[Web Travelers]
[写真] 岩嵜博論
 前回書いた「スティル・ライフ」な生活を実践に移そうと、まずベッドを手放すことにしました。捨ててしまうのもと思ったので、前回の原稿に書いた通り、Yahoo!のオークションを使って買い手を探しています。現在入札受付中ですが、この号が更新される頃には落札されていることでしょう。


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規定される「マナー」

 本の公共の場では、大音量のアナウンスが鳴り響いていて我慢がならぬと、各地でアナウンスをする側との「闘い」を繰り広げている中島義道さんという哲学者がいます。確かに駅のプラットフォームにいても、欧米では時にはベルすら鳴らず、電車が勝手にやってきて、勝手にドアが閉まり、勝手に出発していきます。一方、日本では、まず電車がやって来たことを知らせるベルが鳴り、そのうち危ないから電車に近づくなというアナウンスが流れ、駅の名前を連呼した後、また発車のベルとともに電車が去っていくという具合で、確かにやかましいです。最近では電車の発車時のベルがアラーム的なものの替わりに、メロディアスな音楽的なものになっているところもあります。

 て、危ないから電車に近づくなといったようなアナウンスは、よく取れば鉄道会社が親切心をきかせて行っていると考えることもできます。しかし、最近ではこうした類のアナウンスに加え、マナーについてのアナウンスも増えてきたのです。例えば、電車に乗ると、席は譲り合ってとか、7人がけなので詰め合わせて座れとか、バックパックは背中に背負っていると邪魔だから手に持つか網棚を利用しろとかいった内容のアナウンスをしばしば聞くことができます。さらに、ついこの間などは混雑する電車の中で座り込んでしまう若者を見かねてか、電車の中で座り込むなというアナウンスを聞いて、ついにここまできたかと妙に感心してしまいました。

 もそもマナーって何でしょうか。電車の中でのマナーは車内アナウンスによって規定されるものなのでしょうか。こうも電車の中でマナー放送が繰り返されると一瞬そうなのかと思い込んでしまいます。しかし、そんな思い込みに疑問を投げかける経験をしたことがありました。それは携帯電話に関する車内アナウンスのことです。ぼくが今住んでいる東京の鉄道では、「車内での携帯電話のご使用は、他のお客様の迷惑になるので、ご遠慮ください」といったような内容のアナウンスが流れます。ところが、関西に行ったとき聞いた車内アナウンスでは、「使用をご遠慮ください」ではなく、「控えめにご利用下さい」といった表現に変わっていることに気がついたのです。

 のことに関しては、JIJI News Watchというサイトの「疑問 / 真相おっかけ隊」というコーナーに、JR各社への取材を含めた 詳細な記事が掲載されています。それによると、在来線での携帯電話の使用に関するアナウンスは、東西のJRで若干違っていることがわかります。JR東日本では、「車内での携帯電話のご使用は、まわりのお客さまのご迷惑となりますのでご遠慮下さい。ご協力をお願い致します。」というものに対して、JR西日本では「周りのお客様のご迷惑とならないよう控え目にお願いいたします。」という内容になっていています。この記事によると、JR各社は「監督官庁の通達に則り行っている」とのことですが、この二つの表現から受ける印象は明らかに違ったものです。

 のJIJI News Watchの記事は、同じサイトの「インターネット世論調査」の第13回「Q.車内での携帯電話の使用は不快である」、第16回「Q.『携帯電話の使用はご遠慮下さい』という車内放送は不要である」の各回の質問に対する反響が大きかったことから企画されたもののようです。そもそも携帯電話を電車の車内で使わないのがマナーとされるのにはどのような理由があるのでしょうか。この第13回の調査によると、車内での携帯電話の使用が「不快」と答えた人は、その対象として「呼び出し音」「大声」の二つが多く挙げられていて、その理由としては、「睡眠の妨げ」「読書の邪魔」「無神経」といった回答がなされています。

