[特集]
No.44 
化学物質過敏症と「木と土の家」の見直し
[写真]
『真壁造:施工例』
(「夢工場」より)


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 皆さんこんにちは、夢智子です。

 WebMag41号特集でミドリちゃんがレポートしてくれた「シックハウスと化学物質過敏症」。住宅の室内汚染などで有害化学物質が体内に蓄積されるとどういう症状が起こるのか、その恐ろしさはわかったけれど、つい自分とは関係ない話だと思ってしまいがち。そういう私自身もどこか遠いところの話と思っていたら…。

 たまたま仕事で知り合ったMさんが、打ち合わせ中に「私、化学物質過敏症なの」と切り出した。その時も少し目がチカチカすると言って気分が悪そう。元気にバリバリ仕事をこなしているように見えたMさんが、実は化学物質による弊害に苦しんでいたなんて…。これは誰にでも起こりうる、想像以上に身近な問題なのかもしれない。

 ミドリちゃんの回の記事を踏まえて、今回の特集では、化学物質過敏症の患者さんの視点から出発して、日本の住宅のあり方を根本的に考え直す手がかりを探ってみたい。

▼Mさんのケース---新築に住み始めて化学物質過敏症に

 Mさんは、幼少期から症状の重いアトピーに悩まされ続けてきた。30歳を機に長年使用してきたステロイドをきっぱりやめる決意をし、ちょうどその頃、結婚と同時に新築の一戸建てに住み始めた。この家は知り合いの建築家に設計を依頼し、細部まで施主であるMさんたちの意向で決定されていった経緯を持つ。建築家の奥さんがアトピーだったこともあり、設計段階からアトピーの原因といわれるハウスダストや通気性、日当たりには特に気を遣い、窓の配置や大きさにはMさんたちも注文をつけたそうだ。ところが、当時(今から7年ほど前)はまだ一般的に今ほど化学物質汚染の問題が取り沙汰されておらず、Mさん自身、化学物質の危険性に関する知識も問題意識もなかったため、壁紙や接着剤を選ぶ際には「安いのでいいです!」と安易に注文してしまったという。

 新居に引っ越して3ヶ月が過ぎた頃、急にアトピーの症状が悪化し始めた。ステロイド剤をやめた時期とも重なり、Mさんは最初ステロイドを断ったことによるリバウンドだと思って我慢し続けた。ところが、症状はひどくなるばかりで、しまいには起きていられなくなっため、仕事も断念。九州の実家にしばらく戻ることになったのだが、1ヵ月もしないうちにみるみる症状が改善に向かった。そんなことを繰り返しているうちに、Mさん自身、これは単なるアトピーではない、周りの環境が原因なのでは? と思い始めた。でも、まだその頃は住宅そのものというより、都会特有の大気汚染などが主要因だと考えていた。

 ある日、頑健な体が自慢の友人が遊びに来て、「この家、ヘンだよ。目がチカチカする」と一言。その時初めて「家の中だ!」と問題のありかについて確信を持ったのだという。ちょうどその頃、ようやくメディアでもシックハウスという言葉が取り上げられるようになり、だんだんと有害化学物質の実態を知るにしたがって、それまでの不可解な症状に納得がいくようになった。例えば、寝室の大きなクローゼットに入るとひどく気分が悪くなる。それはクローゼットにがっちりはめ込まれている合板のせい。洋服も化学繊維のものを着ると、アトピー症状がひどくなる。仕事机の表面の塗装に腕が触れるだけで、赤くなる。塩素の入った水道水がほんの少し触れても、かゆくなる。すべて、化学物質が原因なのだった。

▼住宅内の複合汚染の実態

 Mさんと同じように、新築の家に住み始めたことがキッカケで、体調不良に陥ったセラピスト夫妻の体験談がウェブ上にある。「能登春男・あきこ先生に聞く 室内環境汚染と無縁の住宅づくり」を読むと、この夫妻が体験した数々の化学物質による症状がわかる。「1.不可解な症状が次々と襲う」にあるように、室内に漂っている何かしらの化学物質の影響によって引き起こされる健康障害は、視覚異常、聴覚異常、倦怠感、イライラ、皮膚炎、手足の関節痛など全身に及ぶ。あきこさんはMさん同様、新築に移ったことでアトピー症状もひどくなったという。

