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[写真] 栗田涼子
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「黒いダイヤモンド」の神秘

 ヶ月前、読者の方からこんなメッセージを頂いた。「キノコに興味がある者です。トリュフが日本の山でも採れると聞いたのですが・・・」初耳であった。トリュフはフランスの特産品だとばかり思っていたのだ。それ以来ずっとトリュフの事が気にかかり、いつか調べてみようと思っていた。ペリゴール地方に次ぐ、有数の産地として知られるプロヴァンスに住んでいながら、いまだトリュフを思う存分味わったことがない。それどころか、そもそもトリュフが何なのかでさえ、実はよく知らないのである。今や夏真っ盛り。キノコの旬にはちと早いが、夏休みの“自由研究”にはもってこいのテーマではないか。というわけで、今回はバーチャル・トリュフ狩りにいざ出陣!

 体誰が決めたのだろうか、世界の三大珍味といえば、フォアグラ・キャビア・トリュフということに相場が決まっている。旨いか否かはともかく、この3つに共通するのは、どれもべらぼうに高いということだ。プロヴァンス産のトリュフは、地元のマルシェ(朝市)でさえ、キロあたり数万円で取引されている。いわんや日本では、その十倍の高値がつけられるらしい。われわれ庶民の口には、そうそう入らぬ超高級食材である。
 フランス料理界の有志たちが集う会クラブ・ミストラルのホームページを見てみよう。かの帝国ホテルの料理人が、トリュフについてショートエッセイを寄せている。シェフ曰く、トリュフは通称“黒いダイヤモンド”と呼ばれており、『厨房に届いたトリュフを前に、どう調理しようか、どの食材と合わせようか、などと創作意欲がわいてきます。まるでオモチャを与えられた子供のようにはしゃいでしまう』のだとか。それだけ、腕の振るい甲斐のある食材なのだろう。『土の中で生まれ育ち、一生地表から出てこないトリュフは、土から生まれた食材とよく合います。じゃがいも、アスパラガス、セロリラ−ブ、ポワローなどは抜群の相性です。』なるほど。『昔から人々を魅了してやまないトリュフには、媚薬効果もあるといわれています。云々・・・』なぬ?! トリュフにそんな効果があったとは、またもや初耳である。時価数十万円。土中に隠棲し、独特の芳香を放つ。しかも媚薬としての効果もあるという謎の黒い宝石・・・。トリュフとは一体何モノなのか?

 リュフが、いわゆるキノコの一種であることくらいは誰でも知っているが、ではどんなキノコか?と聞かれると、ハタと返事に窮してしまう。キノコそれ自体が、そもそも不思議な生き物なのだ。そこでまず、キノコについて基礎知識を整理しておこう。
 数あるキノコ関連のサイトの中でも、奈良県の自然環境教育センターが運営するキノコに親しもうは、キノコについての知識を入門者にも分かり易く解説したサイトだ。それによると、キノコは、日本の義務教育では「花の咲かない植物」のひとつとして扱われているが、実はキノコは植物ではない。長い間、菌類は葉緑素を持たない下等な(進化の遅れた)植物と考えられてきたが、現在の生物学的分類では、動物・生物とは異なる第3の生物群として認識されているのだそうだ。また、光合成をしないキノコは、エネルギー摂取の仕方も植物とは異なる。主に落ち葉など腐食した植物を分解して養分を摂るが、その他にも動物や昆虫の死骸・糞から有機物を得ている種類もある。木材の化学成分にはキノコにしか分解できない物質が含まれているため、もしキノコがいなければ、森は樹木の死体で埋もれてしまうという。つまりキノコは、遺骸を無機質に効率還元する「森のリサイクル」を行っているのだ。
 世界中に何千種もあるといわれるキノコは、その形態も生態も千差万別だ。キノコといえば普通、傘型をしたものを思い浮かべるが、「キクラゲ」のようにゼラチン状のキノコもあれば、トリュフのようにずんぐりとした饅頭のような形をして地中に隠棲する珍種もある。菌類の中でキノコは、子嚢菌(しのうきん)および担子菌(たんしきん)のいずれかに属し、これらの菌糸から胞子を放出するために発達した器官(いわゆる俗にキノコと呼ばれている部分)の形態や、胞子の出来方によって分類される。キノコを植物に喩えると、地表に顕れている傘の部分が「花」、その裏側に着いている胞子は「種」にあたるというわけだ。事典を引くと、トリュフは子嚢菌類に属し、和名は西洋松露(セイヨウショウロ)とある。子嚢胞子とよばれる胞子をつくり、日本の“松露”というキノコに似て、樹木の根に寄生する菌根性のキノコ、というのがトリュフの正体だ。

