[Web Travelers]
[写真] 栗田涼子
フランスが米産ホルモン牛肉の輸入を拒否したのを受けて、アメリカが関税200%という制裁措置をとった話は以前にお伝えしましたが、最近、それに対するフランス人の逆襲が顕著になってきました。コカコーラを一本90フラン(約千八百円)で売ったり、マクドナルドを襲ってたたき壊したりと、かなり派手にやってくれます。それにしてもフランス人ってのは、過激なデモンストレーションがよほど好きらしい。二百年経った今も、革命の反逆精神は健在のようです。


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ベルギーを食す!(その1)

月、隣国ベルギーをはじめて旅行した。いやもっと正確には、北へ北へと車を走らせているうちにベルギーへ辿り着いてしまった、というべきか。滞在日数はわずかだったにせよ、とにもかくにも憧れのベルギー初体験である。
ところでなぜ「憧れの」という形容詞がわざわざ前に付くのか。これにはちゃんと理由があるのだ。その一つは、この国の素晴らしき文化遺産にある。学生の頃から、ネーデルラント地方(現在のベルギーとオランダ)出身の芸術家の作品には、なぜだかとりわけ強く心惹かれるものを感じてきた。たとえば、15世紀の「北方ルネサンス」を代表する画家ヤン・ファン・アイクハンス・メムリンク、幻想画家として有名なヒエロニムス・ボッス、ブリューゲルにフェルメール、近現代ではジェームス・アンソールやポール・デルヴォー等々である。
時代も様式も異なる彼らの作品には、硬質なリアリズム、物語性、寓話、幻想、死、エロティシズムという幾つかの共通項があるのだが、こうした特徴的な芸術を生んだベルギーという土地柄・風土に、常づね興味と憧れの念を抱いていたからである・・・・などと、まず尤もらしいことを書いておいてから、肝心のもう一つの理由。それは「ベルギーには旨いものが多いらしいぞ」という巷の評判にある。自他共に認める食いしん坊の私、そう聞いたからには、美食の国ベルギーに憧憬をおぼえずにはいられまい!というわけで、またもや食の話題でいささか恐縮ではあるけれど、「ベルギーを食べる」バーチャルトリップへと皆さんを案内するとしよう。

ランス北部フランドル地方の町から、いよいよベルギーへ入国。現在は廃止されたため、さびれた無人の税関を車で通り抜けると、いきなり“Friterie”と大きな赤い文字で書かれた看板が目に飛び込んできた。フリット、つまりフライドポテトを売る屋台のことである。ベルギーでは、東京でラーメン屋を探すのと同じくらいの確率でこのフリットリーが見つかる。またレストランでは、頼みもしないのにフリットを山盛りにした皿が付いてくる。それほどベルギー人はフライドポテトが大好きで、フランスではよくジョークのネタに使われるくらいだ。それにしても一体フリットは、いつ頃どのようにしてベルギーの国民的料理になったのだろう。
餅は餅屋なら芋は芋屋(?)、何事も専門家に聞くのが一番だ。さっそく「Potato Web」に連載されている「ばれいしょエッセイ」を読んでみると、ヨーロッパ諸国にジャガイモが普及する経緯が詳しく記されている。それによると、まずコロンブスの新大陸発見によってジャガイモがヨーロッパにもたらされたのは十六世紀。スペインと関係の深かったイタリアや貿易の拠点だったオランダには、比較的早くジャガイモが紹介されたが、当時は貴族階級の間で観賞用植物として珍重されただけで、食用とは見なされなかったようだ。博物学の黎明期、この未知なる植物は、新し物好きの貴人達の好奇心と虚栄心を満足させるに充分な魅力を備えていたということか。
その一方で、一般庶民には当初まったく受け容れられなかったらしい。ここで興味深いのは、ジャガイモは有毒で、そのコブ状のグロテスクな形から、ライ病など疫病の原因になると民間では長い間信じられていたという話。この迷信が、ヨーロッパ諸国でジャガイモの普及を遅らせる大きな原因になったというのだ。また、ジャガイモが一般大衆に受け容れられなかったのにはもう一つ理由がある。その頃のヨーロッパでは、煮込みやフライなど、ジャガイモを美味しく調理する方法が庶民の間には知られておらず、また香辛料や肉類を手に入れることができない貧民は、ジャガイモをそのまま食べざるを得なかったためだ。つまり、ジャガイモは気味が悪くて、不味い食べ物だと見なされていたわけだ。
これほどまでに忌み嫌われたジャガイモが、庶民の食卓に上るようになったのはそれからずっと後のこと。ドイツでは比較的早くて十七世紀の三〇年戦争以降、イギリスやフランスでは18世紀半ばを過ぎてからという。特に1769年と1771年に起こったヨーロッパの大凶作がきっかけになった。フランスでは、政府が小麦に代わる食物を賞金つきで募集したところ、ジャガイモの栽培が提案され、それが採用されると瞬く間に庶民の間に広まったとか。
さて、肝心のベルギーではどうなのか? 残念ながら、ベルギーにおけるジャガイモ事情については触れられていないので推測するしかない。ベルギー観光局の「ベルギーの歴史」の内容と照らし合わせてみよう。このページには、ベルギー領土をめぐって繰り返された勢力争いの複雑な歴史の変遷がダイジェストにまとめられている。それによれば、十六世紀から十七世紀にかけて、現在のベルギーはスペイン領ネーデルランドであったから、当然、他の諸国に先駆けてスペイン経由で珍しい新世界の食物が紹介されていたはずだ。しかしながら前述のとおり、ジャガイモは長い間、庶民にとっては“犬も食わない野菜”だったから、フリットなるものがベルギーで食されるようになったのは18世紀末の大飢饉以降と思われる。浅間氏の記述によると、フランスではジャガイモを煮るのではなく、フライにして食べるのが主流だった。飢饉以降のベルギーはナポレオン統治下にあり、フランスの食文化の影響を受けていたに違いないから、油で揚げたジャガイモがベルギーで大衆化したのは、早くても十九世紀のはじめ以降ということになる。1830年に独立してからも、ベルギーは常に戦場として被害を被ってきたから、寒さに強く劣悪な生育条件にも耐えるジャガイモは、常にパン代わりとなってベルギー人の飢えを満たしてきたのだろう。つまりフリットは、戦争と飢饉がもたらした贈り物だったわけだ。