 いったい、新築住宅の室内にどんな物質がはびこっているというのだろう。同じページにある≪化学物質と症状の関係≫に、住宅内に充満している代表的な化学物質グループとそれによって引き起こされる症状がまとめられている。代表的な化学物質は大きく6つのグループに分けられ((1)ホルムアルデヒド (2)有機リン (3)有機溶剤 (4)有機塩素 (5)フタル酸エステル類 (6)ピレスロイド)、いずれも合板やビニールクロス、接着剤といった内装に使われる材料や、建材や畳などに染み込ませた防虫剤、防カビ剤、防腐剤、さらに家の土台を蝕むシロアリ退治のために床下に撒かれる駆除剤などに含まれる物質だ。
 これらの化学物質によって引き起こされる症状は、Mさんのような化学物質過敏症やアトピー性皮膚炎のほか、アレルギー、神経症状、ホルモン異常、ガンなど多種多様で、さまざまな有害化学物質が多くの症状と複雑に関係していることがわかる。そして、有害化学物質がさまざまな症状をひきおこすメカニズムはあまり解明されていないのが現状のようだ。

 しかし、ミドリちゃんの記事にも書いてあるように、化学物質過敏症の患者さんの体験を注意深く聞いてみると、医学的なメカニズムはよくわかっていなくても、おおまかな要因のつながりは見当がつく。化学物質過敏症は体内に有害化学物質などが蓄積することによって発症し、自律神経系と免疫系とホルモン系の疾患がつながりあった形でさまざまな症状が起きている。化学物質過敏症の患者さんは、微量の特定の(あるいはさまざまな)化学物質に対して強い症状が出るようになるため、特異体質の人とみなされがちだ。しかし、実はアレルギーやアトピーの多発の背景にも、有害化学物質の体内蓄積が潜んでいる可能性が強いことが、化学物質過敏症の患者さんの体験を踏まえると推測される。つまり、免疫系の疾患であるアレルギーの場合も、背景に有害化学物質の体内蓄積があるために症状が出やすくなったり悪化したりするケースが多いのではないかと思われる。(Mさんの場合も、先にアトピーの症状があり、新築の家に移ってから化学物質過敏症が発症しているようだ。)そうだとすると、アレルギーやアトピーの人は身近にたくさんいる訳だがら、化学物質過敏症は特異体質の人の問題で、私にはあまり関係がないなどと言っていられなくなる筈だ。

 化学物質過敏症の患者さんたちは微量な有害化学物質に反応するため、患者さんたちはあぶない物質だらけの住宅の現状を鋭敏に感知する。こうした感覚から、現在の住宅のどこに問題があるのかを突き詰めていけば、これまでの住宅が抱える根本的な問題が明かになってくるのではないだろうか。

▼土台や床下の防蟻・防腐剤の危険性

 まず、化学物質過敏症の患者さんにとってつらい症状のもとになっていることが多いと言われる、木造住宅の床下の有害物質の問題から考えてみよう。

 床下の土壌にシロアリ駆除剤を撒いたり、土台や床下に防腐剤や防蟻剤を滲み込ませた材木を使っているために、こうした有害物質が室内に入ってきて、化学物質過敏症の発症や症状の悪化の原因になっている場合が多い。どうして、床下にこうした薬品をたくさん使うことになってしまったのだろうか。
 この背景のひとつには、最近の木造住宅の構法は、床下の風通しが悪くなっていて、材木が腐ったり、シロアリに侵されたりしやすくなっているという問題がある。木造住宅の伝統的構法では、縁の下を風が通り抜ける構造になっていたため、こうした問題は起きにくかった。ところが、戦後、一般的になった在来軸組構法の場合、構造を安定させるために、コンクリートで基礎をつくるようになっていて、ひとつづきになったコンクリートの布基礎(ぬのきそ)の一部分を切って床下の換気口をつける形になっている。この換気口では通風が十分にできないために、床下に湿気がこもりやすくなってしまう。
 耐震性も重要だが、耐震性を強化しようとして生じた床下の風通しの悪さから起きる問題に、化学薬品をたくさん使うという安易な対処をしてきたところにまず大きな誤りがあった。