 さて、トリュフが何類のキノコに属するのかは分かったが、一体どんな生態をしているのか?なぜこれほど高いのか?その歴史的背景は?など疑問は募るばかり・・・

 キノコ関連のサイトは予想外に多いのだが、これらの疑問に応えてくれるトリュフ専門サイトとなると、実物と同様、そう簡単には見つからない。ようやくたどり着いたのがThe Truffle,Black Pearl of Perigord。世界中の美食家をターゲットに、最高級品といわれる仏南西部ペリゴール産のトリュフをアピールするサイトだ。トリュフの生物学的な解説、トリュフのグルメ史や調理法はもちろん、トリュフの魅力にとり憑かれてしまったアマチュア栽培者向けに、育成時のポイントをアドバイスするコーナーまである。
 まずWhat is a Truffle?を見てみよう。そこには、トリュフの知られざる生態が詳細に紹介されている。概要はこうだ。トリュフは、石灰質の土壌に生えている柏やハシバミなどナラ属の木の根に寄生し、その木と共存共栄の関係を保ちながら成長するという。何かのきっかけで根に付いた菌糸は、宿主である木の根の内部に菌糸細胞を張り巡らし、土中からミネラル分を吸収する。またトリュフは、木が光合成によって生成した糖分を受け取り、その返礼として、親木に燐(リン)を与えるのだ。また、トリュフの菌糸は親木の水分摂取を助け、土中の石灰度を親木にとって最適な状態にコントロールする働きもするという。見事な共生コミュニケーションである。
 では一体なぜ、トリュフがこれほど高いのか・・・・。その第一の原因は、安定した収穫量が望めないことにある。自生のトリュフだけでは需要に追いつかないため、種菌を植え付けた幼木を育ててトリュフ栽培を行っている専門家がいるが、それでも収穫までには6〜8年もかかる。また、トリュフの成長は気温や雨量に大きく影響されることから、シイタケのように毎年穫れるわけではないのだ。
 物理的な希少価値もさることながら、トリュフがこれほどまでに珍重されるもう一つの理由は、トリュフを彩る数々の伝説やエピソードにあるようだ。これらがトリュフの神秘性をいやが上にも高め、世の美食家たちを虜にしてきたのだろう。ガストロノミーの歴史の項では、ヨーロッパのグルメ史におけるトリュフの変遷が紹介されていて興味深い。例えば、トリュフが食用として供されるようになったのは古代ローマ時代。幾夜となく続く饗宴では、エピキュリアン達がトリュフの芳香にさぞ酔いしれたことだろう。その後ヨーロッパでは、千年近くの間トリュフの存在が忘れ去られていたが、16世紀フランソワ一世の時代から、トリュフは宮廷料理の高級素材として再び歴史上に姿を現す。現在のトリュフ信仰は、この頃に根ざしたもののようだ。また、古代ギリシャ・ローマ時代のキノコについては、キノコをめぐる数々の逸話を集めたサイトきのこの話にも詳しい。それによると、植物学の開祖であるギリシャのテオフラストス(前4〜3世紀)の『植物誌』には、既にトリュフの名が記されているという。このサイトには、この他にもキノコをめぐる興味深い逸話がたくさんあり、この不思議な生物への興味が掻き立てられること請け合いだ。

 さて、最期に肝心の「日本でも本当にトリュフが穫れるのか?」というクエスチョンについて記そう。この問いの答えは「ウイ」である。岩手県のある村で野生のトリュフが発見されたという記事が、河北新報社 東北ニュースに掲載されていた。記事によると、国産トリュフを発見したのは有志の集いのメンバーで、昨年10月、直径約1〜2センチの白トリュフ(トリュフには白もある)約100個を発見したのだとか。会のメンバーは、まだ見つかっていない黒トリュフの発見に向けて、今年の秋の再探索に意欲を燃やしているらしい。生育条件さえ揃えば、日本でもトリュフが育つということが証明されたわけだ。また、昨今では、トリュフのプランター栽培の研究が、日本で盛んに行われているらしい。トリュフが安値で手に入る日も、そう遠くはないかもしれない。  が、しかし・・・である。トリュフは謎めいた高値の花であるからこそ人々を魅了するのであり、豚や犬と一緒に宝探しをする興奮こそが、トリュフ狩りの醍醐味ではなかったか。もしも近い将来、ハウス栽培で量産された国産トリュフが出回り、スーパーの野菜売場に「しめじパック」と一緒に「トリュフパック」が並んでしまったら・・・ 黒いダイヤモンドが、ただの黒い饅頭キノコになってしまうではないか!と心密かに危惧しているのは、果たして私一人だろうか。



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