分と長くなってしまったが、ここでベルギー流フリットの食べ方をひとつご紹介しよう。『レストランでもカフェでも注文できるが、目の前で揚げてくれる街角のフリテリー(屋台)が私のお勧め。ここではソース選びも楽しみだ。ベルギー流でいくならば迷わずマヨネーズである。』これは「ベルギー情報」の「ブリュッセルはみだし通信」からの引用。その通り、フライドポテトにマヨネーズというのは意外に合う。カロリーの高さはちょっと気になるけれど、私も今は断然マヨネーズ党なのである。

てお腹も膨れたし、そろそろ喉も乾いてきた。となればカフェへ直行! いよいよ本場のベルギービールを味わおう。ベルギーのカフェには、相当な数の種類のビールを揃えているところが多い。注文する時は、メニューの中から銘柄を指定しなければならないのだが、それらが一体どういうタイプのビールなのか、ある程度の予備知識がないと迷うことになる。ベルギーのビールといえば、フランスでもお馴染みの“Leff”しか知らない私は、銘柄リストを前にしてウーンと唸ってしまう。前もって勉強しておくべきだった・・・ 仕方がないので、自分の苗字にちなんで選んだのが“Kriek”というタイプ。よく冷えたグラスに注がれて、やや赤みがかったビールが運ばれてきた。一口飲んで驚く。このほのかな香りは何だ? 後で判明したのだが、これは何とサクランボのビールであった。麦の深い味わいはないけれど、爽やかで軽くて飲みやすい。ビールというよりカクテルの感覚で飲める。これに味をしめて、この後もカフェに入るたびに違った銘柄を正味してみたが、ワインと同じく、どれも微妙に風味や色香が異なり、とても一言で「ベルギービール」を定義できるものではない。改めてその奥深さに思い入ること頻りであった。
またベルギーでは、ビールは舌だけではなく目でも味わうものらしい。それぞれの銘柄にはノベルティグラスがあって、シンボルマークのついた専用のグラスに注ぐのが原則なのだ。またそれに合わせて、様々なデザインの紙コースターがついてくるから、ビールを飲む快楽とともにグラスを眺め、コースターを集める楽しみも加わる。帰途につく頃には、ちょっとしたコースターのコレクションが出来上がったことはいうまでもない。

頃は日本でもベルギービールが気軽に手に入るようになり、じわじわとファンも増えている様子。ベルギービールに関するかなりマニアックなサイトも少なくない。
そこで、初心者のためのサイトを二つ紹介しよう。まずは、日本に数多くのベルギービールを輸入して国内販売している「小西酒造のホームページ」。「ベルギービールの基礎知識」では、ベルギービールの代表的なタイプが紹介されていて参考になる。更にもっと詳しく知りたい人は、「すばらしきベルギービールの世界」の基礎知識のコーナーを参照すべし。このページでは、ベルギービールの製法、代表的なタイプ、関連する用語などが詳細に解説されている。因みにサクランボビールのデータを引くと、チェリービールはさくらんぼ、あるいはその果汁を混ぜて再度発酵させたものを指し、単に果汁をブレンドしただけのものはクリークではない云々、かなりこだわった説明がありおもしろい。その他、多くのビールを試飲した結果データを記した項もあるから、800種類はあるといわれるベルギービールの中から、これぞという銘柄を選び出す時の心強いガイドになるだろう。

かがポテトとビール、されど深遠なるベルギー食の旅。さて次は何を食べようか。
このつづきは、次回のお楽しみ・・・。




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