 もうひとつの背景は、輸入材をたくさん使うようになったために、薬品で防腐・防蟻処理した材木を使うことが一般的になっていったという面がある。大工菅谷のホームページの「有害化学物質」に書いてあるように、土台はヒバの赤身を使えば、防腐・防蟻処理しなくても、シロアリの心配はないようだ。土台には適さない輸入材のベイツガなどを使うために、薬品を滲み込ませる方法をとらざるを得なくなったというわけだ。
 菅谷さんによると、柱に使う杉材も、虫がついたりカビが生えたりするのは、木の養分が残っているからで、養分が少ない時期に伐採し製材後に雨にあてて養分を流した材木を使えば、防虫、防腐、防カビ剤を使う必要はないのだという。薬品に頼らなくてすむようにするには、職人さんたちがもともと継承していた知恵を取り戻すことが不可欠といえる。

▼対症療法のツキハギで悪化した室内汚染

 つぎに、住宅の内装にも、化学物質過敏症を発症させたり、悪化させたりする化学物質があちこちに使われている。合板や集成材の接着剤、壁に貼ったビニール・クロスに含まれる可塑剤、床のフローリングの防腐剤、接着剤など、内装もあぶない物質に充ちている。

 こういうあり様になった背景には、戦後の復興から高度成長期にかけて、都市での住宅需要が大きく、なかなか住宅の供給が追いつかないために、手間暇のかかる仕事、熟練を必要とする仕事はなるべく省くという趨勢が強かったという事情がある。  例えば、木造住宅の伝統的な構法では、土壁と漆喰などを使った真壁(しんかべ)造が中心だった。しかし、こうした仕事には土壁が乾くのを待つのに時間がかかり、熟練した左官屋さんの技術を必要とするため、戦後は少なくなり、代わりに工期が短く、熟練をあまり必要としない大壁(おおかべ)造が主流になる。大壁造の場合、内壁、外壁に面材を使い、合板の面材を使うことも多くなった。合板にビニール・クロスを貼るといった接着剤を多用する熟練を要しない工法が多くなり、その結果、有害化学物質がたくさん使われることになったのだ。
 さらに、オイル・ショック後、大壁造の住宅の壁に断熱材を入れることが推進されたために、室内環境汚染はより深刻になった。伝統的な土壁は後でとりあげるようにすぐれた湿度調整の機能をもっていた。それに較べると、大壁造の住宅の外壁はモルタルで内壁の合板にビニール・クロスを貼るという工法の場合、湿度調整の面で問題があるが、壁の中が空洞だったので空気が動き湿気がこもりにくかった。しかし、暖房効率を高めるために壁の中にグラスウールなどの断熱材を入れるようになったため、壁面や壁の内部で結露が起きて、カビが生えたり、腐ったりしやすい壁になってしまった(「内断熱より外断熱」)。

 また、コンクリート造の住宅の場合には、木造に較べて壁面に結露が起きやすい。木の表面の温度は周囲の気温の変化にすぐになじむ性質をもつのに対して、コンクリートの表面は気温が変化してもそれに対応するのが遅い。そのため日中、気温が上がっても、コンクリートの表面の温度は低いので、梅雨期などの湿った空気が入ってくると、表面がベトベトになってしまう。コンクリートは結露しやすいとともに、木と違って吸湿性が低いからだ(「健康創造住宅の新時代」)。コンクリート造の住宅では結露しやすい壁面に、吸湿性の低いビニール・クロスなどを貼っている場合が多いので、カビが生えやすいのも当然だ。

