[Web Travelers]
[写真] 金子伸二
 お盆の真っ最中の引っ越しも無事(というわけでもないですが、とにかく)終了。最寄りの駅も通勤ルートもがらりと変わって、慣れるまで当分の間はキョロキョロしながら歩く日々が続きそうです。今まで住んでいた所は、お店といえば大型チェーン店が主流だったのですが、今度の所は個人商店がしっかり残っていて、そこが気に入っています。一口に「東京」と言っても、街や暮らしの在り方は場所によって大きく違うのだと、あらためて実感しました。


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検索の閑人―『大言網』発刊―

 今、日本語がちょっとしたブームなのだそうです。「ブーム」といっても、私たちは普段から日本語を使っているわけですから、なにも今になって急によく日本語を使うようになったということではありません。ここで言う「日本語ブーム」というのは、主に本の世界での出来事です。
 野晋さんの著書『日本語練習帳』(岩波新書)が大ベストセラーになっています。すでに100万部を突破したというのですから、言語学の本としては破格のヒットと言えるでしょう。遅れ馳せながら私も近所の本屋さんで買いました。奥付を見ると、発行から約半年で第22刷となっており、盛んに増刷を重ねていることがわかります。この人気に触発されてか、本屋さんの店頭には他にも日本語関係の本がたくさん並べられていました。
 うした日本語ブームは、いったい何によるものなのでしょう。『日本語練習帳』を読んで、日本語というものに対する人々のとらえ方が変わりつつあることがブームの背景にあるのではないかと感じました。これまでにも『文章読本』などといった、言葉の能力を磨くための本は数多く出されてきましたが、その場合の言葉の能力とは、例えば難解な文章をスラスラと読みこなすことができるとか、文学的な表現の豊かな文章を書くことができるといったことを指していたように思います。一方『日本語練習帳』の主題は、大野さんが「まえがき」で述べているように、「日本語を澄明に、区別明瞭に書くにはどうすればいいか」ということに置かれています。共通の価値観を持った人々の間で同じ言葉の文化に属することを実感するための「作品としての日本語」ではなく、様々な背景を担った人々が互いの存在と意思を確認し合い、人間関係を構築していくための「道具としての日本語」が、今求められているのだと思いました。

 ンターネットの世界は、それ自体が言葉の巨大な集合体であり、例えば検索エンジンなどを使うことによって、言葉の意味や使われ方を調べることもできます。今回はそこをもう一歩踏み込んで、特に日本語の文章を読んだり書いたりする際に役立つサイトを探してみました。

 イトを探すにも手がかりがいります。今回もっとも参考にしたのは、東北大学文学部の後藤斉助教授による国内言語学関連研究機関WWWページリスト日本語編というリンク集です。ここでは日本語の研究や教育、利用に関連した数多くのサイトが、簡潔な紹介コメントとともに取り上げられています。私たちが普段何気なく使っている日本語について、これだけ多くの研究がなされているということに驚かされます。日本語のことを深く知りたいという人は、ここから出発して、興味をひかれたサイトをたどっていくといいですよ。

 際に日本語を使っていて困ることで最も多いのが、読めない漢字に出会った場合でしょう。ワープロで文字を打つにも、「読み」がわからないと入力がスムーズに進みません。そういう時の強い味方が、NAOCHANの提供する読めない漢字を調べたい!というサービスです。これは、読みや部首ではなく、複雑な漢字を複数の簡単な漢字に分解し、その部品を指定することによって元の漢字を検索するものです。例えば「金・豆」という部品を含む漢字を検索すると「鎧、鐙、鐡」が答として返されてくるといった具合です。同じような漢字の検索方法を採っているものは他の出版物やソフトにもありますが、Web上で手軽に試用できるというのが魅力です。

 の例に出てきた「鐡」は「鉄」という字の旧字ですが、このように同じ意味の漢字でありながら字体(文字の形)が異なる字を「異体字」と呼びます。最もよく目にするのが新字と旧字の違いですが、他にも略字や俗字といったものが異体字に含まれます。人名や社名などの固有名詞を入力していて旧字を使う必要があったり、旧字を新字に直す必要がある場合などに役に立つのが、国文学研究資料館異体字辞書です。調べたい漢字を入力して「送信」ボタンをクリックするだけで、該当する異体字があれば表示してくれます。前のサイトもそうですが、このように単純な機能に絞り込んで簡単な操作で使え、軽快に動いてくれるWeb上の辞書は、文章を書く立場からすればとても有り難い存在です。

 字はなんとかなったとしても、文章を書いている途中で適切な言葉が出てこなくて行き詰まってしまうことはよくあることです。また、検索エンジンを使ってサイトを調べるときにも、お目当てのページが出てくるようなぴったりのキーワードを思いつくのがなかなか難しいものです。そんな時におすすめなのが、兼松コンピューターシステムシソーラス辞書検索です。これも操作は簡単明瞭で、キーワードを入れて「辞書」ボタンを押せば、それに関連した意味を持つ言葉を表示してくれます。キーワードとの関係に応じて、同義語、広義語、狭義語、関連語がそれぞれ表示されるので、言葉の意味の広がりを直感的に感じ取ることができますし、新しいアイデアをあれこれ練るのにも使えそうです。

 葉の世界の広がりを実感する機会の一つは、各地の方言に触れた時です。方言についてはすでに宮内泰介さんが第17号の方言ワールドで書いていらっしゃいますが、私も一つサイトを見つけました。琉球大学附属図書館の研究活動琉球方言音声データベースです。ここでは現在、沖縄本島北部の今帰仁(なきじん)村の方言を、見出し語や対応する標準語、カテゴリーや品詞といった項目から調べることができるようになっています。個々の語義の説明から関連する言葉へとリンクするように巧みに作られていて、たどっていくと、今帰仁の人々の生活世界が眼前に立ち上がってくるように感じられます。

 本で最初の本格的な近代的国語辞典『言海』が大槻文彦の手によってつくられてから、およそ100年の歳月が経過しました。「言葉の海」に光を投じた大槻の精神の継承者たちは、今、インターネットという「網」の上で、言葉の世界の新たな探究に乗り出そうとしています。


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