 た、第一種電気通信事業者の業界団体である社団法人電気通信事業者協会のサイトで公開されている、「携帯電話・PHS利用マナーに関する意識調査」によると、公共の場における携帯電話・PHSの使用に関して迷惑だと思った経験がある人が74.8%いることがわかります。さらにその迷惑経験の内容では、「話し声が気になる、大きい」と答えた人が84.3%、「呼び出し音が気になる、大きい」と答えた人が70.3%います。この二つの調査の結果を見ると、携帯電話を使うときの話し声や呼び出し音の音など、大きな音を迷惑だと感じている人が多いことがわかります。それでは話し声を出さないモバイル端末での利用は問題なく、会話に利用する場合も呼び出し音が鳴らないようにバイブレーター機能を使って、話すときも小声で話せばいいのでしょうか。

 共の場での携帯電話の利用のことを考える上で避けて通れないのが、携帯電話の電波が心臓ペースメーカの誤作動を招くという問題です。いくら小声で話しても、バイブレータで着信音を消しても、携帯電話が電波を発信しているということには変りはありません。「ペースメーカ問題」は音の問題とは無関係なのです。郵政省のページにある「医療電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」によると、「植込み型心臓ペースメーカ装着時の注意事項」として、心臓ペースメーカが携帯電話などの電波によって影響を受ける可能性があると述べています。携帯電話端末に関しては、「携帯電話端末の使用及び携行に当たっては、携帯電話端末を植込み型心臓ペースメーカ装着部位から22cm程度以上離すこと。また、混雑した場所では付近で携帯電話端末が使用されている可能性があるため、十分に注意を払うこと。」とあります。

 「ペースメーカ問題」に関しては、前述のJIJI News Watchの「疑問/真相おっかけ隊」でも『本当?考えすぎ?携帯電話が医療機器に及ぼす影響を追っかける!』として取り上げられています。それによると、国立療養研究所東京病院の医師、林孝二さんの、携帯電話がペースメーカに影響を及ぼしたという実例は報告はされていないが、実験的には影響があることがわかっているというインタビューが掲載されています。さらに、関連団体であるペースメーカー協議会の方へのインタビューとして、ペースメーカ自体はすでに電磁波に対応した設計がなされており、万一影響を受けた場合でも、回避して正常な動作状態を保つという話が載っています。前述の郵政省の指針にもあった22cmという距離の根拠に関しても、実験の結果電波の最大干渉距離は、携帯電話で14cm以下、PHSに至っては7cm以下であることがわかり、現実的に影響を与えるものではないことがわかったが、大事をとって22cmという数字を提示していることがわかります。このページではペースメーカ協会で作成された「ペースメーカーと日常生活」というポスターを見ることもできます。

 て、ここで紹介したサイトを見ていくと、携帯電話を公共の場で使うのがなぜ迷惑なのかが次第に明かになってきました。ここでもう一度マナーについて考えてみたいと思います。マナーとは果たして、電車の車内アナウンスのように一元的に告知され、規定されるものなのでしょうか。JR東日本の電車に乗るときは携帯電話は使えなくて、JR西日本の電車に乗るときは控えめに利用すればいいのでしょうか。そんなはずはないでしょう。マナーとは本来このように規定されるものではなく、個人の判断の上に成り立つ行動の基準であり、携帯電話を電車の中で使うかどうかということは、それを使うことによって、あるいはどう使うかによって、周囲の人々がどう思うかということを想像した上で自分で判断することなのではないでしょうか。

 こで重要になるのは、その判断材料となる情報が公開されるということです。一元的に携帯電話禁止と伝えることよりも、なぜ携帯電話は使わないほうがいいのか、その「なぜ」を知ることができる情報源を確保することの方が大切なのです。しばらく前に日本たばこの「ディライト」というシリーズの広告がありました。その一つに煙草を吸おうした男性が、子供が遊んでいるのを見て持っていた煙草を箱の中に戻すというコマーシャルがありました。この男性はその場所が禁煙だということに気がついて煙草を吸うのを止めたのではなく、周囲の状況を判断して止めたのです。このような「マナー」が広告として告知されていることが今の状況をよく表しているのかもしれません。


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