[Web Travelers]
[写真] 岩嵜博論
 今回の題材の一つ、折りたたみ自転車を真剣に買おうかどうか迷っています。町田から都心に行くのに、登戸で降りて多摩川沿いをサイクリングして、二子玉川園あたりから田園都市線に乗って渋谷へ行くというのがささやかな野望なのです。


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自転車で街を回遊する(2)

 と空を見上げると、厚みのある白い雲。8月も最後になると、夏の様相がラストスパートをかけて、そこら中を駆け回っています。そんな夏の元気よさを感じながら、外に出かけると、目をしばたたきながら、灼熱の歩道をよぼよぼと歩いている人間の姿を目にすることができます。季節の厳しさ・元気のよさを前にして、今にも降参しそうになるのも無理もないかもしれません。

 んな中、季節の元気さに負けないくらいのスピードで、街を駆け巡る人々がいます。自転車に乗って、オフィスからオフィスへと書類を届けるメッセンジャーです。バイクや自動車があふれかえる都市の喧騒のなかで、自らの肉体を駆使して、風のように駆け回る彼らの姿は、人間本来の強さの証であるとともに、自転車というテクノロジーと肉体という野生の等距離の関係が生み出す相乗効果の事例でもあるような気がします。オートバイに乗ってしまえば楽ちんに荷物が運べるというのに、あえて自転車を選択すということからは、前回紹介した自転車と街づくりのこととも通じる、ある種の「潔さ」を感じ取ることができます。

 て、今回も前回に引き続いて、自転車と都市の関係を考えてみたいと思います。前回は、街づくりや環境整備と自転車利用の関係について紹介しました。今回は、自転車の使い方の新しい可能性を模索したいと思います。

 れわれが日常的に体験している、移動と移動手段の関係についてちょっと考えてみましょう。朝起きてから、会社や学校まで行くまでのことを思い出してみてください。ほとんどの方は、移動距離が短い交通手段から、徐々に長いものに乗り換えて、最後はまた短いものになるという経路を辿っているのではないかと思います。例えば、ぼくは大学に行くときは、徒歩で最寄りの駅まで行って、電車とバスを乗り継いで、最後はまた大学の近くのバス停から歩いて到着します。

 まり、ぼくが使っている交通手段ごとの移動距離に注目すると、徒歩 < 電車 > バス > 徒歩という関係が成り立っているのです。間違っても、バス > 徒歩 < 電車のようにはなりません。ところが、もしも自転車を持って電車やバスに乗れるとしたらどうでしょうか。朝起きて、学校や会社に向かうのに、道が空いている自宅周辺の住宅地では自転車ごとバスに乗ります。市街地に近づいて渋滞でバスが進まなくなったら、さっさとバスを降りて自転車に乗り駅まで行きます。駅に着いたら今度は自転車ごと電車に乗って、電車を降りたら自転車に乗って会社や学校まで行きます。交通手段ごとの移動距離の関係は、徒歩 < バス > 自転車 < 電車 > 自転車というふうになります。

 外では、自転車を持ったまま公共のバスや電車に乗ることが、既に可能になっているところがあります。熊野和夫さんの旅行記にはハワイの自転車を載せられるバスのことが紹介されています。また、荻原剛さんの旅行記には、アメリカ西海岸の自転車ごと乗れる路面電車が紹介されています。さらに、北沢邦子さんの視察記を読むと、ノルウェーでも同様の電車が走っていることがわかります。ぼく自身も、熊野さんが紹介されているバスと同様のものをカリフォルニアで見たことがありますし、ドイツでは自転車ごと乗れる電車を目の当たりにしていたく感激した覚えがあります。確かに、朝の通勤ラッシュの時に、自転車ごとバスや電車に乗り降りするのは難しいかもしれません。しかし、移動距離の法則を無視して自由に移動することによって、移動することが家から目的地に向かうという手段としてだけではなく、それ自体を楽しめるような目的になるという選択肢があってもいいのではないでしょうか。

 は、現状でも自転車を持って電車やバスに乗ることができます。ただしこの場合、自転車を一度バラして袋詰めにしなければなりません。さすがにママチャリでは無理ですが、ちょっと上等なロードレーサーやMTBは、あらかじめ解体することを前提にして設計されているのでバラすのは比較的簡単です。また、バラした自転車を納めるためのバッグも専用のものが発売されています。

 のように、自転車をいったんバラしてバッグに入れ、目的地に着いたらもう一度組み立てることを「輪行」といいます。立命館大学サイクリング同好会のホームページ輪行マニュアルがあります。これを見ていただければわかると思いますが、やはり慣れないと時間もかかるし、工具が必要だったり、手が汚れたりして、なかなか大変です。朝会社に行くのにちょっと輪行しようかという代物ではないことがわかります。

 かし、最近、自転車輪行の世界に新しい動向が起こっています。主要な自転車メーカー各社が折り畳み自転車の開発に熱を入れ始めたのです。その中でも、革命的なのが、JR東日本ナショナル自転車工業が共同開発した「トレンクル」です。これは、トレンクルという名前が示しているように、自転車を電車に乗せて利用することを前提に開発された自転車です。そのため、最軽量のトレンクル6500で、重量が6.5キロという驚異的な軽さで、しかも折りたたんだときに400円サイズのコインロッカーに収まるように設計されているのです。東京調布市のペガサスサイクリングクラブのホームページでは、このトレンクルの様々な利用方法を提案しています。(トレンクルとドラクルで簡単サイクリング

 レンクルのような超軽量、コンパクトな折りたたみ自転車が現れたことによって、「輪行」の概念が大きく変わるのではないかと想像できます。つまり、携行可能な移動手段、「モバイルモービル」といったものが誕生しようとしているのではないでしょうか。移動手段をモバイルすることによって、短い距離を移動する交通手段から徐々に長距離移動可能なものに乗り継いでいくという、効率的ではあるけれど、目的達成のための手段でしかない移動から、状況に応じて移動距離を調整したり、移動手段を変えたりできる自由度の高い移動へと移動することのバリエーションが広がっていくのです。

 えば、電車で移動中に、途中下車して徒歩で別の駅に向かってそれからまた電車に乗るには随分と勇気がいるし、よほど余裕がないとできないように思えます。しかし、電車を下りて自転車に乗ることができれば、地下鉄の乗り換えの代わりに、地上に出て本来ならば乗り換えできないような駅まで自転車に乗るとか、会社に自転車をモバイルして、お昼休みには自転車でちょっと遠出して食事を取るとかいうふうに利用できるかもしれません。時間や距離に対するコストパフォーマンスでは測れない移動形態がもっと日常的にあってもいいと思うのです。


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