 そして、アレルギーやアトピーの原因として、ダニやカビの問題に関心が集まるようになると、業界では、カビへの対策として、合板やビニール・クロスなどに防カビ剤を滲み込ませるという方法が普及するようになった。また、ダニへの対策として、室内で殺虫剤も頻繁に使われた。
 ミドリちゃんも書いているように、じつは有害化学物質はダニ、カビなどのアレルゲン(アレルギーを起こす要因)と掛け合わせられてアレルギーをひどくする効果をもつことがわかってきているので、これはまったく間違った「対症療法」であることになる。

 このように、アレルギー対策のつもりが、ますます化学物質過敏症などが発症しやすい室内環境がつくられてしまったというのが、これまでの住宅づくりの実態といえる。こういう具合に、グランド・デザインを欠いたまま対症療法を重ねた結果、ますます事態は悪化してしまったのだ。

▼これからの住宅の考え方の基本

 化学物質過敏症の患者さんの視点から問題を突き詰めていくと、このように住宅の現状の根本的な問題点が鮮明にうかび上がってくる。根本にある問題をよく考えないで、その場しのぎの対症療法的な対策を重ねてきたことが事態をますます悪化させてしまったことは明らかだ。

 夏に乾燥するヨーロッパと対照的に、夏には高温多湿になる日本列島では、住宅を設計する際に最優先に考慮されなければならない条件は、夏の湿度調整だ。湿度調整がうまくできる仕組みをつくっておかないと、不快であるだけでなく、室内の物がカビだらけになってしまい、健康をそこなう恐れがあるし、住宅そのものが腐りやすくなってしまう。そのため日本の伝統的な住宅は、湿度調整をうまくできるたくみな仕組みを備えている。長年の間に、風土に合った住宅の工夫がなされ、伝えられてきたのだ。
 ところが、戦後の復興と高度成長の過程で、住宅の不足に対応することに追われ、こうした風土に合った住宅の工夫を学び、引き継ぐことがおろそかにされてしまった。
 最優先に考慮しなければならない条件をおろそかにしたまま、エネルギー効率やカビやダニの増殖といった問題に対症療法的な対策のツギハギを行った結果、ますます事態が悪化の一途をたどった。在来構法の床下のシロアリ駆除剤や防腐・防蟻処理をした木材の使用も、内装の合板やビニール・クロスや畳に防虫、防カビの薬品を滲みこませるようになったのも、湿度調整がうまくできないことから起きる問題に化学薬品を使う方法で対処している点が共通している。根本にある湿度調整の問題にきちんと考えなかったために、室内環境の深刻な汚染が起きているという面が強い。

 こうなると、場当たり的なツギハギの方策を重ねていても駄目なことは明らかで、日本列島の住宅のつくり方を考える時に、基本にしなければならない条件はどんな点で、それらを充たすための適した素材と構法とはどんなものかといったグランド・デザインを組立てなおさないといけない。その際に、化学物質過敏症やアレルギー、アトピーの患者さんの視点を出発点にすることが、問題を根本的に捉えるのに有効だと考えられる。

 そして、ここまで辿ってきたことから明かなように、湿度調整がうまくできていなために起きるカビやダニ、シロアリの繁殖などの問題に薬品の多用によって対処した結果、化学物質過敏症やアレルギー、アトピーといった疾患が深刻化した訳だから、今後の住宅のグランド・デザインにおいては、湿度調整を最優先の条件として考慮しなくてはいけない。
 湿度調整機能を重視すると、木造住宅が優れているが、用途に適さない輸入材を使うために材木に防腐剤・防虫剤などを滲みこませたものを使うことが多くなっている経緯からすると、防腐剤・防虫剤を含まない材木を避けると用途にあった国産材の使用が基本になるだろう。

 また、持続可能な社会への転換という観点から言っても、増改築をしながら長く住める構法を工夫する必要がある。壁の内部の結露によって長くもたない住宅が多くなっている点からすると、湿度調整機能を優先的に考えることは耐用年数を長くするためにも不可欠だ。
 さらに、住まいのエネルギー消費量を抑え、冷暖房のために化石燃料をなるべく使わずに快適に過ごせる住環境にすることが望ましい。そのためには、自然エネルギーの利用やパッシブ・ソラーの活用などの工夫が必要になる。
 また、家を壊した際の廃材を再利用しやすく、廃材の処理、処分の際に、環境破壊を起こさない素材を使用しなくてはならない。可塑剤や防カビ剤などを使ったビニール・クロスや合板などは廃棄物となって処理する段階でも有害物質を発生する心配があり、この点でも問題が大きい。

