[Web Travelers]
[写真] 岩嵜博論
 ある日、東京タワーを眺めていた時ふと思ったのですが、東京タワーって「東」って字に見えますね。特にタワーの中腹にある展望台の外観と、「東」という字の真ん中の田の字が、見れば見るほどそっくりです。普段なにげなく眺めている風景が、突如まったく違った風に見える。これも都市の楽しさの一つなのかも知れません。


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集合住宅を考える

Webmagをご覧になっているみなさん、はじめまして。今回からWeb Travelersに仲間入りさせていただく岩嵜と申します。ぼくは現在大学院で建築・都市計画の勉強をしています。建築・都市計画を専攻している学生として、「住宅」は、関心があるテーマの一つです。ぼく自身、大学に入った時からずっと一人暮しを続けているのですが、その間、理想的な住環境を求めて何度か引越しをしてきました。しかし、なかなかベストといえる快適さを手に入れることはできません。

 みなさんはどのような「住宅」にお住まいですか。持ち家ですか、借家ですか。戸建住宅ですか、集合住宅ですか。きっとぼくのように集合住宅に住んでいらっしゃる方も多いのではないかと思います。今回は、大学での出来事をきっかけに知った2つの異なったタイプの集合住宅を紹介しながら、集合住宅のありかたについてちょっと考えてみたいと思います。

合住宅というと、いわゆるアパートやマンションといったようなものを想像されると思います。一口に集合住宅と言っても、その形態は多種多様です。しかし、現状では、それらの中でコストパフォーマンスが高いマンションやアパートと呼ばれるものがほとんどです。そもそも住宅は、大根や洗剤と同じように安けりゃいいのでしょうか。ちょっとくらい高くても、ちょっとくらい手間がかかろうとも手に入れたくなるような価値がある。住環境とは本来そのようなものではないでしょうか。ここで紹介する集合住宅は、コスト的な価値でははかることのできない魅力を持ったものなのです。

 1つ目は、岐阜県にあるハイタウン北方という県営住宅です。大学の設計演習で集合住宅の課題が出たので、ぼくは友人たちと、最近話題になっているこのハイタウン北方を見に行くことにしたのです。

イタウン北方は、建築家の磯崎新さんがコーディネーターとなって、妹島和世さん、クリティン・ホーリィさん、高橋晶子さん、エリザベス・ディーラーさんの4人の女性建築家に、それぞれ1棟ずつ、合計4棟の集合住宅の設計を依頼されたものです。磯崎さんは、全体のコーディネートを行うにあたり、既存の集合住宅の枠組から外れたものをつくるよう、それぞれの設計者に依頼したということです。

 ぼくたちは、運良く高橋棟の内部を見ることができました。高橋棟の住戸は、ダイニングキッチンと洋室、和室で構成されています。特徴的なのは、和室です。住戸タイプによっても様々ですが、比較的広めの和室が伝統的な日本家屋のように、田の字型に配置されていて、それぞれの部屋は、可動式の家具と、襖のような可動式の壁によって仕切られています。この住戸プランも、強固な壁でそれぞれの個室が仕切られた集合住宅を見なれているわれわれにとって、新鮮なものに思えました。

 高橋棟の可変動の間仕切りがついた和室は、一見年配の方にとって馴染みやすいもののように思えます。しかし、和室を取り囲む、住戸内部の空間は伝統的な住居とはかけ離れたものになっています。住戸の南側には非常に大きな窓が設けられている上、北側の通路側の壁面もすりガラスのような素材で構成されていて、住戸全体が過剰なほどの明るい光に包まれます。伝統的な住宅や、集合住宅でも比較的古いものに慣れている方々は、この開放感と明るさにびっくりしてしまうのではないかと思いました。

て、岐阜を訪れたのと同じ頃、大学で延藤安弘先生によるコーポラティブハウジングに関する講演を聞きました。コーポラティブハウジングとは、住民が主体となって集合住宅をつくるという、住民参加の住宅づくりの手法です。

 コープ住宅推進協議会のホームページによると、コーポラティブハウジングの建設省による定義は、「自ら居住するための住宅を建設しようとするものが組合を結成し、共同して事業計画を定め、土地の取得、建物の設計、工事発注、その他の業務を行ない、住宅を取得し、管理してゆく方式」となっています。つまり、コーポラティブハウジングは、コーディネーターや、住民が中心となって、自らが住む集合住宅をどのようなものにするか、話し合いによって決め、実現していくというものなのです。

 コーポラティブハウジングは、住戸の間取りやデザインに住民の意見が反映されることや、豊かな共有空間が確保できること、住宅づくりの過程で住宅をつくるという目標を共有したコミュニティの一員となることなどのメリットによって注目されています。講演の中でも、住民が主体となって、生き生きと住宅づくりに参加している様子が紹介されました。住民から不満や苦情が出ることがあっても、それらのやり場がなくなることはなく、住民同士の話し合いによって解決されるそうです。

のように、最近ぼくは、対照的な2つの集合住宅を知る機会に恵まれました。岐阜のハイタウン北方は、建築家によって、集合住宅の現状の問題が読み解かれ、既成の集合住宅に代わる新しい集合住宅の形が提案されたものです。そのため、既成の集合住宅の形に慣れ親しんだ住民は、建築家による先鋭的な提案に順応するために、意識の改変とそのための時間が必要になるかもしれません。

 一方、コーポラティブハウジングは、住民の思い通りの住宅の形が実現するわけですから、集合住宅完成とともに、住民はそれぞれの条件に応じた理想的な住環境を手に入れることができます。しかし、その反面、住宅の企画から話し合いを経て実現するまで、長い年月と手間が必要となります。

 この2つの形態の集合住宅は、それぞれ一長一短があり、どちらが優れているというものではありません。共通していえるのは、街中にありふれた、ハウスメーカーによるプレハブのアパートや、不動産デベロッパーによる分譲マンションなどの一般的な集合住宅には見られない魅力があるということです。これらは、手間やコストのことを考えると、既存のマンションやアパートに勝ることはありません。しかし、効率性やコストを犠牲にするかわりに手に入れることのできる価値があるのではないでしょうか。

もそも住宅の快適さというのは、何かを犠牲にしなければ得られないものかもしれません。多様な要求を最大公約数的に要約したマンションやアパートは、「不可」もなければ、強烈な「可」もありません。ここで紹介した2つの事例は、既存のありふれた集合住宅に代わるオルタナティブなのかもしれません。みなさんもそろそろ脱アパート、マンションして、多少の不便はあっても刺激的な集合住宅生活に挑戦されてはいかがでしょうか。


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