学物質は体内への吸収率が高いというから(「身近な化学物質と健康」)、たいしたことないと思わずちゃんと注意した方がよさそうだ。

 ところで、化学物質が体内に蓄積しておきるいろいろな疾患のつながりについて、専門家がどう考えているかというと、北里研究所病院の宮田さんは、アレルギーと化学物質過敏症、環境ホルモンはどれも関連した症状だと話している。人のからだは外部の環境の変化に対してバランスをとろうとしていて、それを司る自律神経、免疫、ホルモン(内分泌)の3つは団子になっていて、分けて考えるのが非常に難しいのだという(「化学物質がその人の許容量を超えたとき発症する」)。自律神経系と免疫系がつながっている話はこれまでにも何度も出てきたけれど、ホルモン系と化学物質過敏症とは一体どう関係しているんだろう?
 北里研究所病院の医師・難波龍人さんは、化学物質過敏症の症状をホルモン系の視点からとらえて「特集 化学物質過敏症を考える 「シックハウス」症候群とは何か」)の中で話をしている。環境ホルモンとして注目されているのは主に生殖ホルモンを撹乱する化学物質だが、甲状腺ホルモンとか成長ホルモンなどを撹乱しているようなものもあるのではないかというのだ。

 そして環境ホルモン物質が甲状腺ホルモンを撹乱するという流れから、化学物質過敏症の症状を捉えるのがいいと考えているらしい。こんな風に、環境ホルモンも化学物質過敏症と密接な関係をもっているという見方が強くなってきているみたいだ。

▼化学物質に関する市民の認識の共有

 化学物質過敏症がどういうメカニズムで起きるのか、専門家の間にはいろんな説があるようで、よくわかっていないらしい。しかし、はっきりしているのは、体内への化学物質の吸収が化学物質過敏症の症状の主な原因のひとつになっているということで、また、その原因物質をつきとめることができる場合も多いということだ。こうしたアウトラインがわかるということは、化学物質過敏症の症状に苦しむ人にとってはもっとも重要なことだろう。発症している当事者にとってはより具体的な症例の情報がわかることも大切なのが、ユキちゃんの例からもわかる。
 そしてまわりの人の理解がないために、現状では発症しても多くの人が孤立して精神的にも追い込まれた状況になっているようだ。発症した人には早急な対処が必要で、それにはまわりの人の理解が不可欠だ。発症していない人もこうした情報を共有していくことが重要だろう。
 それに、そもそも発症していないからといって他人事ではない。誰もが、さまざまな化学物質にさらされた生活をしている。パニックをひきおこすような言動ではなく、問題の根っこをみんなが冷静に捉えられるような情報の共有の仕方が重要だろう。
 それには、化学物質が蓄積して起きる疾患をバラバラにとらえるのではなく、その大きなつながりを理解することが大事なことで、化学物質過敏症をよく知るとそういうつながりがよく見えてくるだろう。


 さて今月の特集はいかがでしたか? ミドリは漠然と何かマズイかも・・・と感じていた化学物質に対する不安に対して、どうすればいいのか、少しハッキリしてきたと感じています。そしていろいろと普段の生活の中で実行していこうと思いました。みなさんの感想もぜひ聞かせてくださいね。お便りを待っています。

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