 ※この項では、田久保美恵子、自然住宅・住まい方推進ネットワーク共著
  「街全体が森になるといいな---自然住宅からはじめる至福生活」(北斗出版)
  を参考にさせていただいた。


▼伝統的木造住宅と土壁

 こうした住宅のグランド・デザインを組立てなおす際に、湿度調整を巧みに行い、日本列島の風土に合った伝統的な木造住宅から、多くのことを学び直すことが不可欠だ。
 なかでも、土壁は伝統的な木造住宅の基本的な構成要素であるにもかかわらず、都会では縁遠い存在になってしまっているので、その優れた機能について具体的に考えてみることにしよう。

 前にも書いたように、在来軸組構法という現在一般的になっている木造の構法では、洋間中心のものが多いこともあり、壁は大壁造が多くなっている。大壁造では、合板や石膏ボードの面材を外壁と内壁の両側に使い、柱が外からは見えなくなる。それに対して伝統的な木造住宅の基本構造は、柱と真壁からなっていて、柱が外に出ている。伝統的な真壁造の中で代表的なものが、土や漆喰を使う湿式の工法だ。この真壁造がもともと左官屋さんの主な活躍の場だった。

『湿気対策の竹木舞』
「夢工場」より)
 東京などでは、木造の建築現場で湿式の真壁造の様子を見ることはめったになくなってしまったが、地方によっては、新築の住宅に土と漆喰の壁が、かなり使われているところもある。
 山口晋作さんの「東三河地域における土壁構法の研究」によると、東海3県は土壁がよく使われている地方で、住宅金融公庫のデータでは、新築住宅の14%に土壁が使われている。
 山口さんは土壁について「割竹や小枝を格子状に編んだ下地に粘土質の土を数層に塗りつけたもの」という言い方をしている。この土を塗った壁の上に、仕上げとして漆喰を塗ることもある。伝統的な湿式の真壁の機能を考えるには、中に土が使われているという点がきわめて重要だ。
 土を塗る下地になるのは、割竹を格子状に組んで縄を絡めた竹木舞(たけこまい)と言われるものだ。(竹木舞の写真は、「夢工場」の中にある。)この竹木舞の両面に土を塗りつける第一段階は粗塗りと呼ばれる。粗塗りのために、土とスサ(藁を切ったもの)に水を加えて練ったものをねかしておき、粗塗りの土が乾いてから、中塗りをする。中塗りには、土とスサと水だけでなく砂を加えて練ったものを使う。
 中塗りの後で、さらに、漆喰を塗ったり、砂壁で仕上げをする。砂壁は、にかわや餅米を接着剤にする。

▼日本の風土に合った土壁

 山口さんのサイトには、こうした土壁が江戸時代の前期から、日本の壁構法の主流になったと書いてある。そして、「左官壁」の記述からわかるように、漆喰壁は世界各地にみられるが、下地に土が使われる土壁は日本独特のやり方で、それは土壁が日本の風土にまさに合った機能をもつためではないかと思われる。

 では、どういう点で、土壁は日本の風土に合っているのだろうか。日本列島の風土では、高温多湿な夏の湿度調整を住宅をつくる際の最優先課題としなければならない地方が多いので、まず、土壁の湿度調整の機能が重要だ。
 土壁はまわりの湿度が高い時には水分を吸い、乾燥している時には水分を吐き出すといった機能を果たし、湿度の変動を小さくする効果をもっている。雨がしばらく降らなくても、植物が土壌から水分を吸い上げる様子からも土の保水力を感じとることができる。
 大壁造の場合には、壁の内部で結露して腐りやすくなったり、ビニール・クロスの裏にカビがはえたりといった問題がしばしば起きているが、壁そのものがこうした湿度調整作用をもつ土壁の場合には、そんな問題は起こらない。また、アレルギーの一因となる室内のダニの増殖を抑えるためにも、夏には湿度をなるべく下げることが重要なので、その点からも土壁は効果的と言える。
 土壁をうまく使った家は、夏の暑い日に、室内の湿度を下げて体感気温を下げるだけでなく、じっさいに気温を下げる効果ももつようだ。この効果は、素焼きの水瓶を考えると理解しやすい。亜熱帯や熱帯には、伝統的に素焼きの水瓶を使っているところがよくある。素焼きだと水が少しずつ滲みだしてくるので、水瓶としては適さないように見える。しかしそれは大きな誤解で、日の当たる所に置くと、水が滲みだすことによって、中の水が冷える効果が生まれる。滲みだしてきた水が熱で蒸発し、気化熱が奪われ瓶が冷却されるというわけだ。
『天然素材:漆喰の白壁』
「夢工場」より)
 夏に多湿な日が多い日本列島では、土壁の中の土は湿っていることが多く、日が当たって壁の温度が上がると、素焼の水瓶と同じように水分の蒸発による冷却効果が期待できる。こうした素焼きの水瓶モデルが土壁にあてはまるとすると、土壁はパッシブ冷房の効果をもっていることになるのではないか。
 実際、土壁をふんだんに使った建物である土蔵は、夏の暑い日に中に入るとひんやりする。あれは土壁の湿度調整効果と素焼の水瓶効果とによるものなのだろう。また、大事な物を保管しておける蔵として、土壁の土蔵が普及したのは、カビがはえたりしにくい湿度調整の機能と耐火性をあわせもつからだと思われる。
 また、土壁の素材は、壊した後も再び土壁の素材として再利用することができるので、資源の循環利用という面でも優れている。

▼調湿作用をもつさまざまな天然素材の活用

 ここまで、土壁に注目して伝統的な木造住宅の湿度調整機能を考えてみたが、言うまでもなく、木そのものが調湿作用をもつ。さらに、菅谷さんの「カビ、ダニ、結露」にも書いてあるように、伝統的な木造住宅の中には、障子や唐紙など和紙の間仕切りがたくさん使われていて、これらも湿度調整機能をもっていた。今後の住環境でも、WebMag40号特集「和紙の魅力を現代に生かす 」でとりあげたように、新たな形で和紙を室内に活用する工夫が必要になる。
 また、床下の湿気やシロアリの問題に有害な化学物質を使わずに対処するための有力な方法のひとつに、床下に調湿材として炭を敷くというやり方がある(「紀州備長炭・住宅床下用」)。この方法は、室内の湿度調整の効果もあり、うまく使えば夏も冷房をあまり使わずに過ごせるかもしれない。

 以上で、試みたように、化学物質過敏症の患者さんたちの視点を踏まえて、現代の生活を見直していくと、持続可能な社会への転換のための課題が鮮明になってくると言えるのではないだろうか。

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文中で紹介したホームページ

  • WebMag41号特集:シックハウスと化学物質過敏症

  • 社団法人日本左官業組合連合会
    (http://www.chuokai.or.jp/kumiai/sakan/)

  • 大工菅谷のホームページ
    (http://www.ysn.ne.jp/daiku-sugaya/)

  • PAC住宅(パッシブエアサイクル住宅)・エアサイクル産業
    (http://www.passive.co.jp/)

  • 誰も教えてくれない建築屋のホンネ
    (http://www.cityfujisawa.ne.jp/~kojimacc/)

  • 山口晋作による土壁の研究
    (http://gamac.tutrp.tut.ac.jp/~s_yamaguchi)

  • 夢工場
    (http://www.kanazawa-net.ne.jp/~yume/top.html)
    • 湿気対策
      (http://www.kanazawa-net.ne.jp/~yume/sekou.html)
    • 施工例
      (http://www.kanazawa-net.ne.jp/~yume/rei.html)
    • 天然素材
      (http://www.kanazawa-net.ne.jp/~yume/sozai.html)


  • 左官壁
    (http://www.jade.dti.ne.jp/~takumi/)

  • 愛と叡智の紀州備長炭研究会
    (http://www.binchoutan.com/)


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